第26話 告白#3

滝の落ちる音、木々が揺れる音


日はすっかり沈み、焚き火の火だけがあたりを照らす。


不思議なもので火を見ているだけで落ち着く、こういえのは何も変わらないなぁ。




「うん、うまいうまい!豆と肉のスープ!待っただけあって肉も柔らかいき最高だ!」


私はアルスの作った料理を絶賛する。


アルスはまんざらでもない顔をしながら、大鳥サウルスの心臓の調理を行っている。


吊るしながら焼いた心臓は直火焼きのため真っ黒だ、酷いところは完全に炭化している。


アルスは回りをナイフで削ぎ落として食べられる部分をカットしている。




「こんなんでいいのか?よし…食べるぞ。」


恐る恐る心臓を食べるアルス、見た目はおいしそうなステーキだ。


もぐもぐと咀嚼そしゃくをしている。固いようで噛み切れず言葉を発せられない。


しばらくしてやっと肉を飲み込んだアルスは言う。


「不味くはないな、固いから調理の方法によってはうまくなりそうだな。」


くそ真面目にアルスは言った。


「いや、味なんていいよ。魔力を感じるか?」


「ああ、そうか。いや感じるか?と言われると微妙だな。」


「そんな直ぐには影響はないか。」


予測はついていたことだが、一口食べてすぐに変化するものでもないようだ。




食事は大半済み、火はひとつになりあとは真っ暗で不気味だ。


いや実際魔獣がうろつく森で、ましてや解体して残した肉はその辺にあり


とても危険な状態ではあった。そのことは理解しながらも私は軽く言った。


「さて、まだまだ明日も移動をしなきゃいけないし寝るか!」


「いやいや、さすがにこのままじゃ不味いだろ?」


「けど、もう眠いからな~よっと!」


土魔法”プレハブ”


四角く形成した寝床が地面から現れる。


「おい!ゲンキ人の話を聞けよ」


「いいから入れよ!じゃないとひとりで先に寝るぞ」


私はテントもなしにこの森で雨風をしのぎ生活してきた。それはこの魔法の力のおかげだ。


プレハブが地面から出てくる、文句を言いながらもアルスもプレハブに入る。


そしてそのまま、元のようにプレハブは地面に埋まっていく上の方をわずか5cm程度残して


地面に埋まったプレハブは空気とわずかな光のみを取り込み、完全に防御態勢に入った。


こうなると大型の獣は手を出すことはできない。というよりもこちらの存在には気づけなくなるのだ。


「どうよ!」




アルスは地面に潜っていく勢いにびっくりして壁に手を付けて腰が引けていた。


「ははは、びっくりしたか?」


「ゲンキあのなぁ!説明がいろいろと足りないぞ!ほんとに!」


「まあまあ!実際もう眠いんだ説教はなしで」


私はドカっと横になる、服にしている毛皮を布団替わりにして固いベットを少しでもましにさせる。


そういえば毛皮にも魔力があるなんて考えてもなかった。


意識を毛皮に集中させる、そうすると確かに魔力を感じる。


もしかしたら、今まで意識してなかっただけでこの毛皮にもかなり助けられていたのかもしれない。


アルスは皮の加工技術や調理の技術がある。


もしかしたら、いままで一人でサバイバルをしていた時には得られなかったものが手に入るかもしれない。


そう考えると、アルスだけのためではない、今回のこの修行は私にとっても実利があるのかもしれない。






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ゲンキは正直凄い。


俺がずっと思ってきた常識をことごとく崩していく。


どうしようもなくダメな俺を、生まれ変わらせてくれる存在。


そんな出会いに、俺はなんて言ったらいいんだ。




「ゲンキー」


「アルスー」


「…」


「…」


同時に声をかけてしまった暗闇のなかで、ゲンキはベットで俺は床で寝ていた。


そのまま相手の顔も見えないまま気まずくつい黙ってしまった。


「なんだよ?ゲンキ」


「いや…なんだ、ただ最初に出会ったのがお前みたいなやつ…アルスでよかったなと。ふとそんな風に考えてな。」


「ふふ、よせよ。まさかそんな風に言われるとは思わなかった。こちらこそありがとう、ゲンキに会わなけりゃどうなっていたことか。」


「はっはは、まだどうもなってないさ。…もう寝よう、明日からまだまだ移動するんだ、ありがとよアルス…」


「そうだな…」




心のむず痒い恥ずかしさと、しっかり礼が言えてすっきりした気持ち。


嫌味もなく妙な安心感で俺はそのまま眠ってしまえそうだった。


疲れもあり、すぐに落ちるはずが


中々寝付けない。


というよりも何か体の芯が熱い感じだ、苦しくはない。


興奮して眠れない---


いったいどうなっているんだ?




俺の体は…


その日、大きく変わろうとしていた。

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