第7話 オーガとエルフの村#3
(エルフのアルス)
オーガは知能が低く獰猛な肉食の魔族。
父からは昔そう聞いていた。
力はあるが、頭が足りない、大振りな攻撃で力任せに圧倒しようとする。冷静にかわして距離をとり弓で仕留めればエルフにとっては敵ではない。
だが、目の前のオーガは違う。頭は良さそうだ、というか俺の方が頭が悪いように思われているようでどうにもムカつく。
命を救われた、これは事実なのだが。
しかもこいつはドラゴンに育てられたと言う。
そんな事がありえるのか?
オーガの戦闘力については聞いていたが、オーガの生態系なぞ知るよしもない。
思えばイリアは他の生物や、魔物について探求心が強かった。
知識は力
そう言った彼女の意図が今ごろ分かった気がする。
村に戻ったら話をしてやろう、変わったオーガについて、きっと興味をしめすだろう。
ーーーーーーーーーーーーー
牢屋に入れられてから数時間が経過し、日が沈んだようだ、外に見えるのは星空だ。
この世界に来てしばらくして気づいたことだが、この星空に私の知っている星座はないのだ。
まぁ星に詳しい訳ではないのだが、例えばオリオン座とか北斗七星とか私でも分かるようなものを探していたことがあったが、まったく見つからない。
ここは異世界…ただそれだけの話なのかもしれないが、何となくその時は悲しい気持ちになったものだ。
外で喋り声がする、見張りのエルフ二人が雑談をしている。
聞き耳をたてて話の内容を聞くと、いままでに仕留めた獲物の大きさを競ったり、どちらの腕っぷしが上だとか、オーガを自分ならどう倒すかなどと喋っている。
思えばこの2人も気の毒だな、私が来たばっかりに牢屋の見張りをずーとさせられているんだ。
「しかし、イリア様は見た目こそきれーだが性格は問題だな!」
「ああ、あの人は少し変わってるなぁ!オーガなんぞに興味を示して~」
「ああ!そうだそうだ!」
おい!聞き捨てならんぞ!イリアを悪く言うんじゃねーよ!あの子はいい子だよ!
だめだ、全然気の毒だなんて思わない、むしろこいつらの目の前で平然と脱獄をかましてやろうか!
まったく見張りのくせにダラダラとしやがって!オーガが暴れて逃げたしたらどうするんだ!
なんて不毛な反論を心の中でした。
ワオーーン
と、ふいに遠くの方で何かの音が聞こえた。
見張りの2人がビクッ!と反応する
「聞こえたか?」
「ああ、この遠吠え…」
「まさか!黒狼か!」
「なんてことだ!この村にまで来たのか、、、」
「くそ!すぐに弓笛を上げろ!!」
見張りのひとりが矢を上空に放つ、ピューーーーと高い音を立てている。
矢じりが円筒形になりさらに横に穴が開いていて、リコーダーのようになっているのだろう。
そして、2人は鳴き声のした方角に弓を構える
しかし、あたりは真っ暗。弓を構えてもどこに狙いをつければよいかもわからないようだ。
「お手伝いしましょうか?」
ビクッ!2人は突然声をかけられてビックリしたようだ、少し警戒しすぎだ。
だが、少しして私に声をかけられたのを理解したようで返事をする。
「ぐっ!オーガの手助けなぞいらん!」
「貴様は黙っておれ!邪魔だ!」
「へいへい~…けど、そうしてもダメそうなら言ってくださいな、その時はそうだな…「助けて!ゲンキさーん!」と言ってください。」
「ふんっ!何なんだコイツは!」
さて狼の群れか…森での生活でも何度か遭遇した。
こいつの外見は前世の狼とよく似ている、と言っても前世で狼なんてディスカバリーチャンネルでしか見たことないけど。
こいつらは10~15匹程度の群れで生活し、チームでの狩りを得意とする。
鼻も利くし、チームのリーダーが中心となって組織立って襲う…とても厄介だ。
さらに、前世の狼と大きく異なる部分が一つ…でかいのだ!
体長が中型犬の倍近くある、体重にいたってはさらにその倍はあるんじゃないだろうか?
熊が群れをなして襲ってくるようなものだ…
おそらく、この世界にいる魔物やモンスターなんかに対抗するための大きさなのだろうが
群れの数とリーダーの質によっては森蜘蛛よりも厄介なやつである。
はっきり言って…こいつらじゃ相手は出来るとは思えない…
これは正直チャンスだ!自分を売り込むチャンス!
アルスの説得もうまくいってないようだし、エルフの心象も良くないし、すごい田舎だし、
初めての村で勿体ない気もするが、さっさとこんな村おさらばしようかと考えていたが…
この村はイリアちゃんがいる!
このチャンスをものにすれば私の評価は上がるんじゃないか?
