第33話 誇り高き者#3

ばっちり狙いどおり!


いや、狙い以上か。槍を力任せにすべて投げてしまえば複数個は倒せるだろうと予測していた。


少なくとも5回以下でクリア出来ると踏んでいたが、まさか1回ですべて倒れるとはな。


まぁそんな私の目論みは、周りは知ったことではないだろうから余裕の顔してよう。




私は振り返った、あとはこのイレギュラーを納得させることだけだな。


全員唖然としている。何人かは口を情けなく空けている。


ポーンテントスは何が起きたのか分かっていないかのような表情だ、威厳も何もない。


シェルは…相変わらず表情が分かりにくいが、驚いているのだろう細い目が少し開いている。


「おい、これってありなのか?」


誰かが小声で言う。


「いや、俺に聞かれても知らねーよ。」


「勝負としてこれって」


ヒソヒソと誰かが話したのを皮切りに、皆が顔を見合わせて相談しだす。段々と声も大きくなっていき、やっと正気を取り戻した当事者であるポーンテントスが声を出した。


「はっ!…こ、こ、こんな馬鹿なことが認められるか!」


まぁ当然の物言いではある、認めるつもりは全くないけど。


「私は何度も確認をー」


「戦士長ポーンテントス!見苦し言い訳である!」


びっくりした!私が話そうとした途端にシェルが柄にもなく大きな声をあげた。


「オーガの戦士ゲンキは再三に渡り説明を確認していた!しっかりと投げる回数で競うというのは、ここにいる皆も聞いていた!ましてや槍を賭けての誇り高き勝負を決着がついたあとに言葉で汚すのか!」


「ちっ!ちがう!あんなやり方はイカサマだ」


どっちがイカサマだよ


「だまれ!どちらがイカサマか!」


あっ被った。私の心で思ったことをシェルがしっかり反論してくれている。


「元々やり方も分からなかったゲンキを相手とって、一方的に勝負を持ちかけたうえでこの大敗!戦士長ポーンテントス!」


「う…あ。」


「恥を知れ!!!!」


一括するとガクンと頭を下げてあきらめて静かになるポーンテントス、まわりの野次馬も戦士長のシェルリンクスの大声に背筋を伸ばして緊張している。


「誰ぞ!ほかに異論のあるのもにはおるか!」


周りもシェルの気迫に押されて1歩下がってしまった。


いつもと違う鬼気迫る表情で回りをまとめてから、振り返り私だけに分かるように


「ゲンキ、やったの」


先ほどの気迫に満ちた声から一転、優しい声で細い目をこちらに向けてシェルは微笑んで私だけに聞こえるように言った。






「大変なことになってしまったようで、大変申し訳なかったオーガ様。」


あのあと、シェルが回りを納めて場が落ち着いたくらいのときに


村長がヒョコヒョコと現れて謝罪をした。


「いえ、別に村長が謝ることではないですよ。」


言葉に裏はないが、それでも体の小さな年老いた村長が


さらに体を小さくして恐縮して謝ってくる。


「私からも謝罪しよう。ポーテントスの横暴な態度と戦士にあるまじき恥さらしな行動を、同じく戦士長の立場として詫びる。申し訳ない。」


シェルまで謝ってきた。


「いや、シェルまで…べつに…」


「勝負になるまえにもっと強く止めることも出来たが、いかんせんゲンキがどう相対するかも気になってしまってな。ことの経過を見ていたんだが、いやはや参ったわ。」


「いや!やっぱ反省しろ!そうだよ!もっとちゃんと止めればこんな面倒にはならなかったのに。」


やっぱりシェルには文句のひとつも言わねば気が済まんわ。こいつ私とポーンの戦いに好奇心抱いて止めなかったな。


「かっかっかっ!まぁいずれにせよポーテントスを納得させねば邪魔石は借りれなかった。道案内と協力はしたが、そこは依頼主のお主がはっきり決着つけるべきだからな。」


「よく言うわ!自分でも滅茶苦茶な手をしたと思うわ。はっきり言ってポーンくんにも少し悪いなぁと思うわ。」


いい加減に覚えられないのでポーンと呼んだ。結局ポーンは回りからの評判は落とすわ、邪魔石は貸すどころか譲ることになり、しかも私がぶん投げた槍のほとんどが壊れたために、その賠償まで負う形で決着したのだった。


