第34話 本題

「私が婚約者候補って、ドゥモン侯爵令嬢はどうなったのですか⁉ おばあ様から妃教育を受けているのですよね?」

「母上がドゥモン侯爵令嬢をいたく気に入って、孫の嫁に欲しいと言い出した」

「はぁ⁉」

「トリスタンはオリビア嬢と婚約しているから、あるとすればイーサンだが」


 なんか思わぬ展開に…。


 祖母は王妃と手紙のやり取りをしているらしい。

「ジョルジュ殿下と男爵令嬢の噂は当然母上も知っていて、ドゥモン侯爵令嬢の価値がわからない殿下に彼女が嫁ぐ必要はない、殿下の婚約者に自分はアデルを推したのに選ばないからこうなったと、今回は自分の望みを通すつもりだ」


 いやいや、アデルが婚約者でも第二王子はマリーに惚れてたから。


「いくら陛下の叔母とはいえ、殿下の婚約を解消させるのは無理でしょう?」

「それはそうだが。両陛下は、ドゥモン侯爵令嬢の希望を尊重するおつもりだ。男爵令嬢の問題が片付いたので、ドゥモン侯爵令嬢は王都に戻すことになっている。今頃はサンジュの領主館に文が飛んでいるだろう」


 手紙のやり取りには魔鳩が使われる。決まった鳩舎に飛ぶもので、悪天候でなければ日数はかからない。


「ドゥモン侯爵令嬢は殿下と結婚したいと思ってないのかな」

「学院で第二王子がマリーといちゃついてるの見てますからね」

「…そうだね」

「お父様、私は第二王子とは結婚したくありません」

「わかった。今日は、ドゥモン侯爵令嬢が婚約解消を望んだ場合の打診だったが、アデルとイーサンの意向を確認していないのでお答えできないと申し上げた。アデルについては速やかに辞退しておこう」


「ドゥモン侯爵は婚約解消には反対じゃないかな」

「殿下に非があっても、婚約解消となれば令嬢には傷だからな。だが、家格は落ちるが初婚の子爵家嫡男との婚約が用意されるのであれば、醜聞でけちが付いた婚約は白紙にして、お互い新たな婚約で心機一転、ということで話がまとまるかもしれない。いずれにせよ、ドゥモン侯爵令嬢次第だ」


 なんだかなぁ…。


「そもそも、ノージ家が了承しているのか確認できていない。弟とイーサンは地方にいて全く知らない可能性が高い。夫人は母上から聞いているかもしれないが、そのまま話が進むと思ったかどうか」


 イーサンは学院卒業後、テグペリ領の叔父の下で働いている。領内を回っていてサンジュにはほとんどいない。


「ノージ家は、実際に婚約解消になった後に縁談が来れば状況的に断れないだろう。子爵家だし、話を持ち込んだのは母上だ。いい話とは思うが、イーサンに恋人がいないとも限らないしな」


「…イーサンはドゥモン侯爵令嬢のこと好きだったかもしれない」

「ええっ⁉ お兄様ほんとですか」

「イーサンに聞いたわけじゃないから違うかもしれないけど。学院で二人で話してるのを見たことがあるんだ。イーサンはわざわざドゥモン侯爵令嬢を待ってたみたいだったし、しかもその日、イーサンが家で花の図鑑だの詩歌の本だのを見てたんだよ」


 あのイーサンが花と詩歌…。それは確かに変。


「難しい顔してため息ついたりしてたから声を掛けたら、なんかあたふたして『なんでもない』って言ってた。その後も考え事してる感じで、叶わぬ恋に胸を焦がしてるのかも、なんて当時思ったんだよね」

「へえー」

「ほう、青春だな。とりあえず、ノージ家に手紙を出そう。王家とドゥモン家の話し合いが行われる前に、イーサンの意向を確認しておく必要がある」

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