第17話 邂逅

 公爵邸の図書室で調べたところ、この大陸の北東部に虎の生息地があるのだが、かなり遠い。

 そこからヒコミテまでココを連れて来たのだとしたら、スイちゃんの飛行速度は相当速いことになる。

(野生に帰すならそこまで行かなきゃだなぁ。国境を越える長旅になるけど)

 夜は家に転移すればいいから宿代はかからないし、帰りはすぐだ。14歳の誕生日プレゼントはその旅にするか。



 ココはすくすく成長し、大型犬サイズになった。今は冬毛でモコモコだ。

 家の中で遊ぶと家具に被害が出るので、庭に土魔法でかまくらを作ってココの家にしている。

 猫みたいに甘えてくるココを存分にモフらせてもらい、ぽっこりお腹を出して寝ている姿を愛でる。至福の時間だ。


 スイちゃんは相変わらず、冬になっても定位置に立ちっぱなしだ。頭に雪が積もってることもある。雪重くないのかな?


 魚以外は捕ってきちゃダメと言い聞かせたら、首を縦に振っていた。多分言葉は理解していないが、私の知る限りココの後は魚しか捕っていない。


 水魔ハシビロコウを初めて見た庭師は驚いていたが、動かないのですぐに気にならなくなったようだ。


 一応、外は寒いだろうとスイちゃん用かまくらも作ったのだが、入っているのは見たことがない。なお、未だ飛んでいる姿も見ていない。



 ◇◇◇


 今日はココも一緒にダンジョンに潜っている。

 お肉を食べるようになって食費が嵩むので、狩りの練習を兼ねて自分で調達してもらいたい。


 1~3階層は初級者向けで強い魔獣は出ない。今日行くのは3階層の森の外れ、魔蜂がいるエリアだ。


 魔蜂の蜂蜜の納品依頼はよく出ているが、受ける冒険者はほぼいない。

 魔蜂は小さくて数が多いので、剣等の武器とは相性が悪い。広範囲の魔法を使うか薬剤を使うのが効果的だが、魔法が使える冒険者はあまりいないし薬剤は高い。それに魔蜂で起こるアナフィラキシーが恐れられているためだ。


 人気ひとけがないエリアは時空魔法を使う私には都合がいい。とはいえ人がいる可能性が皆無ではないので転移は使わない。


 自分とココを結界で覆って魔蜂の攻撃を全て無視し、こちらからも攻撃せずに進む。

 マークしている魔蜂の巣を順に回って、蜂蜜を分けてもらうのだ。



 蜂蜜を集め終わり、ココに狩りをさせようと森の中を歩いている時だった。


「ぎゃー!!」

 ドンッ!

 大きな虎がこちらに猛スピードで突っ込んできた。

(うわぁ結界張ってて良かった、焦った〜!)


「サンドラ!」

 男の人が走ってくる。


 高さ2mの防弾ガラス障壁(強)を出し、結界を雨ガッパのように体に纏う形に変えた。形が複雑な結界は魔力操作の難易度が上がる。


 目の前の大きな虎は障壁をペロペロ舐めだした。

(ひぇ、餌としてロックオンされた!? あ! 足が赤い)


「無事か⁉」

 背が高い黒ヒゲの男性が障壁の向こうから確認してくる。


「障壁を出していたので大丈夫です」

「良かった。俺の従魔が申し訳ない」

「火魔虎ですか?」

「火魔虎だよ。そっちの子虎は…君が川から助けてくれたのか?」

「え?」

 下にいるココを見ると、障壁越しに火魔虎にすり寄っている。


「三か月ほど前に見つけたんじゃないか?」

「そうです。うちのペット(?)がどこからか連れてきまして」

「恐らくこのサンドラの娘だ。親子で川辺で遊んでいて娘が流されて、探したが見つからなかった」

「この子の足は白いですよ」

「火魔虎は成獣になると足が白から赤に変わるんだ。動物の虎の足は白くない」

「!」

 そう言われてみれば、虎に白靴下はないかもしれない。


 ココの前の障壁に穴を開けてみると、ココはすぐに火魔虎の頭に抱きついて、火魔虎は大きな舌でココを舐めだした。

 

 感動の親子の再会…!



 休憩して火魔虎の主とお茶をすることになった。

「俺はラフという」

「アディといいます。…この子はココと呼んでいます」


 二人と二頭をドーム状の防弾ガラス障壁(弱・通気孔有り)で覆い、土魔法でテーブルと椅子を作る。

 男と火魔虎を警戒して雨ガッパ結界は纏ったままだ。


「見事な土魔法だ」

「いえ…」

 

 ココはずっと母虎のサンドラにじゃれついている。


「サンドラの娘を育ててくれてありがとう」

「いえ…」


 ココをこの人と母虎に返さなければならないことに気が付いた。

 名前だって、ココじゃなかったはずだ。

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