第12話 始まる生活#4
この世界での人類の扱いはとても劣悪であった。
アルスの話によると、人族は神に愛されない種族と言われており。
生まれながらにして他種族から奴隷として扱われるのだという。
そう評価される理由はいくつかあるが
ひとつは肉体の特性の要因が大きい、決定的に寿命が短いのだ。
長く生きても50年程度、エルフ含め他の種族から比べると圧倒的に短命なのだという。
私からすると他が長すぎるという感覚なのだが…
そういえば、オーガって寿命どうなんだろう、気になってきた。
もとい、人族についての扱いについて他にも、魔力保有量の少なさ故、歴史的な出生などの理由で差別の対象とされ。
他種族と比べ高い出生率も合間って、当たり前のように人身売買までされているのだという。
ただ、その実体はアルスも人族とは接点がないためよく知らないとのことだ。
おそらく、出生率の高さは普通で、むしろ寿命の長い他種族が低いのだろうと予想出来るが…人間へのこの扱いは元人間の私としてはかなり不愉快だ。
というか、姿形はオーガだが、思考については私は人間としての意識の方がいまだに強いのだ。
私は、聞いた話をあれこれと思案しているとアルスが声をかけてくる。
「そんなことより皮を剥ぐから手伝ってくれ!そこ、押さえててくれ」
そんなことよりか…まぁ分からないことを思案しても仕方あるまい、解体作業は内臓の処理、皮膚の洗浄まで終わっていた。
「しかし!これだけの獲物が手に入ったのはすげぇ!ゲンキのおかげだな!特に兎の毛皮は良い」
「ほぉ、そんなにか?やっぱり売るのか?いくらくらいなりそうなんだ?」
私は上機嫌のアルスに聞いた、するとアルスは急に不機嫌な顔をする。
「ゲンキ…おめぇなにいってる?」
「いや…なんだ急にムッとして!変なこと聞いたか?」
「この毛皮は主に木の実や、薪と交換をする。」
「ん~…交換かぁ…売れないのか?」
もしかして思ったより価値が低いのか、どうやら物々交換となるようだ。いや…もしかしてとは思うが…通貨概念が無いなんてことではないだろうなぁ…それはかなり不自由だぞ!
「ゲンキ、おめぇ、どこで売るとかいうことを学んだかしらんが、金なんかと交換してもろくなことにはならん!やめておけ!」
おや、通貨が無いわけではないらしい。
しかし、アルスのこの反応はどうしたことだろう。
「お金が無いわけじゃないんだな…なぜ物々交換なんて面倒な方法にこだわるんだ?」
「いい加減にしろ!!!金なんかなくても生きていけるんだよ!」
アルスは声を荒げた。
反射的に大声を上げたらしい、ハッとしてバツが悪そうに目を逸らす。
しかし、謝罪や言い訳はそれ以上なかった。
どうやら、アルスはお金を…いや通貨を嫌っているようだ。
確かに通貨の概念には信用が必要だが、アルスのこの反応は不信ではない…恨みや怒りに属する感情を通過にいだいているように思えた。
今はこれ以上聞くことはできない、通貨へのこの感情はアルス個人のものなのか…それともエルフ全体の感情なのか…それからはお互いに必要最低限だけの会話しかせず解体作業をした。
日は傾き、西の森の中に太陽が隠れていく。
いちおうこの世界でも太陽は西に沈んでいるようだ。
まぁ方位がどうなっているかなんて分からないし、
私は理系でもなかったので天体から北を図ることもできないし、そんなことはどうでもよかったのだが。
ただ、この世界でも空は日が昇り…日が沈む…風は雲を運んで、時に雨を降らすのだ。
今のところ天から食べ物が降ってきたり、太陽が2つも3つも登ってくるような奇想天外なことは発生していない。
パチパチッ!焚火の火が跳ねる音がする。
アルスは今日の収穫を調理している。
調理といっても解体した猪の太ももの肉を焼いているだけだが…しかし…
「しかし、見事だな…良い感じに部位が分けられてある。特にこの足の肉はおいしそうだ…」
いままで私はこんなに丁寧に解体したことなんてなかった。
当然といえば当然だ…肉なんてスーパーのパック詰された状態でしか知らないのだから…
無理矢理内臓を取り出して…雑に切り取った肉を焼いて食べていた。
それでも最初のころよりは上手にできるようになっていたのだが、アルスの作った肉とでは雲泥の差だった。
「ふふん!そうだろう!今焼いている内ももはさっぱりとしているが肉質も柔らかくておいしいんだ!反対の外ももとは分けて捌いてある、外モモは豆と一緒に煮込んで食べるんだ!」
誉めたことに気を良くしたようだ…急に饒舌になって話し出す。
「さらにこの部位…骨の内側にある筋の少ないこの部位が知る人ぞ知る!希少で美味しい部位なんだよ!人によってはあばらの付近の脂肪の多いところを好むがな!俺にいわせりゃ分かっちゃいねぇーな!」
あ…ダメだ!止まらないやつだコレ…
アルスは肉談義を止めようとはしない…しかし、ご機嫌なアルスを見て私は
まあ、いいか…と思った。
これからも時間はたっぷりとある、アルスからこの世界の情報をたくさん得たい気持ちはあるものの
今はまず、アルスの機嫌が直ったことで良しとしよう。
アルスは先ほどまであんなに世話をしていた肉を放置し話続ける。
太陽はすっかり沈み…あたりは焚火の光だけとなった。
なんだっていいけど、肉…いつ食べられるんだろう…
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