第33話 ヒロイン退場
ラフさんが公爵邸に滞在するようになってニか月半。私は家にラフさんがいることに慣れた。
週末は一緒にランチや買い物、王都観光をしている。私にとってはデート(ただし侍女と護衛付き)だ。
街歩きの時は毎回悩みながら女の子の服を選んでいる。イケメンのラフさんの隣を歩くのだから、派手すぎず地味すぎない、程よく可愛い格好でいたい。
時々はサンドラとココのために王領の森に通う。街も楽しいけれど森も好きだ。
王領の森では大抵、ラフさんと私、サンドラとココ、護衛ギーさんと侍女ソフィーの三組に別れて過ごす。
一度、午前中のアスレチックで疲れて昼食後にシートの上で寝てしまい、目が覚めたらサンドラとココにぴったり挟まれていたことがあった。
右もモフモフ左もモフモフ、夢のようだ。温かくてフカフカ、たまらない…!
大きなサンドラにぎゅーとしがみついていると、ラフさんに「羨ましいな」と言われた。泣く泣く場所を譲ってあげようとしたら、「そっちじゃない」とのことだったので、また挟まった。極楽か…。
前回は焚き火をしながら焼き芋を食べた。
ほくほくのお芋を頬張っている私を見て、ラフさんが「リスみたいだ」と言って笑った。野外だとついお行儀が悪くなってしまう。気を付けないと。
次回は何をしよう。湖でスケートできないかな? 楽しみだ。
◇◇◇
学院の冬季休暇まであと三日となった週末、私とトリスタンは王宮から戻った父に居間に呼ばれた。
ラフさんは今朝から留守にしている。冬の大潮の時に稀に現れるという魔亀を捕りたいらしい。
冬季休暇中、私達親子とラフさん一行はテグペリ領ヤカ村の公爵家別邸で過ごすことになっていて、そちらで合流する予定だ。
「えっ⁉ マリーが出国した⁉」
「
猊下とは、宗教国家である教国の枢機卿のことだ。
彼は我が国の王宮魔術師団を訪れ、マリーと合同で聖属性研究を行っていた。
マリーは希少な聖属性持ちとして王宮魔術師団から研究への協力要請を受けていたが、これまでは学院の勉強で余裕がないと断っていた。
しかし、ラフさんの紹介をトリスタンにも第二王子にも断られ、ラフさんが王宮魔術師団に通っていると知り、ニか月程前から協力要請に応じていた。
ただ、他の研究室と違って聖属性の研究室だけは施療院に併設されているため、ラフさんに会う機会はなかったと思われる。
なのに、学院を休んで聖属性研究室に通っていたので意外だったのだ。マリーが学院にいないおかげでオリビアは機嫌がいい。
警戒していたが、王宮魔術師団や公爵邸の門前でマリーがラフさんを待ち伏せするということもなかった。
「男爵令嬢は自分と同じ聖属性持ちの猊下に心酔したようで、教国で聖女の修行をすることにしたそうだ。学院は退学したと聞いた」
(あのマリーが⁉ 洗脳されてね⁉)
私が驚いている間に、父とトリスタンが話を進めていく。
「昨日、猊下と男爵令嬢が国境を越えたのが確認できたので、ジョルジュ殿下にも男爵令嬢の出国を知らせたそうだ」
「…殿下、このところマリー嬢が全く学院に来ないから心配してたけど、落ち込んでるだろうな…」
第二王子…残念王子…。
「猊下はどんな方なのですか?」
「自分にも他人にも厳しい清廉な方だ。時に苛烈なほどだが…。まだ若いが威厳がある。銀髪に灰色の瞳で見目麗しい」
苛烈ってワードが怖いんだけど。
銀髪の美形で聖属性持ちの聖職者。モブっぽくない。攻略対象者(ヤンデレ枠)くさい。
「聖女の修行は何年くらいかかるんでしょう? 終わったらマリー嬢は帰国するんでしょうか?」
「わからないが、教国が聖女を手放すとは思えない。教国を拠点に聖女として各地を巡るのではないだろうか」
「男爵は止めなかったのですね。養女にしたのに教国に行かれては、男爵にあまり旨みがない気がしますが」
ちなみにマリーの母親は、娘が男爵家の養女になった後に平民の男性と結婚している。
「男爵令嬢絡みの醜聞もあるし、陛下から『教国が聖女として迎えたいと言っている』と言われては、男爵に否やはない。男爵令嬢を教国に出す代わりに、教国から聖属性持ちが施療院に派遣されることになったしな」
王家はマリーを第二王子から遠ざけることができて、渡りに船ってところかな。
「結局、マリー嬢はラファエル殿下には会っていないのでしょうか?」
「ああ。施療院とは敷地が離れているから、視界に入ったこともないはずだ」
これはもう、マリーが猊下ルートを選んで、ラファエルルートは潰れたってことで確定だよね。
…良かった。
体から力が抜けて、ソファーに沈む。
(良かった…。本当に良かった…)
「それで、本題なのだが」
本題?
「ジョルジュ殿下の婚約者候補に、アデルが浮上している」
なにっ!!
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