第27話 パーンのシェルリンクス#1
朝…目を覚ます。
地面に埋め込んだプレハブの少しだけ浮かした部分、空気と光の口から朝日が覗いている。
こういう朝を迎えるのは久しぶりだ。
アルスと出会う前、ひとりで森をさまよっていたときは殆どこのスタイルで寝起きしていた。
「アルスおはよう、起きてるか?」
「あ…ああ」
アルスは寝起きなのか、元気のない返事をする。
私は地上にでる準備をすることにした。
「うーん!」
体を起こしてから腕を伸ばして、独特のスタイルでストレッチをする。
そして…少し集中。
ゴゴゴっと少しずつプレハブを地上へと押し上げる。寝ている間にもプレハブは少し風化しているため、地面のなかで形を崩している。
そのためすんなりエレベーターのように上げ下げはされない。
コツとしては埋めたプレハブのさらにひとまわり大きな枡型の逆プレハブで押し上げるイメージだ。
ゴゴゴ、ゴゴ、ゴン!
十分持ち上がったところで入り口の場所を蹴破る。
焚き火の火は消え、あたりには最低限の処理を終えた獣の毛や角、魔獣の牙や爪、羽のついた皮膚がある。
よしよし、獣なんかに荒らされてはいないようだ。
「おーいアルス!朝飯食べて荷物まとめて出発しよう!」
私は振り向いてアルスのほうを見た。
暗闇の中では気づかなかった
ぐったりと壁にもたれながら目にクマを作っているアルスがいた。
「アルスくん?どうしたの?」
「すまん、ケガしたわけでもないのに体が思うように動かんのだ。おまけに昨日は一晩寝れていない。」
本当に辛そうだ。
「おいおいマジか?熱は?寝てないってことは昨日からか?何かの病気って訳じゃないよな?」
「病気?何言ってんだよゲンキ…病気なんてありえるはずないじゃないか?はぁ。俺たちは神々の加護を」
アルスは辛そうにしながらも私の質問に答えようとする。
神々の加護で病気をしない?妙なことを言うが確かに私もこの世界で病気というものをしたことはないな。
いや、けども現にアルスは酷く辛そうだった。
私はアルスのデコに手を当てる、何をされるか分かっていないようで、アルスは小顔でオーガである私の手は大きい。顔を覆うような格好になるのでアルスは抵抗少し抵抗しようとしたが
体が思うように動かずなされるがままになった。
「熱っぽい感じがするなぁ」
まぁ、エルフ属の平均体温なんて知りもしないが。
「医者なんているわけもないか?」
「医者?」
村に戻るという選択肢を少し考えたが、まともな医療も考えられないうえに下手に移動するのも危険だと考えた。
とりあえず私は自分がいつも肩から服のかわりにジャケットのように着ている毛皮をアルスに渡す。
「横になって安静にしていろ。水をもってくる」
「ああ、すまねぇ。」
私はアルスの持っている皮で出来たリュックのようなカバンから、昨日使っていた茶色のコップを使って川の水を汲んで飲ませる。
「ふぅ」
少し落ち着いたようでアルスはそのまま床で横になった。
不安な気持ちがあったが、どうすることも出来ず
昨日の大鳥サウルスの後始末を始めた。
内蔵の処理や肉を捌くのとかはアルスが前日やっていたので、朝御飯のために調理を始める。昨日の火が残っていたのでそのまま薪を増やして火をつけた。
そうしている間にも、アルスが苦しそうにしている。私はそれを聞いてプレハブで横になるアルスに近寄る。
「大丈夫か?なにか食べれそうか?」
「いやぁ、なんだか食欲もないようで、すまんな…うう」
「おい!しっかりしろ!アルス!」
私は横たわるアルスを揺らした。
「ううっ」
応えず、アルスは苦しそうにしていた。
何が原因なのか、どうすればよいのか分からないから焦った。
昨晩アルスに柄にもなく礼を言った、その気持ちはアルスも同じだったようで、なんとも気恥ずかしくもいい関係になれたと思っていたのに。
いろんな考えを巡らせていると、後ろから突然声がした。
「うまいな、この肉」
私が振りかえると、先ほど焼いていた肉を勝手に食う男の姿がそこにあった。細身で上半身裸の男。
細い目に金髪で、そのキンキラの髪の間から2本の角が飛び出ている。耳は獣の耳で、よく見るとズボンだと思っていた下半身は獣のように毛が生えているようだ。そして、その下半身のさきは蹄になっている。
その特異な足を小さくたたんで、そこらの石に座りながら私の焼いた肉を食べていた。
気づかなかった。私は警戒心を高める、アルスを守るように
アルスを背中にそいつと対峙する構えをとった。
「オーガがエルフを守っとる。先ほどから見ていたがエルフの心配をして看病までしているようだし。いったいお前らはどんな関係なんだ?」
下半身が獣のそいつは聞いてくる。
答えを少し考えたが、私の思う通りに答えた。
「旅の仲間、相棒だ。」
「ふーん、相棒ね。ならば守ったり心配するのは当然か、しかしオーガがねぇー。ふーん。」
細い目をこちらに向けて話しかけてくる。開いているのか開いていないのか分からない目だ。
私が反応に困り黙っていると、そいつが続けてきた。
「保証はしないけど、そのエルフを助けてやりたいなら手を貸そうか?」
思ってもみない提案に私は目を見開いた。
「なに!?それは本当か?」
「あーあ、ただし条件がある」
そいう言ってその下半身が獣のそいつは立ち上がる
そのまま持っていたであろう、石で出来た槍を立てて言った。
「その前に、名乗らせて貰おう、私はパーンのシェルリンクス」
立ち上がり細い目を開いて名乗ったそいつを見て
やっと山羊の半獣だと気付いた。
これだけのことが起きていてもアルスは相変わらず反応が薄かった。
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