第32話 王領の森

 王都の一画に、王領の森がある。

 ラフさんが運動不足のサンドラを森に連れて行きたいとのことで、父が許可を取って、次の休日はその森で過ごすことになった。

 王宮騎士団の演習を兼ね危険な魔獣や獣は定期的に駆除されていて安全らしい。


 メンバーはラフさんと護衛のギーさん、サンドラとココ、トリスタンと私、侍女ソフィーと御者。

 父も行きたそうだったが、休日までラフさんが父と一緒なのはあんまりだろうとトリスタンが止めてくれた。側近のガスパーさんはお休み。


「お兄様、次の休日のマリーの予定はわかりますか?」

 森にマリーが現れたらホラーだ。

「いや知らない。でもジョルジュ殿下は公務が入っている。王領の森は許可なく入ったら罰せられるから、マリー嬢が森に来ることはないと思うよ」


 先週マリーがラフさんに会うために公爵邸に押し掛けたことについては、父からピアフ男爵に抗議し、王にも報告してある。


 トリスタンは非常識なマリーに呆れていた。トリスタンは完全に逆ハーメンバーから外れてると思う。

 トリスタンから話を聞いた第二王子は「マリーはフットワークが軽いな」で終わりだったらしい。

 第二王子よ、マリーが軽いのは尻だ。



 ◇◇◇


 王領の森までは馬車で移動する。通りで火魔虎を見た子供がギャン泣き。


 森に着いたら少しココに乗る練習をしようと思っていたが、火魔虎達は駆け回りたくてうずうずしていたようで、すぐに森の奥へ駆けていった。


 正午頃集合することにして一旦解散する。

 ソフィーと御者は湖の畔で昼食準備と馬の世話。ギーさんはトリスタンを誘ってアスレチック施設に向かった。ギーさん護衛対象と離れていいのか?


 残ったのは私とラフさんだ。

「管理人お薦めの花畑に行ってみようか」

「はい」

 ふたりきりになりたかったけど、なった途端なんか緊張してきた。


 森の管理人に借りた地図を見ながら森の中を進む。遊歩道が整備されていて、ハイキングにちょうどいい。


 私の風魔石四輪バギーの改造が凄いとか、公爵邸の料理が美味しいとか、たわいない話をしながらラフさんと並んで歩く。


 木漏れ日が入るとラフさんの瞳が鮮やかな緑色になる。とても綺麗だ。


 森が途切れ視界が開けた。

「うわぁ…!」

 白、紫、黄色の野の花が一面に咲いている。

(こんな素敵な場所があったなんて!)


 珍しく乙女全開でお花畑に夢中になっていたが、ふと(この場所、ひょっとして攻略対象者とのイベント用なんじゃ?)と思いラフさんの方に顔を向けると、私を見ていたラフさんと目が合った。


 え?


「どうかされましたか?」

「いや」


 えっと、今の感じって。


(いや、自意識過剰かもだし)


 しばらく花畑を散策した後は、来た時と別ルートで湖に向かう。


「ラフさん! この実、コクトウモドキですよ!」

 黒糖のような味がする実がなっているのを見つけた。黒糖は南の国の特産で我が国では全て輸入品だ。王領の森は原則採取禁止だが、森の中で消費するくらいの少量なら構わないと管理人が言っていた。


「デザートにわらび餅を持って来たので、のせて食べましょう!」

「ははっ」

 ラフさんが笑った。

「やっぱりアディだな」


 …どの辺がやっぱり? 食い意地が張ってる辺り?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る