第3話 エルフのアルス#3
35歳の誕生日…
誰も祝うものなどいやしない…
会社の後輩はアラフォーだとふざけて言う…
それを笑って受け答えするが心中は笑えない…
ふ
最近体力が落ちている…
階段の上り下りがつらい…
夜中起きていられない…
白髪が目立ちだしてきた…
正直笑えない…
このままじゃだめだと思っていても
何かできるわけでもなく…
あがこうとした事もあったが
人生に一発逆転なんてものは現実には無いのだ…
食うのに困るわけでは無いが
贅沢はできない…
何が不満と言われて
具体的なことは思い浮かばないものの
ただ漠然と将来に対する不安…!
夜ひとりで部屋のアパートにいるときに
とんでもなく恐ろしく…
ただひたすら私の人生は死に向かって
緩やかに向かっているようにしか感じないのだ…
さぁ…今日も仕事だ…
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私とエルフのアルスは森の向こう側
暗闇を見つめている
月明かりも入らない深い森の闇は
どれだけ目を凝らしてみてもその先にいるものをとらえられない。
「アルス…戦力の確認だけども、さっきの火の魔法みたいなの、ああいった魔法とかで撃退は可能?」
エルフのアルスは目線はかえずに返事をする
「いや、俺は魔法使いじゃない、あくまで魔方陣の補助付きで行う生活レベルの魔法ぐらいしかできねぇ、、、ただ俺にはこれがある。」
これがある…と言って構えたのは弓だ。
なるほどエルフらしく弓での応戦が可能なわけだ。
「そっちは何ができる?」
「うーん、一応力にはある程度の自身があるかな…魔法は地属性なら多少の覚えがあるよ」
「はぁぁ!?魔法を使うオーガなんて聞いたことねぇーぞ!ほんと普通じゃねぇーな!
ただ、それがほんとぉならかなり助かるな、正直俺ひとりじゃ厳しい相手だわ」
魔法を使うオーガって普通じゃないんだな…
その辺の価値観がいまだにピンと来ないなぁ
魔法の威力についても
どれくらいが普通なのかもわからん。
まぁ、考えても仕方がない。
この世界に来てから8年が経過するが…
誰かと比較をするのなんて始めてのことだからな…
「しかし、ほんとに森蜘蛛が追ってきたのか?」
アルスは弓の弦を絞りながら言う
「さぁねぇ~いずれにせよ奴からすると私たちは餌だろ?そしてここは前回アルスが捕まった場所だ…警戒しよう。」
私は焚き火の枝のひとつを手に取った。
先端のみ燃えている枝の火が消えないように
優しくアンダースローで枝を投げる。
投げ込まれた場所が火によって
僅かに照らされる。
ブワッ!!!
照らされた森の一角で何かが動いた。
何か…得体の知れない大きなものが…
「見えたか?」
「いやぁ、影だけだ、かなり速いな」
「ちなみに前回捕まったときって、どうやって捕まったの?」
「うーん、よくわからないんだよなぁ、回りには警戒してたはずなんだが、行きなり襲いかかってきた感じでなぁ、気づいたときには糸でがんじがらめで、弓を使う間もなかった。」
アルスは額から汗をかいている。
喋りながら捕まったときの恐怖を思い出しているのだろう。
しかし、今ので襲いかたの予想がついたぞ…
どれくらいの時間が経過しただろうか…
おそらく5分程度だと思う
しかし、緊張状態で待ち構えているので
とても長い間警戒しているように感じる。
あれ以来、あたりは静かで物音ひとつしない。
「なぁ、もう近くにはいないんじゃねぇのか?」
アルスはこちらを向いて弓を引いていた力を弱めた。
ーーーとっ、それを待っていたかのように、
それだけの知能があるか分からないが
こちらの油断を待っていたのか
生い茂る木の上から
アルスに向けて一直線に大きな影が向かっていく、
大きさは高さにして1m程度
横幅はもっと大きいだろうか
足を広げて
空中から飛び降りて襲いかかってきた。
アルスはまだ気づいていない。
私は駆け出した
私の反応をみてアルスはやっと何かが起きたと気づいたのだろう、回りを警戒するように目線を動かして左右を確認する。
違う、左右じゃない上なんだが…
「うぉおりゃーー!」
私は影に向かって
パンチをくり出した。
アルスとはかなり身長差があるので
アルスの真上へ攻撃するのは楽であった。
「いやー危ない危ない…」
「はぁはぁ…焦ったぜ、すまない助かったゲンキ…」
おおっ!やっと名前を呼んだ。
流石に2度も助けられた訳だからな
当然だわなっ!ふふんっ!
