第2話 エルフのアルス#2
転生してはじめての記憶は
生まれた瞬間の時からあった。
いや、おそらく母胎にいたときからあったのであろう。
光が差し掛かると同時に絶望した。
転生したのはまだ良い。
とうせ死んだのだから都合よく二週目だ。
しかし、なんでオーガに転生なのだ。
醜いオーガの雌である母を、
未熟な視力で眺めながら思った。
ーーーーーーーーーーーーー
私とエルフのアルスは森蜘蛛の縄張りから少し離れた場所で夜営の準備をしていた。
アルスとやりとりをして移動しているうちに
すっかり日は傾き
あたりは暗くなってきていたからだ。
「しっかし!この森を闊歩しているわりに軽装だなぁ~おまえは~」
アルスはテントとなる布に縄を括りつけ引っ張りながら言う
「まあ…いつもその辺で焚き木をして、この毛皮にくるみながら寝てたからなぁ、
それに、ひとりで旅をするのは初めてで…何をもっていいやら分からなくてね…」
私の装備は毛皮のマントと水袋、ポーチには干した肉、そのほか小さな生活道具くらいしか持っていなかった。
「ふーん、まぁいいさ、ところでほんとお前は何者だ?」
「いや…ですから、たぶんオーガです。」
私はアルスに答えた。
「いや…なんだよ!たぶんって!ていうかオーガなら俺も何度か見たことあるが、
こんなに流暢にお話できる種族じゃねーよ!確かに角や牙なんかもあるが、、」
「なるほど…やはり一般的なオーガと違うのですね…」
アルスがなんだかジトッとした目で見ている…
警戒している?というより信じられないという顔だろうか。
普通のオーガと違うと言われてもよくわからないのは本音だ。
「ちなみ普通のオーガはどれくらい喋るのですか?」
「………」
アルスは答えない…おかしいなぁ
率直に疑問を投げかけたのに、さらに信じられないという顔だ。
若干あきれたような顔でもある、本当に失礼な奴だ。
「…ふつーっていうか俺が今までに会った、いや遭遇したオーガは
飯、殺す、逃げろ!くらいしか喋るのを見たことないなぁ、知能だって、、、かなり低いはずだ。」
亭主関白な旦那よりも口数が少ないな、
知能が低いって…オーガ本人を前にして言うとは…
本当に失礼やな、まぁ隠されても困るが。
「群れを成したりするのかな?」
「いや、単体の力はあるけど群れはしねぇな、てか!俺に聞くなよ!お前のことだろーがよ!」
「案外…自分の事は自分が一番分かってなかったりするものさ…哲学だね。」
「いや、ほんとになに言ってんのお前、」
「お前じゃなくてゲンキって名乗ったじゃないか…」
「オーガに名前って言われてもねぇ、まぁここまで話が通じるんだ、普通のオーガじゃあねぇってことだろう?まぁなんでもいいや」
面倒になったのか適当に返してくる
私から目線を外して、木の枝で地面に落書きをしている。
いや、落書きではない簡単な魔方陣だ。
この世界の理…魔法…
それを使用するにあたって補助の効果をもたらす魔方陣。
さらさらと地面に慣れた様子で描いている。
エルフといえば、
前世のイメージからも確かにそれくらいこなしそうなものだが、
この短時間のやり取りから受けた印象では
目の前にいるエルフ、アルスは少し粗野で短絡的な感じがするが…正直、意外だ。
魔方陣が出来上がると、その上に俺の集めてきた小枝を並べる。
最後に魔方陣を描いていた枝も放り投げて
地面に手をかざす、
フワッとアルスの手を中心に力を感じた瞬間…
魔方陣からボッと火が着いた。
まるでカセットコンロで火をつけたみたいに
魔方陣の外枠の円形に添って火が灯る。
マッチやライターの無いこの世界では
こういう風に火を起こすんだなぁ…いつも火打ち石で一生懸命火をおこしていた自分には羨ましい限りである。
と…ここでアルスがポツリと言う
「何か言いたげだなぁ?」
「え…あ…まあ」
「顔に書いてあるな、俺が魔法を使うのが意外だったか?」
「はは…気づいたか?性格の割りに器用に魔法を使うじゃないか…って--」
「性格のわりには余計だよ!うっせーな!
オーガに性格の事言われたくねぇーよ!」
口調はきついが、表情は楽しそうだ…
まぁ…全くの単細胞ではないようだなぁ…
あれ…本当にそうか?
「アルス?ごめん、このキャンプには君の荷物がすでに置いてあったが、なぜだ?
というか…君はどこであの森蜘蛛に捕獲された?」
少し早口になってしまった私の問いに
首を傾けながらアルスが答える…
あたりはすでに真っ暗…
焚き木の炎だけが光っている。
「あん?昨日もここで野営をしようとしてたから、荷物がそのままなだけだが?
森蜘蛛にはここで今みたいに焚き木をしようと思って、枝を探しているときに捕まったけど
それがどうした?」
あ…やっぱ、前言撤回だわ…こいつやっぱバカだ!
「待てよ!という事は、まだあの蜘蛛の縄張りに私たちはいるってことか?」
アルスはきょとんとしている、思ってもみなかったのだろう…
私は続ける…
「その森蜘蛛がどれほどの知能があるか分からないが…
一度は子供の餌として捕らえた獲物が逃げたんだ…追ってくるんじゃないか?
というか、私が餌を横取りしたとも思うかも…」
ここまで言って初めてアルスは
徐々に顔を強張れせ緊張していく…
やっと気づいたか…
「いやぁ!しかし蜘蛛ごときがそんな執念深く追ってくるか?」
「いや…それは私もそう思いたいが…」
ガサ!ガサ!!
私たちが逃れてきた森のほう…
真っ暗な茂みから音が聞こえた…
私のいた世界では害虫を捕食する蜘蛛は益虫であったが…
この世界の蜘蛛はどうであろうか…
私は生唾をゴクリと飲み込んだ…
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