第10話 始まる生活#2

私とアルスは狩りをしに森に入った。


「俺が先導して、ゲンキは後から補助って形でいいか?」


「ああ、いつもひとりだったんだろう?まずは後ろから様子を見てるよ。手伝いが必要なら言ってくれ。」




アルスは慣れた様子で移動を開始する、ナイフで進路の枝木を刈って移動する。


しかし、アルスの身長分しか除去されないため私の背丈では障害物が残る、煩わしい…


「アルス…やっぱり前後変わるよ」


「別に俺が前でも大丈夫だぞ?」


違う…気を遣ったわけでは無いんだ…そう思いながら強引に前に出た。


私は頑丈な肉体にものをいわせ、南極の氷河砕いて進む砕氷船のごとく進んだ。




事前に聞いた内容によるとこの辺りで捕れる獲物で多いのは、猪・鹿・兎だそうだ。


特に兎は毛皮が価値が高いようだ、素早やいので捕まえるは至難だそうだ。


そのため、兎には罠を仕掛けるのだという、兎の通った跡を探し、


ツタで作った縄を円状に地面に設置して、近くの枝をしならせて結ぶ


地面に打ち付けた木の棒に絶妙な力加減でさらに結ぶことで何かが通った瞬間に縄が上に引っ張り上げられる罠を設置する。


割とデリケートな罠を設置しているアルスの背中を私は見ていた。


こいつは馬鹿だけどこういった生活に必要な技術はしっかり身に着けている、


私がそんな風に考えているとアルスが罠の設置が終ったらしくこちらを振り返る。




「そんなにこの罠が珍しいか?」


「いや、というか普通はどんな風に狩をするのかを知らないだけだよ。


「そうか、これは括り縄と言ってな俺も親父から習ったんだ」


ふーん、父親直伝かぁ…そういえばこいつの肉親って見てないなぁ


家にもひとりで生活しているみたいだし。




「ふーん、今は親父さんは?」


「もう死んだよ、母親もな。」


「そうか…悪いこと聞いたな」


予想どおりだった、まぁいつかは聞いとかないといかんことだからな、話の流れで聞けてよかった。


「気にするなよ、もう100年以上も前のことだから」


「そうか…100年か…いや!100年前!?ってお前いくつだよ!」




「うお!?なんだ急に?俺の年齢か?おそらく130を超えるくらいなはずだが?」


いやいやいやいや…危うく聞き逃すとこだったわ!オーバー100かい!


少し油断するとこういう、異世界の基準でサラッととんでもない話しやがる。


「130越えってそれ普通なのか?私の常識からすると異常な長生きだな?エルフが特別長生きなのか?」


「そんなことでビックリしたのか、ははっ」


アルスが笑っている、馬鹿に馬鹿にされるとは…畜生…


「オーガの常識は分からないが、俺たちは寿命や年齢に囚われながら生きていないからなぁ。周りの者と比べると俺でも若いほうだぜ?」


130年で若いのか…すごいことだ…そういえば私はこの世界で生まれて8年だが、1年で体の成長は終わった。寿命が何年ほどあるのか気になるし、いままで病気なんてしたことは無い…


この世界の生物学や医学についても興味が尽きない…本当に調べることが多い…


「アルス…私は私以外の事をほとんど知らずに生きてきた、常識的なことすら知らないんだ。しかし、それでは不自由が多い。帰ったらいろいろと聞かせてくれないか?」


「ああ、いいぜ!じゃあ今日の夕飯の狩が終ったらテバシイ飲みながら話をしようか?俺もお前に聞きたいことはあるし」


「いや…ドングリビールはもういらない…。しかし、そうと決まればさっさと狩りを終わらせるか…」


「なんだよビールって、急ぐのはいいが罠はまだ1個仕掛けただけだぜ?」


「いや、アルスの狩りの方法はよく分かった、ここからは私の狩りの方法を見せよう。アルスがそこに上っていてくれ、今からここに私なりの仕掛けを作る。」


アルスは不信がりながらも少しだけ盛り上がった丘に上る。


私は狩りの準備のため魔力を放出する…








準備が整ったところで、私はアルスのいる場所から数百メートル離れたところで作業を開始する。


すぅぅぅぅ…っと息を吸い込む、この体の肺活量は以前のそれとは比較ならない。


横隔膜を使って一気に吸い込んだ空気を口から出し、のどを震わせる。


「うおおおおおおおお!!!!」


木々が揺れ、木の葉が落ちるくらいの大声に周辺の獣たちが反応する。


実際には反応しているのかは私からは確認できないのだが、そう仮定して今度は足音をドスドスさせながらアルスの方向に向かって大げさに体を振って走る、時折声を張り上げて威嚇しながら移動する。


獣たちは移動する、私から逃げようとする。


しかし逃げた先には土で出来た壁が待っている、高さは1メートル弱程度だが逃げる獣たちは逃げる方向を変える。


壁は私の土魔法で作り、おおきな「く」の字型になっている、私と反対方向に逃げれば逃げるほど角の部分に近づいていく。


そして、角にはやはり土魔法で作った落とし穴をあけ、その近くの丘にはアルスが待っている。








私はドスドスと移動しながら落とし穴近くまで着き丘のうえのアルスに声をかけた。


「どうだ?アルス?獲物はかかったかな?」


「まったくとんでもない奴だなゲンキは、猪が3匹に兎が5匹ほど!他にも小型の魔獣もかかったな!」


「おお!大漁だな、落とし穴にそんなに落ちるなんて珍しいんだがな、いや…そうかアルスが取りこぼしを弓で仕留めたか!こいつはいいな!すげー効率的だ」


私は周りで矢が刺さっている猪を見て言った。小さな魔獣ってのもきになるなあ…魔獣と普通の獣の違いもよく分からないが…それも帰って聞いてみよう。


私たちは仕留めた獲物を整理して帰路につくこととなった、今までにない収穫にアルスはご機嫌だ。






日はまだ高い、帰ったら何を聞くか私は考えていた…


周辺の環境、国家の存在、魔獣とモンスターについて、魔法について、エルフや他の種族について…


そして、重要なのはイリアちゃんについて!!!これは絶対に聞く!






そして、私はこの後…衝撃的な情報をたくさん聞くこととなるのだった。

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