私のパンチを喰らったその影は
ぶっ飛んで茂みの方へと行ってしまった。
ギチギチと僅かに音がする
その茂みに二人で近寄る。
今度は油断が無いようにアルスも弓を引きながらな歩く。
茂みの奥にいたのは
赤茶色の大きな蜘蛛だ。
8本の足のうち3本はぐちゃぐちゃに曲がっている。
私の攻撃のせいだろう。
流れているのは血ではなく透明な液のようなもの。
まだ生きているようで、弱々しく動いている。
「うげっ……気持ち悪い。これが森蜘蛛か…
見た目がこんなのだって分かっていたら、素手で殴るのは躊躇していたな。」
「ふん、まだ生きているようだな、、」
アルスは弓で森蜘蛛に止めの一撃をあたえる。
森蜘蛛の頭に矢が刺さり、動きを止める。
そのままアルスは矢を引き抜きこちらを振りかえる。
「素手で森蜘蛛を倒すとはな、やはりパワーはオーガつーことか。これで更に魔法も使えるなんて言うんたから、信じられんな。」
アルスは矢についた体液を拭き取りながら私に言う。
「見れば信じてもらえるさ、私の寝床も用意しなきゃだからな!」
アルスは首を傾げる、寝床と魔法が繋がっていないようだ。
私は焚き火のところまで行き
両手の平を地面につける
そしてイメージを高めて
魔力を両手に集中させる。
「ふんっ!」
魔力を受けた土は動きだし
地面が盛り上がる、イメージはプレハブ小屋だ。
10秒ほどで私とアルスの前には
プレハブ小屋くらいの大きさのシンプルな土で出来た建物が出来る、
扉や窓といった複雑なものは出来ないので、入口には小さ目の穴が空いているだけのものだが、
ある程度の回りの安全を確保しつつ睡眠をとるには丁度いい。
いままで私は夜寝るためにずっとこうしてきた。
しかし、アルスは口をあんぐり開けて
それを見ている。
「はぁああ?どうなってんだよ!詠唱もなければ魔方陣も無しに、これだけのものを土魔法で作ったのか!しかもオーガがかっ!」
「いや~そう言われてもね、実際出来ているし、これ以外の方法を知らないんだよね。」
「ていうか!この魔法があるんだったら、はじめから俺がテント作る必要なかったじゃねぇーか!」
「いや、何言ってんの、この小屋は私の寝床だから!入ってこようとしないでよ!」
「いいじゃねーか!これだけ広いんだから!俺もここで寝る!」
「何が嬉しくって男と一緒に寝なきゃならないんだよ!アルスは自分のテントで寝ろよ!」
アルスは半ば強引に小屋に占拠してきた。
もともと十分に広さはあったのだが
プライバシーを重んじる私としては少し嫌な話である。
私は小屋のなかに少しだか高さを設けた台の上、毛皮にくるまっていつもベットにしている場所に腰かける。
アルスはそれをじとっと見つめるので
部屋の反対側にも同じく台を魔法で設けた。
「ふぅー便利な魔法だな、まったくすげぇな。これほどの力をいったいどこで習得したんだ?ゲンキ、ほんとぉにお前は何者なんだ?」
何物と言われてもなぁ…転生してオーガとして生まれ変わった、別次元からやってきた奴と説明しても納得しないだろう、
そもそも、私自身がいまだに意味わからないのだ、転生?この世界はなんだ?なぜオーガとして生まれる?
そんな事を思いながら、どう回答しようか考えていた。
アルスはやはり、イケメンだ…
私も転生するならエルフとかにしてほしかった!
いや、いかん思考が脱線した。
とりあえず私が魔法を使える理由。
そこから話さねばならない、
今後どうするかも考えなくてはならない。
ある意味この出会いは本当に幸運だったのかもしれない。
「私がいったい何なのか?その質問の回答になるかは分からないが、ここに来るまでの経緯を説明しよう。。。」
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