第40話 [後日談] スイちゃんとラフさん

 ラフさんはせっせとスイちゃんを餌付けしている。


 ラフさんとの結婚式は、私が学院を卒業した後だ。今はメーテリンクとエノナイで離れて暮らしている。


 週に一度学院の休日に、私がエノナイのラフさんの領主館へ転移して会いに行く。


 公爵となったラフさんが賜った領地は王都から遠く、彼は権力の中枢に極力近付かないようにしているので、覚悟していた社交やロイヤルな親戚付き合いは最低限だ。

 祖母のおかげで耐性がついていたことも、思ったほどストレスを感じない一因だろう。


 領主館の執務室で、真剣な顔で書類を見ているラフさんも素敵だ。

 額にかかるサラサラな黒髪の下の、長い睫毛と伏せられた目。通った鼻筋。綺麗な形の唇。がっつり観賞してしまう。


 結婚したら、私も領地のために働きたい。道の舗装と掃除は得意だ。


 時々は、ヒコミテの私の家で一緒に過ごす。

 ラフさんはヒコミテに来る時は毎回、魔岩魚いわなや魔あゆ、魔ますを持参して、池がいっぱいになるまで放している。


 スイちゃんはラフさんが来たら必ず美味しい魔魚を大量に食べられると覚えて、最近はラフさんの姿を見つけると、彼(の持っている魔魚)に向かって歩き出す。


 なんと今日は、ラフさんの手から直接スイちゃんの口に投げ込まれた魔魚を食べていた。


(そんなこと許す鳥じゃないと思ってた…!)


 それに、私よりラフさんに撫でさせる時間の方が長い。

 貢ぎ物の量とお触りOKの時間は比例するのか? 私は13歳の頃から貢いでるのに…。


 庭のベンチに座って、戯れるラフさんとスイちゃんを妬ましげに見ていると、サンドラとココが寄ってきて慰めてくれた。


「サンドラ、ココ、ありがとう」ぎゅー

 ああ、モフモフは至高…。


「俺も混ぜてほしい」

 笑顔のラフさんがこちらにやってきた。魔魚を触った彼にクリーンの魔法をかける。

「ありがとう」


 スイちゃんは定位置に戻っている。ちょっとお腹が膨れてる気がする。


「アディ、はい」

 ラフさんが私の口の前に苺大福を出した。

(あーんですか…)

 大きく口を開けて一口食べる。もぐもぐ


「食べてるの、可愛いな」

 そう言って、ラフさんはまだ食べてる私の口に、ちゅと軽くキスをした。


 ラフさんの餌付け、至高。


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お下がり愛用悪役令嬢 @su_zu_

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