第14話 イリアという女性#2
赤茶色の髪がなびく、大きな瞳は緑色をしている。
白い肌にうっとりしてしまいそうになる。
「イリアさん!?」
私は慌てて飛び起きた、その勢いにイリアが少し驚く
「ははは、オーガさんったら凄い驚きようね~」
「いや…すみません、少し考え事をしていたもので」
イリアは真っ直ぐこちらを見てくる、睨む感じではなく注意深くこちらを観察するような目
そんな美人に目を合わせられると気恥ずかしい…私はそーっと目を逸らしてしまった。
するとイリアは私の逸らした目線の先に何かあるとでも思ったのか、後ろを振り向く…
振り向くとウェーブした髪がふわりと揺れる…外した目線を戻して私は振り向いているイリアを見た…
やっぱり綺麗だわ~
「そういえばオーガさん、アルスがいませんね?」
視線を戻したイリアが言う…
「アルスなら昨日の狩りの獲物を何かと交換するために村に行きましたよ…」
「うわぁ~じゃあすれ違いかぁ~…うちも取引がしたくて来たのに」
そう言って、イリアはかごをこちらに見せてくれた。木の実が詰まったかごだ。
そういえば村の長の管轄は村の東側…木の実が豊富な安全なエリアだったな。
私はあのいけ好かない村長の顔を思い出す、
似ても似つかない美女が目の前で困った様子でいる…
「えーっと、狩りの獲物との交換ですよね?良ければ私が対応しましょうか?」
「本当ですか?けど…そんな勝手に大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ!今回の獲物はほぼ私ひとりの力で狩ったようなものですからね、文句は言わせません!」
「えーっと…しかし…」
「さぁ!こちらです」
私は渋っているイリアを半ば強引に誘導しようとする、
私はイリアまであと2歩ほどの距離まで近づくと、少しイリアが体を後ろに後退させた…
声を出したわけでもない、表情だって変化が無いように取り繕っている。
「あああ…すみません!いえ、やはりアルスがいるときで結構です、前に頼まれてた品物もあるので…その…確認もしてもらわなきゃ…」
「そうですか…すみません…」
妙な感じの空気感になってしまった…しまった…私は馬鹿だ…
イリアは華奢なエルフだった…身長は150cmくらいか…
彼女は私が近づくと首を大きく上げて見上げなければならないくらいの身長差があったのだ。
ましてや頭からは角、体格だってムキムキの…そう、私はオーガだ…
悪気が無くても彼女が恐怖するのが、なぜ分からなかったのだろう…
私は困ったように笑ってみせて、後ろに何歩か下がった。
少しの沈黙のあと、場の雰囲気を変えるために優しく彼女は問いかけてきた。
「えーっと…、オーガさん…」
「何でしょうか?」
「アルスと森での狩りをしたんですか。」
「そうですよ…」
「もし、よければ聞かせてくれませんか、オーガさんの狩りの方法…」
「いいですが…オーガの狩りの方法ですか……」
彼女は、初めて会って会話したときのように、目をキラキラさせて聞いている。
本当に根っからの研究者気質なのか…好奇心が旺盛なのか…
きっと彼女は恐怖心や警戒心よりも知的好奇心が勝ってしまっているのだろう。
「ふっ…」
私はふいに笑ってしまった。
「ちょ!なんで笑っているんですか?」
イリアは頬を赤くさせながら、高い声でツッコミを入れてきた。
「いや…すみません~つい、あー狩りの方法ですか…けど、前も言ったとおり、私は普通のオーガとは当てはまらない事柄が多いのですが…」
「それでも構いませんよ!いえ寧ろ気になります、あなたは村を黒狼から守り私を助けてくれた、そんな強大な力の持ち主なんですから!」
強大な力の持ち主、守ってくれた…!
すごい好印象じゃないかコレ。
「そ…そうですか!えーっと、私は土魔法が得意なもので。特に壁や建物を作るのは最も練習をしました。それらを使って相手を追い詰めて攻撃する感じでほとんどの獣は撃退できますかね…」
「簡単に言うんですね…実際に目の当たりにしていなかったら信じていないところでした。」
ここで疑問に思う…アルスバカに聞いても答えが得られなかった質問も
イリアは博識そうなので答えられるのではないか。
「ひとつ効きますが、この世界での魔法ってのはどの程度の扱いなのでしょうか」
「この世界?オーガさんは凄い規模でものを計るのですね……この世界でって言うのは分かりませんが、私たちエルフは魔法は創造神の恵みであり、精霊の力を借りているものと認識していますよ」
ふわっとした回答だな…私は質問を続ける
「神の恵みですか…魔法は皆使えるのですか?」
「そうですね~余程才能に恵まれない人でない限り、力をお借りすることはできますが…」
「……が?」
「あまり使いこなす人はいません」
「何故ですか?」
「なんと言いますか……」
イリアは言葉を詰まらせて、空を見上げている。
考えをまとめているようだ、少しして目線をこちらに戻して説明してくれる。
「例えば、私たちが土魔法を駆使して穴を掘るとしましょう、しかしオーガさんのような速さと規模は出来ないんです。逆に手で掘ったほうが速いくらいですので。」
「なるほど…効率が悪いので誰も使わないと」
「まぁ…そうですね、けど例えば火を起こすための種火を生むような、そういうちょっとした魔法は皆が取得しますね。」
なるほど、魔法はあくまで少し生活の助けになる程度の存在なのか…そういえばアルスが火を起こすのに魔法を使用していたな…
あの時はアルスでも魔法が使えるのかと感心したが…そうでも無いのか。
「では…オーガさん、今度は私からも質問いいですか?」
イリアが問いかける
「えっ…あ、どうぞ」
思いもよらなかった、私はびっくりしつつもイリアの質問に耳を傾ける。
「あの、その…角って触ってもいいですか?」
「…………それは…もう質問じゃありませね」
「あああ!そうですよね!すすみませんーー」
「ああ…いや!そのその…いいですよ」
「えっ」とイリアは驚いた様子でいる。
頼んでおいて意外だったらしい
私は膝を地面について頭を垂れた。
イギリスかどこかの敬礼のようにイリアが角に触れやすいようにした。
「どうぞ…」
イリアは黙り、ゴクリと唾を飲み込んだ
恐る恐ると言うべきか、慎重に手を伸ばす
両手で雛鳥でも掴むように
私の額から伸びた一本の角に触れた。
緊張しつつも、とても興味深そうに私の角を手で触れて観察する彼女を見て、私はふとイタズラ心が生まれた。
「うわ!痛い!!!」
「ええええ!えっえ!す!すいませんっ!」
イリアは慌てて角から手を離して勢いよく後退する。体は上手く動かなかったのだろう、しりもちをつく。
「はははははっ!すいませんっ…つい!はははは」
イリアは私のばか笑いする様子を見て2~3秒ほど状況が分からずに固まる。
そして、私の悪ふざけだと気づくと赤面して叫ぶ。
「えっ!まさか!オーガさん!!!騙しましたね!!」
「はははははっ、いやー申し訳ないははははは」
もう自分でも何がそんなに面白いのやら、この世界に来て始めてこんなに声をあげて笑った。
「もうっ!」
イリアはぷいっと目線を外すが、本気で怒っているわけではないようだ。
まるで大学生の時の悪のりのような意味のない行動だったが、私はとても、この瞬間はとても幸せだった。
この時点ではまだ、イリアともっと仲良くなれる…そう思い込んでいた。
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