第25話 告白#2

川辺に石を組み立てるアルス


みるみる内に簡易のかまどを立てる。




こういうアウトドアというのか、サバイバルの能力が流石に知識経験ともにアルスが優れている。


直火で黒焦げにして肉を食べていた私には真似できないことだ。


「流石だな~けどなもっと大きくできないか?」


「これより大きくか?」


「ああ、なんせこの大きさだからな」


私は大鳥サウルスの心臓を指さして言う、大きな体に血を巡らせていた心臓はそれに見合ってかなりの大きさだ。




「やっぱり食うのか、これ…」


「あたり前だろ、何をいまさら」


「いや…すまんな、普通の獣ならよく食べるんだが、魔獣の…ましてやこんなデカイのは初めてでな、調理方法は?」


「なんだっていいよ、いや焼いたことしかないが、それで構わんだろ。あ、けど他の部位は例の豆のスープで食べたいかな」


「スープはいいが、このサイズの内臓を焼くとなるとかまどの大きさも足りないが燃料となる木材も足りないぞ」


「木材か…たしかお前らの決まりで自然に朽ちた木しか使わないんだったな、あとは何だっけ?賜物とかいうシステムを利用してるんだっけ。」


「そうだ、族長たちが1年に1度決めた量をそれぞれの部族が使うんだ。」


「それさ…各部族で使用する木材の量は不均一なんだよな。はっきり言って力あるものが弱いものの燃料や資材を抑える不平等な決まりだよな。各部族の長が合議で量を決めるったって、結局発言が強いのは…なんだっけ、イリアさんが嫁ぐ先の部族。なんかイリアがそこに政略結婚させられるのもその辺りが関係しそうだな。」


「ボガード族な、まぁ確かにそういう一面もあるのは否定できんな。森への感謝と信仰の気持ちがウソというわけではないんだが。なんというか、俺はそういうのに宗教観に疎いからなおさら部族の賜物については不満はあるな…というかゲンキはずけずけとよくそんなことが言えるなホント。異世界人ってのはみんなそうなのか?」


異世界人というのを忘れてはくれていないようだ。


失礼な物言いは私だけかもしれない気を付けよう、そんな自重の考えながら私は森の木々の方に移動する。




「まぁ…なんというか、燃料が、木材が必要で、それをお前エルフらが刈り取れないというならばほら…」


私は手に魔力を集中していく。


圧縮した力を地面に放つ。


イメージは太く頑丈な槍…ゴゴゴゴと音を立てながら少しずつ地面から


固めた土が石のような硬度をもって槍のように変形して出てくる。


「おおっ!」


アルスが驚きの声をあげる




パシッ!


私は”香きょう”と名付けたその槍をオーガの怪力で振り回す。


ドシーン!


何度かの香の攻撃で1本の木が倒れていく。


「さぁ、これで木材が出来たわけだ。私が倒したので自然に朽ちたものではないかもしれないが、このまま放置するよりも私たちで有効に活用した方がいいと思わんか?」


「くくくっ!まあ仕方ないわな」


問答無用で用意した木材にアルスは怒るかとも思ったが、木材制限の制度に元々疑問をもっていたアルスは笑って受け入れてくれた。


「ゲンキ、ただし他の連中にこんな理論は通用しないからな?」


「大丈夫だよ。他の奴なんていない魔獣たちの住む森だぜ?」


「まぁそうだよな!よく考えりゃこの辺りは俺たちエルフの管理する森からは外れてるわな。」




ニヒルな感じで笑ってみせたアルスはそう言って魔獣の心臓を焼く準備を始めた。


切り落とした木をもっと細かくしろとか、こうカットしろとかの注文をしてくるアルスの指示に従い


ちゃくちゃくと準備が進んでいく。


調理器具はアルスがしっかりと持ってきているし、器用に棒や川辺の石を組み立てて


大きな肉を吊るせる形にしている。どうやら大鳥の心臓はそうやって下で焚火をして吊るして焼くようだ。


また、私の要望どおり鍋でスープも作っている。


他にも刈り取った獣も切り分けて大きな葉にくるんでいる。


こちらは別で調理するのかな。




「すごいな、この魔獣は…」


忙しそうに作業をするアルスは大鳥サウルスの皮をはぎながら言う。


「初めて見た魔獣だがこの皮はかんり上等だし、魔力が備わっているぞ」


「へぇ~魔力が皮に備わっているもんなんだ。」


「ああ、すべての魔獣がそうって訳じゃないがな、というかゲンキは魔獣と普通の獣の違いが判っているのか?」


「知ってるよ、イリアに聞いた。魔力を内蔵している獣が魔獣だろ?狩った後にも魔力が備わるのは


聞いてなかったが。」


そう、魔獣と普通の獣の違いは魔力の有無で決まる。


例えば最初に仕留めたトナカイのような獣には魔力がなく、それは見たときにぼんやりと感じることができる。魔力のある獣には…例えば大鳥サウルスにはあった時から心臓を揺らすような波動を感じるのだ。


「そうだな、けど魔獣は魔力を持っているが高度な魔法を使う訳ではない。例えば異常に硬かったり、特別怪力だったり。俺たちが最初に出会ったときに遭遇した森蜘蛛の糸も魔獣特有のそういう能力なんだろうな。魔獣の素材っていうのはそういった特性を残して素材として使えるからとても貴重なんだぜ。」


アルスはたいして遭遇したこともないような魔獣の知識を私に披露しながらさらに続ける。


「しかし、そうだな。言われてみれば確かに特に魔力を強く感じる心臓を食らうことで魔力を増大させるというのは無い話じゃなさそうだな。危険な魔獣を好んで狩って食うなんてことを実践してる馬鹿野郎なんていないから分らんが。」




そんな馬鹿野郎が私で、これから実践していくのがお前なんだよ。


そこんとこを分かっていての発言なのかな、このアルス馬鹿は…




それからも話をしながらも調理は日が傾くまで続けられた。


相変わらずアルスの異様な肉へのこだわりを聞かされる私はうんざりしながら


ぐつぐつと煮込まれるスープを覗いている。


今日は出かけに軽く干し肉だけを食べて、これが2食目だった。


いつまで待たされるのだろう。






ああ…腹減ったなあ…


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