第2話 乙女ゲーム
王宮の庭で、突如私は『自分』を思い出した。
日本人女性がいきなりヨーロッパ風仮装ガーデンパーティーに放り込まれるドッキリ? でもアデルの記憶もある。
私は混乱した。とりあえず寝た。
早くに寝たせいか、夜中に目が覚めた。
広い部屋、ゴージャスな調度品、天蓋付きの大きなベッド。
違和感しかない。
(……夢オチじゃなかったのか。─そうだあの本!)
魔術書かもと思っていたが、あれは日本語、少女向けライトノベルだ。
本棚からその本を抜き出して表紙を見たら、読む気が失せる恥ずかしいタイトルだった。堪えてページをめくると、冒頭に登場人物紹介があり、カタカナの名前が並んでいる。
「…え?」
第二王子、兄、そして私と同じ名前。
気が急いて、一気に最後まで読み進めた。
混乱した私は、とりあえず寝た。
◇◇◇
「昨日は緊張して疲れたので、帰ってすぐ寝たのです。それで夜中に目が覚めてしまって、明け方まで起きていました。ただの寝不足です」
トリスタンは「そう」と言って朝食を再開した。
上品に食べているが、蜂蜜たっぷりのくるみパンは嬉しそうだ。好物だもんね。可愛い。
◆◆◆
例の本は人気乙女ゲームを小説にしたものだった。いわゆる逆ハーものだ。
主人公マリーは男爵の弟の娘で、平民の母と二人で下町で暮らしていた。
平民は無属性で魔法が使えない者が多い。マリーは無属性と思われていたが、病を患った母の快癒を願ったところ、瞬く間に病は消え去った。
希少な聖属性持ちと判明したマリーは、伯父である男爵の養女となり、15歳で貴族が通う学院に入学し、そこで第二王子、公爵家嫡男、騎士団長令息、宰相令息と出会う。
マリーは四人から求愛され、一人を選べず苦悩するが、結局第二王子妃となり、他の男性三人はマリー妃を側で支え続ける…という内容だ。
第二王子には、婚約者がいた。気位の高い公爵令嬢だ。
嫉妬に狂った公爵令嬢はマリーに嫌がらせをし、それを知った第二王子らに卒業パーティーで糾弾され、婚約は破棄される。
そして貴族の身分を剥奪され、修道院に送られる─。
◆◆◆
私は平凡な会社員だった。家族は両親と弟。大学を卒業し、就職し、一人暮らし。元彼数名。
28歳で死に、アデルとして転生したのだろうか? いや、ベッドの上で異世界ファンタジーな長い夢を見ているだけかもしれない。
それともこの『日本人』の方が私の妄想? いやいや、夢や妄想にしてはこの世界も日本も良く作り込まれている。私にそんな創造性があるわけない。
(もしやあれ、ライトノベル版の呪いの魔術書とか…?)
「アデルが髪ストレートにしてるの久しぶりに見る」
ずぶずぶと思考の沼に沈んでいたら、トリスタンの声で浮き上がった。
朝入浴後、侍女はいつもどおり私の髪を巻こうとしたけど断った。私はじっと座っているだけだが時間がかかるし外出するわけでもないし。
「似合ってるよ」にこり
おお…さすが攻略対象者。本当に14歳か?
言ったのが日本の弟だったら厄介な頼み事でもする気かと警戒するところだ。
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