第9話 港町
イーサンと馬を並べて歩かせて、港町に向かっている。後ろに侍女ソフィーを乗せた馬車、私達の周りには護衛がいる。港町では二泊する予定だ。
「おばあ様が私と第二王子の婚約話を進めてしまわないか、すごく心配」
「第二王子はイケメンでいいやつなんだろ。トリスタンが褒めてたぞ。なんで嫌なんだよ」
「王宮にはおばあ様みたいな人がいっぱいいるんだよ」
「…それは嫌かもな」
「おばあ様が話を持っていっても王家に却下されるようにしたいんだけど」
「ドゥモン侯爵令嬢に負けてるとこが多ければいいんだろ。属性の数は負けてる」
属性の数で負けていても悪役令嬢は婚約者だった。
「ドゥモン侯爵令嬢って美人?」
「私もどんな人か知らないんだ」
「アデルは顔はいいからなぁ」
顔はってなんだ。
「私が負けてるとこ、社交性が無い」
「社交性ねえの? 男装のせいで浮いてるとか?」
「お兄様のお下がりを着るのは今回テグペリ領に入ってからだから。第二王子主催のお茶会で誰とも喋ってない」
「やる気ねえな。あとは…病弱ってことにする?」
15歳に相談する元28歳。
祖母は私が夕食の席に来ないことについて、子供がつむじを曲げている程度にしか思っておらず、無視することにしたようだ。
トリスタンも大して気にしてなかった。以前のアデルも、機嫌が悪くて部屋から出てこないことあったしな。
トリスタンは収穫祭準備で忙しい事務局の手伝いをするとのことで、サンジュに残っている。
なんか私ばっかり遊んでて申し訳ないけど、12歳だから許して。
馬を歩かせたり馬車で休んだりしながら進むと、海が見えてきた。日の光が反射して海面がキラキラしている。
町は人は少ないが明るい雰囲気だ。港に漁船が停泊し、空にはカモメが飛んでいる。
町を散策した後、宿の食堂で夕食を取る。奥のテーブルに私とイーサン、周りにソフィーと護衛達が座る。
他にも客が数組いて、楽しげにお酒を飲みながら食事をしている。
地中海料理っぽいメニューだ。イーサンから釣りの話などを聞きながらどんどん食べる。私もお酒飲みたいなぁ。
翌朝は、市で水揚げされたばかりの魚介類を見て回った。
こっちでもタコ食べるんだな。たこ焼き食べたいけどソースが無理か。
鰹節ってどうやって作るんだろう。煮干しは煮て干せばいいのか? 作り方を知っていれば出汁が取れて、出汁があれば明石焼きが作れたのに。
昆布は…市で海藻売ってないな。
イーサンと海岸でエビを釣っていると、白い猫が寄ってきた。釣り餌にしている魚の切り身を分けてあげる。
ん?
「水玉模様の猫…」
頭から背中にかけて、白地に青の水玉。
「水魔猫じゃね? こんな海辺にいるんだな」
水魔猫は毛繕いの代わりに水を纏わせて体をきれいにする。魔獣商ではペット枠で売られている。
食事が終わった水魔猫は、私のすぐ横で海の方を向いて香箱座りをしている。
背中を撫でてみる。普通の猫より少し毛質がしっとりしてるような。
顔を見ると、目を細めて今にも寝そうだ。
「連れて帰るか?」
サンジュの領主館で暮らすつもりだったけど、祖母がいるからな…。
「ううん、やめとく」
可愛いけど使用人の仕事を増やしてしまうし、まずは自分がどこで暮らすか決めないと。
食べ歩きをして猫と遊んで、軽く護岸工事もして、楽しい一日だった。
特にエビ釣りスポットを教えてもらえたのが良かった。転移でまた来よう。
エビは宿に差し入れ、その晩はアヒージョやビスクを出してもらった。ごちそうさまでした。
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