第18話 わさび
春になれば、虎の生息地に連れていくつもりだった。
少し別れが早くなっただけだ…。
目が潤みそうになるのを我慢していると、ラフさんが湯気が出ているカップを私の前に出してくれた。
(…この香り、色)
「いただきます」
(緑茶だ!)
「君さえ良ければ、ココを引き取ってくれないか」
「え」
「元々乳離れしたら引き取り手を探すつもりだったんだ」
「いいんですか!」
嬉しい!
「火魔虎は賢いし攻撃力が高い。いい相棒になるよ」
「ありがとうございます。おいくらですか?」
高いはずだ。誕生日プレゼントを前倒ししてもらおう。
「お代はいらないよ。もう諦めていたんだし、ここまで育ててもらったんだから」
「でも」
「じゃあ、代金の代わりに採取に付き合ってくれる? この障壁はいいね。雑魚を気にしなくていい」
ラフさんの目的地である森の奥の渓流まで、トンネル状の障壁を出しながら、サンドラ、ラフさん、私、ココの順で歩く。
火魔虎を恐れてか、魔獣は全く寄ってこない。
障壁、木の枝のガードにしか役に立ってない。
(この人背が高いな…)
広い背中を見ながら歩く。
30歳くらいだろうか。火魔虎をタダでくれるなんて、随分太っ腹だ。
火魔虎は騎士団の幹部が連れててもおかしくない。軽装備だがかなりいい防具のようだし、それにあれはアイテムボックスだ。この階層にいるランクじゃない。
「この渓流にわさびが生えてるんだ。魔
「わさび!」
「ほら、これだ」
緑色! 本わさび⁉
ラフさんが魔岩魚釣り、私がわさび採りをすることになった。一応それぞれにかまくら状の障壁を出す。ラフさんは魔獣除けの香を焚いてくれた。
火魔虎達は狩りに行った。ココはサンドラから狩りを学ぶだろう。私では教えることができないから幸運だった。
十分わさびを採った後、スイちゃんへのお土産にするため、ラフさんに魔岩魚釣りを教えてもらう。
「水魔ハシビロコウは見たことがない」
「庭に居着いてて。川に流されてるココを魚と間違えたんでしょうね」
帽子の影でわからなかったけど、横に座って近くから見上げると、ラフさんの目は綺麗な緑色だ。
鼻筋が通っていて、顔の下半分は黒いヒゲに覆われている。思ったより若いかもしれない。ヒゲを剃ったら美形な気がする。
「せっかくだからここで釣りたての魔岩魚を食べて行かないか? 俺が作るよ」
時間はまだ大丈夫だ。お言葉に甘えよう。
ラフさんは魔岩魚の塩焼きと、身を薄くスライスしたものを皿に出してくれた。
「これ…」
「生に抵抗あるなら無理して食べなくていいから。刺身っていうんだ。おろしたわさびをのせて、これにつけて食べる」
「醤油…!」
「よく知ってるね。このあたりでは流通してないのに」
「探してたんです! どこで買えますか?」
「この国では売ってないね。俺のを分けてあげるよ」
「ありがとうございます!」
やった…! 和食に遠慮はしない。
「あの、ご迷惑でなければ、緑茶も分けていただくことはできませんか?」
「いいよ、たくさんあるから。好きなんだ?」
「はい! どこで作られてるんですか?」
「醤油も緑茶も、大陸の東の島国だよ」
春の旅、行き先を虎生息地からその島に変更したい。転移で買い物に行けるようになりたい!
「そこに行くのは大変でしょうか?」
「鎖国してるから他国の人間は入れないよ。交易に出てる島の商人から買うしかない」
「そうですか…」
がっかり。
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