第27話 [番外編] 侯爵令嬢クロエ・ドゥモン (前)
アデル様を初めて見たのは、第二王子ジョルジュ殿下主催のお茶会の時だ。私は15歳だった。
私はそのお茶会で必ず殿下と親しくなるよう両親に言われていた。
貴族のほとんどが一つの属性しか持たない中、私は風と土の二属性持ちだ。両親は私が殿下の妃になることを望んでいる。
二属性持ちといっても、私は魔力量が少ないので大した魔法は使えない。
癖のある焦げ茶色の髪と同じ色の目で、見た目が可愛くないのもわかっている。
殿下は輝く金の髪、サファイアのような青い瞳のとても美しい方だ。殿下と並んだら、私は一層地味だろう。
お茶会で殿下に最初に挨拶したのは、テグペリ公爵家のトリスタン様とアデル様だった。
淡い金色の髪と空色の瞳で、人形のように整ったよく似た顔立ちのご兄妹だ。
アデル様は魔力量がとても多く、有力な妃候補の一人だと母が言っていた。私なんかよりお似合いだと思う。
てっきり兄のトリスタン様と一緒に殿下のそばでお話しされるのだろうと思っていたら、アデル様は会場の隅のテーブルで一人黙々とお菓子を召し上がっていた。
殿下とお話ししなくていいのだろうか。人の目が気にならないのだろうか。
美しいお顔も豊富な魔力も羨ましいが、何より一人で平気な様子が羨ましいと思った。
◇◇◇
我が家で催すお茶会の招待状を書くよう、母から令嬢方のリストを渡された。
私が陰で「二属性持ちなだけが取り柄」と言われているのを知っている。このリストの令嬢方も言っていることだろう。
リストにはアデル様の名前もあった。両親は兄とアデル様を婚約させたいようだ。
二つ年上の兄は意地が悪い。いつも私の容姿や魔力量を貶してくる。
アデル様からは欠席の返事が届いた。断られる気はしていた。
学院に入学した年の秋に、私は殿下と婚約した。
王妃様からお茶に招かれたり、何度か殿下と会う場が設けられていたので驚きはない。
殿下の美しさを近くで観賞できる。令嬢方の憧れの王子様と結婚できる私は幸せなのだろうと思う。
殿下はお優しいが、婚約者が私で内心がっかりされているかもしれない。
あまり勉強は得意ではないが、妃教育に励み、せめて内面は磨かねばと思っている。
当家からテグペリ公爵家に兄とアデル様の婚約を申し込んだが、断られたらしい。
兄は不機嫌だが、殿下と婚約した私に当たることはない。婚約者になって良かったと思うことの一つだ。
私に一年遅れて、殿下が学院に入学された。
学院で共に過ごすことはほぼない。王宮で定期的にお会いしたり、婚約者として出席が求められる場でエスコートしていただくくらいだ。
私が第三学年に進級した春に、アデル様が入学された。
テグペリ公爵家の令嬢でトリスタン様の妹ということもあって注目の的だ。
月のように玲瓏な美貌に飾り気のない男装というお姿に、皆目が惹き付けられている。
近寄りがたい雰囲気を纏っていて、生徒達はアデル様を『孤高の麗人』と呼ぶようになった。
◇◇◇
殿下は最近、ピンクの髪と目をした男爵令嬢と懇意にされている。
何をきっかけに親しくなったのか知らないが、頼みもしないのに、周りの令嬢方が二人の親しい様子を私に報告してくる。
学院のカフェの離れた席から、殿下、トリスタン様、モルガン様、男爵令嬢が四人で食事をしているのを見たが、とても可愛らしい令嬢だった。しかも希少な聖属性持ちと聞いている。
殿下が惹かれるのもわかる。殿下のしたいようになさればいい。私は王家とドゥモン家に従うだけだ。
私には学院にお気に入りの場所がある。
あまり使われていない棟の二階にある、絵画が所狭しと飾られた部屋だ。
殿下と男爵令嬢の話題が飛び交うようになってから、殿下がいそうな場所を避け、絵画専用物置部屋という感じのその部屋で一人で空き時間を過ごすことが増えた。
その部屋に入ると最初に窓を開けて、風魔法で埃を外に出し空気を入れ換えるのだが、窓から見える庭のベンチに、アデル様がお一人でやってくることがよくあった。
アデル様も
アデル様はこちらには気付いておらず、聴いたことがない曲調の歌を口ずさんだり、土魔法で奇妙な形の土人形を作ったりしていらした。
土人形の大きさは成人男性の1/4程で、興味を引かれてつい眺めてしまう。
アデル様は土魔法で作った台の上で「コムスビ」「セキワケ」と名付けた土人形二体に取っ組み合いをさせていた。
審判らしき「ギョウジ」という土人形まで操っている。
「ハッケヨオイノコッタノコッタ」というのは呪文だろうか? 私も土属性持ちなのに不勉強で情けない。
格闘する土人形は他にも「オオゼキ」「ヨコヅナ」と増え、それに伴い「ホンジツムスビノイチバン」「ザブトンヲナゲナイデ」と呪文も増える。
いつの間にか観戦に熱が入った。
アデル様は魔力量も魔力操作も一流の魔術師並みだ。私ではなく、アデル様が殿下の婚約者になるべきだったのだ。
私は小振りのスケッチブックを広げ、土人形達のデッサンを描く。
貴族の家に生まれたのでなければ、画家になりたかった。
絵に囲まれ絵を描く。この部屋だけが、私の心が自由になれる場所だ。
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