第20話 ミルフィーユ

 冒険者ギルドの次は、ラフさんの案内で従魔ショップに来た。ココに従魔用タグを付ける首輪か足輪を買うためだ。

 前は足輪を付けていたそうだが、川に流された時に外れたようだ。今回はサンドラとお揃いの赤い革の首輪にした。


 こちらはペットや従魔にリードを付けない人も多いが、私は街中ではココに付けている。まだ子供とはいえ大型犬サイズの虎だし。今付けている犬用ハーネスが小さくなったら次はここでオーダーしよう。


「まだ時間ある? 甘い物好き?」

「好きです」


 火魔虎達は従魔ショップに一時預かりしてもらい、近くにあるというスイーツ店に向かう。

 従魔ショップの女性店長は「火魔虎の子供…ぐへへへ」とにやけていてちょっと不気味だったが、ラフさんが連れてきてくれた店だから大丈夫だろう。

 スイーツ楽しみだ。うきうきする。



 その店は、外観も内装もパステルピンクだった。

 ラフさんよくこんな女子高生が好きそうな店知ってたな。10代女子の私に合わせてくれたのだろうか。

 

 店員に案内されて窓際の席に座る。

 女性客しかいない。ヒゲのラフさんと男装の私、浮いてる。


 私達は店の一番人気らしい苺のミルフィーユと紅茶を注文した。


「店長にこれを渡してほしい」

 ラフさんが店員に紙袋を渡している。


 ミルフィーユはさすが一番人気、さくさくの生地にたっぷりのカスタードクリームと苺がとても美味しい。

 この体は悪役令嬢仕様のため食べても太らないので、カロリーを気にせず楽しめる。


「とても美味しいです。ラフさんは甘い物お好きなんですか?」

「大好物ってほどじゃないけど好きだよ」

 なんかミルフィーユを食べるラフさん、似合わない感じが可愛らしいなぁ。


「甘い物で一番好きなのはわらび餅って食べ物なんだけど」

「わらび餅…!」

 私も大好き!

「材料があれば作ってあげたいけど、わらび粉を切らしてるんだ。わらびは手に入るけど、粉にするのが大変で」

 わらび粉ときな粉、作ろう。


 帽子を脱いでいるラフさんに、レースのカーテン越しに陽の光が射し込んでいる。

 やや伸びた直毛ショートの黒髪。エメラルドみたいな瞳。

 ここまで鮮やかな緑色の目は見たことがない。



「ラフ! 来てくれたのね! 魔蜂の蜂蜜ありがとう~!」

 店の奥からフリルのエプロンを付けた茶髪ポニーテールの女性が出てきた。大きな胸がエプロンを押し上げている。


「なかなか来てくれないんだもの~!」

「男が一人で来れる店じゃないよ」


 それで私を連れてきたのか。

 昨日渡した蜂蜜、この人にあげたんだ。


「え~もっと来てほしい!」

 冬なのに襟ぐりが深い服。胸の谷間が凄い。


 …私は悪役令嬢仕様だから、数年後の胸はそれなりに育ってるはず。


「ヒゲモジャになってる~。ヒゲない方がいい!」

 女性がピンクの口紅を塗った唇をとがらせている。


 なんかミルフィーユが喉につかえる。


「次はヒゲ剃って来て~」


 この人いつまでここで喋ってるつもりだ。

 私今とっても悪役令嬢に共感する気持ち。


「ラフ、お連れさんもいらっしゃい」

 コックコートを着た男性が話しかけてきた。

「嫁がうるさくてすまん。久しぶりだな」

「ああ、久しぶり」

「うるさいって何よ~」

「メモに書いたとおり、あの蜂蜜でケーキと焼き菓子を作れるだけ作ってほしい。全部買う」


 …なんだ、蜂蜜は材料の持ち込みか。この人達夫婦か。なんだ…そっかぁ。

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