という事で!あの2人がいい感じにやられてるところを助けよう…
いきなり手助けすると「お前なんかに助けてもらわずとも自分たちでなんとかしたわ!」とか言われて
手柄がうやむやになる気がするからな…いや我ながら策士だな。
なんてことを考えていると遠くから見張りの2人以外の声がする、さらに複数人の足音もする…
「おーい!大丈夫か!?」
「黒狼の遠吠えが聞こえた気がしたが!」
「おお!こっちだ!助かる!」
「よかった!皆で来てくれたのか!長まで!」
沢山集まってきちゃったじゃんか!!大きな声が聞こえると思ったら長までいたよ!
狼何してんの!!?遠吠えから結構時間経ってたけど!
もうエルフたちだけで解決しちゃうじゃん!あ…やっぱり私に策なんて似合わなかったんだ…
こんなことなら初めから助ける姿勢を見せつけて評価を上げとけばよかった。
なんて考えているうちに少なくとも10人以上のエルフが集まったようだ。
「おい!黒狼はどっちからだ?」
「わからん!俺たちも遠吠えが聞こえて~警戒しているのだが全然姿を現さない!」
「しかたない!全員弓を構えろ!奴らは鼻が利く、暗闇からでも平気で襲ってくるぞ!」
「おう!」
長が元気に指揮をすると見張りだった2人も安心したのだろう…声に自信を取り戻している。
あー本当に出てくるタイミング無くなった…何が”助けてゲンキさん!”だよ!
あの2人今頃ふざけた合言葉に心の中で笑ってるだろうな…はぁ
「うぎゃあああ!」
「気をつけろ!襲ってきているぞ!こっちだ!」
「いかん!足を怪我している!」
「く!油断した!ちくしょうーー…」
「無理するな!血が出ている!いま治療を!」
始まったようだ…様子が見えないのでよくわからないが
ひとり怪我したかな?
てか治療って…戦闘中だぞ?即効性のある回復魔法でもなきゃ無理じゃないか?
「うがーーー!」
「おい!大丈夫か!みんなあっちで2人襲われたようだぞ!」
「なにーー!」
言わんこっちゃない…いや…何も言ってないけど
というか、このパターンはいかんな…弱いところを攻撃して慌てさせて、
群れから少しはぐれた奴を確固撃破していく…典型的な狩猟パターンじゃないか?
「ぐおーーー」
「ぐは!」
「おい!どうなってる!?」
「黒狼はどこだ!」
「くそ!囲まれてる!!」
「うわーー!ひぃえ!」
場は騒然としている、時々弓を射る音がするが命中していないようだ。
おそらく、メチャクチャに放っているのだろう。
これ、おそらく予定よりやばくないか?
思ったより狼が強かった?思ったよりエルフが弱かった?それとも両方か?
黒狼たちの数で囲って少しずつ削っていく攻撃の結果
エルフたちの陣形、いやただ集まっただけで陣形といえるものではなかったが
その集団は段々と小さなまとまりとなった。
まとまりからはぐれたものは悉く撃破をされていく…
出血を伴う怪我をしてうめき声をあげる者もいれば、のどを食い破られ即死した者もいた。
気づいた時にはオーガのいる牢屋である穴を中心に、エルフたちが背中合わせに円形になっていた。
その数はあと6人しかいなかった。
「ちくしょう…!こんな!黒狼ごときに!」
「終わりだ…くそ!」
「諦めるな!!何か!なにか方法はないか?」
「くそ!くそ!!」
グルルルルーーー
「黒狼の唸り声…!くそ囲まれている!」
「この野郎!あっちにいきやがれ!」
「無駄だ!この闇では弓が当たらん!」
「くそ!当たれ!!」
エルフたちは暗闇に向かって弓を放つ…狙ってはなったわけではない
勿論当たらない、というかおそらく無駄打ちさせて矢を切れさせるつもりかもしれないな…
「くそ!こっちか!くそ!」
「喰らいやがれ!」
「おらぁぁ!」
またいくつかの矢を無駄に打っている…そして
「ああ…しまった…ちくしょう」
「どうした?」
「矢が…矢が切れた…」
「何!?馬鹿野郎!みんな無駄に矢を消耗するんじゃない!」
「くそ!まさか誘いだったのか…!」
うわぁ…案の定だよ。どうしようこれ…
「畜生…もう無理だ…こんな!こんな!うわーーー!」
「おい!よせ!どこへ行く!」
「うわーー!!!」
「痛い!痛い!」
「大丈夫かっ!?」
「よせ!行くんじゃない!今慌てて駆け出すとやられるぞ!奴らバラバラになるのを待っているんだ!」
「く!しかし!!」
「痛い!くそ…なんでこんな目に…ぐぅ…こうなったら…」
負傷したエルフは痛みに耐えながら、何かを決断する。
大きく息を吸い込み声をあげる、穴の中にいる相手にも聞こえるように…
「助けて!!!!!ゲンキさーーーーーーん!!!!!」
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