第18話 弱肉強食#1

「うおおおおおおおお!!」


森の奥で凄まじい咆哮が鳴る。


オーガとして異世界に転生した私ことゲンキの大声だ。


ご近所トラブルなんて縁の無い森の奥、文句を言うものもいない。


勿論、ただ叫んでいるわけではない目的がある。


魔法を駆使して土の壁を【く】の字に作る


先端には落とし穴、追い込み漁のように狩猟をしているのだ。




追い込みの取りこぼしが無いように


単細胞なエルフのアルスが弓を使って獣を狩る。


この連携も大分慣れてきた。




ふぅ…ひと段落したところで私は呼吸を整えるように息を吐く


身体は余裕だ、結構な運動量なのだがオーガの肉体は相変わらず疲れ知らずだ。


わたしは狩りの成果を確認する。


落とし穴には猪みたいな獣が1匹と小動物が何匹か


それ以外は地上でアルスの弓の餌食になっていた。


「流石の腕前だなぁ~すべて1撃じゃん」


石で出来た矢じりが猪のような動物の眉間の骨のない部分にうまくあたって倒れている、最小の労力で最大の効果をあげている。


アルスは獲物にあたった弓を再利用するために引き抜きながら答える。


「これくらい訳ないさ、ゲンキのおかげでパニックになった獲物を狩っているだけだしな」


否定しながらも、まんざらでもないような調子で返事が返ってきた。




動く対象の一部分だけを正確に狙っているんだから実際大したものだと思うが。


私は獲物を抱える、解体のためにいつもの河川に向かう。


アルスは兎のような小動物を植物の蔦で出来た縄で括って運ぶ。


こういう連携も何も言わずに出来てきている。




かれこれ1ヶ月近く私はこの村で過ごして、アルスとら阿吽の呼吸とは言わないまでも、狩りにおける連携はしっかりしてきた。


ただ、この日はいつもと違った。


「よしっと…」


アルスが兎を持ち上げたところで…




グオッ!!!




短めの地響きのように、低い鳴き声が聞こえる。


音は魔法で生み出した壁の向こうから聞こえた。


アルスは弓を構えて警戒する、私も一応警戒する。


視線を何かがいるであろう壁に向けつつも、冷静に魔法を構築する。


【土鎧】地面からわき出し固めた土が、鎧のように私の体を覆う。あとで河川に行ったら私の体も洗わなくちゃいけなくなった…などと余計なことを考えている間に


壁の向こうの何かが姿を表した。




1m程度の壁に手をかけ乗り越えようとするそいつは


体長2メートル50ほど、全身を褐色の毛で覆われており


見た目は熊のようだ、背中の毛は逆立って針のように伸びている


先端にかけて白っぽくなる、その針のような毛はヤマアラシのよう。


森で生活にしていた私は、何度か見たことある。


ヤマアラシと熊を掛け合わせたような見た目から


勝手にクマアラシと呼んでいる獣だ。




私たちが狩った獣の匂いにつられたのか、グオオと時々うねりをあげながらゆっくり近付いてくる。


見た目の厳つさには反して慎重な性格だ。




「なんだっ、この魔獣は!」


アルスが後退りしながら呟く。


どうやらアルスは見たことはないらしい、


「気を付けろ~私はクマアラシって呼んでるけど、こいつ背中の針で身を守りつつ爪で攻撃してくるぞ~」


私はのんきに注意を促す。


というか爪も針も、牙でさえこの【土鎧】とオーガの肉体の前では有効ではなく、クマアラシは私にとっては脅威ではないのが分かっているのだ。




アルスは話を聞いているのか聞いていないのか、クマアラシに自慢の弓を放つ


石の矢じりの弓はクマアラシの胸のあたりに当たる。


毛と固い筋肉に覆われるクマアラシに浅く矢が刺さり、致命傷にはなっていない。


むしろ相手はグオオオオオっと大きく吠え、敵意を大きくさせてしまっている。




バッとクマアラシは壁を乗り越えてきた。


大きな巨体を力任せに腕の力で持ち上げる、壁は一部壊れる。


ドシンと四つん這いで着地をかますと、背中の針を振るわせて威嚇してくる。




アルスは圧倒されながらも第二射を用意しようとする…


そこを間髪いれずにクマアラシは四足歩行で突進してきた。


ドスドスと大きな音をたてて、背中の針を揺らしながら向かってくる様子はなかなか恐ろしい。


アルスは慌てまいとするが、体が言うことをきかない


ビクッと体が反応してしまい弓に矢をかけることができていない。


アルスとクマアラシとの距離が縮まる、アルスはもう体が硬直してしまっている。ダメだ…




「ひっ…」




情けないアルスの声が背中から聞こえた。






私はアルスに向かってくるクマアラシに割って入った。


【土鎧】の手甲のおかげで針状のクマアラシを押さえつけることが出きる。


私も腰を落として力を入れる、まるで相撲のような格好でヤマアラシと力勝負を仕掛けるのだ。


正面から相手を押さえつけて、すり足で徐々に後ろに押す。


クマアラシも何が起きているのか分からないのか


グオァ…っと変な声をあげる。




相撲なら十分、押し出しでゲンキの勝ちってところだが


ここは生死をかけた狩りになっている。


相手も必死に抵抗してくる、体を丸めて背中の針を私にぶつけようとする…が、通じない。




鎧ががっちりガードしてくれている


そのうち、針が通じないと分かったのか


クマアラシは体を起こして今度は大きくフック気味に攻撃をしかけようとする。針がダメなら爪で攻撃しようという腹だ。




私は上体が起きたのを見逃さなかった。


熊の喉あたりに右ストレートを浴びせる




グギュン!!




詰まったような声にならない声を出してクマアラシが動きを止める。がら空きの腹に私はタックルする。




ドスーンという音とともに


狙いどおり【く】の字の先の落とし穴に哀れなクマアラシは落ちたのだ。


この体ならばきっと横綱も夢ではない。


そんなことを考えながら白星を誇るように振り向いてアルスに微笑みかける。


アルスは呆然としていた。


馬鹿が、より馬鹿に見えた。

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