「そうじゃな!少し無理矢理だが、あれは効いたであろうな!まぁ最近調子に乗りすぎておったしいい薬じゃ!」


シェルは気持ちいいくらいハッキリと答えた。村長はそんな明け透けと物を言うなと内心思っているのか、いやーと小さな声で肯定とも否定ともとれない返答ばかりしていた。


そうこうしていると、一人のパーンの男が近付いてシェルに目配せをした。


「待たせたな、邪魔石の用意が出来たようだの。」


どうやら準備が完了した合図だったようだ。


「村長の家に邪魔石を集めてある、エルフくんを運ぼう。」


「アルス大丈夫か?少し移動するが、あと少しの辛抱だ。」


アルスは顔が赤く熱っぽい、目も虚ろながら私の励ましに答えた。


「全然平気だ…けど、ゲンキ…お前、滅茶苦茶し過ぎだよ。…五月蝿くて休まらん」


「ふっ、すまんな」


アルスは強がっているが辛そうだ。私はゆっくりとお姫様抱っこの要領でアルスを運んだ。軽いなぁ…




ふたたび村長の家に着いた、広場の中央に石で出来た小さなかまくらのような家に濁った黒色のゴツゴツした石が集められていた。小さな老婆の村長は低姿勢で私に説明をしてくれた。


「こちらの黒い石が邪魔石です。この石は魔力を溜めやすい性質を持っており、このエルフ様の制御しきれていない溢れた魔力を抑えるのに使います。ただ…通常は未熟な子供が成長時にこういういった症状になるのですが。そのときは邪魔石が一個、枕元に置いて寝るだけで良いのですが、大人のエルフというと前例も無く、とりあえず集められるだけの邪魔石を集めさせました。」


「分かりました、ありがとうございます。では、アルスをその邪魔石のところに寝かせれば良いのですね?」


邪魔石は大小不揃いで円形に配置してあり、丁度真ん中の空いた位置にアルスを寝かせるようだ。


「はい、それで上手くいくはずです。」


私は小さな村長の家の中には入れないため、手だけを入れてアルスを邪魔石の集まるところに寝かせる。邪魔石に手が近付くとフワッと冷たい空気が抜けていくような感覚になる。これが魔力が吸い込まれる感覚なのかもしれない、だが一気に奪われる感じではなく優しく漏れていくような感じで、それで私がすぐにどうかなる感じではなかった。


アルスを寝かせると、ふうっ…とアルスは息を吐いて、少し落ち着いた感じで横になる。


地面には乾燥した草を敷いてあり、軽いベットになっている。


「どうだアルス?変化あるか?」


「分からん、だが少し楽になった気がする…」


「そうか…」


私はアルスの落ち着いた顔を見て少し安心した。


振り返るおシェルがにこやかにしていた。


「とりあえず一晩様子を見ましょう。わしが付き添いをしますゆえ」


村長が言う。


「いえいえ、村長に申し訳ないないですよ。私も付き添いますんで。」


「そうは言っても、この小さな家ではわしとエルフ殿で一杯です。」


「私は外で待機しますよ、大丈夫です、野宿には慣れているし寝床も自分で作れますから。」


「いえいえー」


「いやいやー」


何度か村長とやり取りをしているとシェルが見かねて声をかけてきた。


「何かあれば知らせるように人を配置しておくから、今日のところはうちに来いゲンキ。心配なのは分かるがお前がいたからといってどうにかなる問題でもないだろ?」


確かに…その通りだ。


「こっちなら…問題ないぞゲンキ、むしろ心地いいくらいだ。それよりそうしてるほ方が五月蝿くてかなわん。」


見かねたアルスがボソリと言った。


なんだか全員に言いくるめられて、まるで私が我儘を言ってるみたいになってきた。




「分かったよ…じゃあ静にしてろよアルス」


アルスはそれを聞いて横になったまま肘を曲げて手を上げた。


心配するな、という感じのサインだろう。


息を吐いて、呼吸を整えた。


自分でも気づかないうちに、いつの間にか私はアルスのことで熱くなっていたようだった。


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