第6話 オーガとエルフの村#2
(エルフのアルス)
森の怖さは知っていた、分かっていたはずだ。
特に俺がいる東の森は他と比較にならねぇくらいの危険地帯だ。
分かっていたはずなのに、気が付けば蜘蛛の糸に縛られて逆さに宙吊りにされている。
意識がはっきりしていくと同時に俺の状況がわかってくる。
危険な捕食者「森蜘蛛」に捕まったようだ。
絶望だ、叫べどもこんなところに誰かくるはずもない
どれくらいの時間が経過したか、
ブツブツと独り言が聞こえた気がする、そんな馬鹿な!
誰か!誰か来たのか!?
そいつは長身で頭からは角を生やしている。
少し小柄なオーガだった。
この出会いは森のお導きなのか、
運命のいたずらなのか
とにかく、俺はオーガに命を救われた。
ーーーーーーーーーーーーー
イリアは牢屋となってある穴の奥に声をかける。言いくるめられた見張り二人は緊張の面持ちでこちらを見ている。
彼女がどういう存在で目的がなんなのかは分からないが、正直私も彼女に興味がある。
「わかりました、綺麗なお嬢さん。丁度暇だったところです、好意的な会話は大歓迎です。」
「まあ!綺麗なですって!お上手ですね♪オーガさん、わたしはイリアと言います。よろしくお願いします。」
お上手ですねと言い微笑む彼女は本当に綺麗だ。前世を含めてこれだけの美人にはお目にかかったことはないな。アイドルとかモデルとかみたいなテレビの世界の人といるようだ。
「はじめましてイリアさん、わたしはオーガのゲンキと言います。今からそちらに顔を出すのですがひとつよろしいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
縦に2mほど掘られた牢屋はエルフ用に作られたのだろう、私の身長には低すぎる。
普通に立てば閉じ込めるための木の格子の間から顔を出すのくらいわけない。
けど、いきなり顔を出せば見張りの二人は「なんだ」「貴様」とか言いながら慌てて弓を構えるのが目に見えている。私は見張りの二人にも聞こえるようにはっきりと宣言する。
「今から、顔を出しま~す、見張りの二人が慌てて警戒すると思われるのでイリアさんは少し後ろに下がってください」
「なんだ!この野郎誰が慌てるだと!」
「何をいってやがる貴様!!」
うわー、事前に言ってもこの言いぐさだ。悲しくなるね。
しかし、イリアだけは優しく微笑み見張りの二人の様子を見て、納得といった感じで3歩ほど後ろに下がった。
それを確認して、ゆっくり私は顔を外に出した。けっこうギリギリで頭だけが出ている具合だ。まぁ、それでも頭が出る時点でこの牢屋かなりのあまあま設計だなと思うが。
「改めて、お初にお目にかかります、ゲンキと言います。よろしくお願いしますイリアさん。」
「まぁ、先程から随分と丁寧なんですねゲンキさん」
「ええ、ただでさえ粗野で乱暴なオーガだと警戒されているようですし、少しでも印象がよくなればなと思いまして。」
「素晴らしいですね、こうして顔を見て角や牙を確認しなかったら、とてもオーガと話しているとは思えないくらです。…ああ!そうだ食事を用意したんでした!お口に合えば良いのですが」
そう言って彼女は木で出来た皿を出してきた。なかには木の実のようなものがいくつかある。
たくさんの種類が1つずつあるようだ。
それをつまんで食べてみせる。
「…へぇ、肉しか食べないと聞いていたのですが、木の実も食べるんですね。うんうん。」
その様子からイリアが求めていることが、なんとなく分かった。
「ああ…なるほど、実験ですか、どおりでいろんな種類が用意してあるはずだ。」
私は木の実を食べながら答えると、すらにイリアはご機嫌になって喋り出す。
「そうです!何も試さずにいるなんてもったいなくてわたしには出来ません!本当に話のわかるオーガさんですね!!」
イリアは目をキラキラさせている。大学の時に地学部の友人がふいに石の話をしていてこんな目をさせていたことを思い出した。
「すいません!わたしったら…気を悪くしましたか?実験体のようなことをして!」
「いえ、別に気にしませんよ。ただ、オーガの実験体としては私は不適合だと思います。自分で言うのもなんですが、かなり特殊なオーガのようですしね。」
「確かに、オーガがこんなに丁寧に喋るなんて聞いたことありませんし、野蛮な種だと聞いていましたが、ゲンキさんは先程からとても丁寧で気品さえ感じます。ゲンキさんに当てはまるかといって全てのオーガに当てはまるとは考えづらいですね。他のオーガはどうでしたか?」
「実は私は生まれて直ぐに親に捨てられまして、それ以降他のオーガとは接触したことはないんです。だから、普通のオーガがどうかと聞かれても答えようがないもので…」
ドラゴンのくだりは話さないでおこう、アルスに話した時の反応を見る限り、面倒な質問が殺到しそうだからな。
「うーん、そうですか…やはりオーガは群れずに生活をしているのでしょうか、こんなにお話が出来るオーガがいるのに、一般的なオーガの生態について聞けないとは…いや、普通じゃないオーガだからこそ、ここまでお話が出来るわけで…うーん…」
なにやら思考がめぐっているようだ。私は最後の木の実を食べながらイリアを見る。
「その、一般的なオーガは群れないと言うのも、私としては否定的ですねぇ」
「えっ!?なぜですか?」
「他のオーガと合ったことはないので予想ですが…群れないのなら言語を操って意志疎通をする必要はないのでは?」
「………ああ!確かにそのとおりですね!」
イリアはなるほどっという感じで、自分の胸のあたりで小さく手を叩いた。
「まぁあくまで仮説ですがね。」
「いえいえ!おもしろい意見です。本当にユニークなかたですねゲンキさんって!うちの父より話していて面白いです!」
「イリアさんのおとうさん?」
「ええ、うちの父はここの村の長です。もうお会いになったのでしょう?」
なるほど、あの声の大きい人の話を聞かない村の長の娘が、こんな可愛くて聞き分けのいい好奇心旺盛な子だとは。
「父はいま集会所でアルスからあなたの事情を聞いています。…実はその話を盗み聞きしているうちに面白そうで、ゲンキさんに会いに来ちゃったんです!」
会いに来ちゃったんだ、すごい行動的だなこの子。
そしてアルスはひとりで事情を説明しているわけだ、あいつ大丈夫かな……うまく説得できているだろうか、いや今はあいつを信じるしかあるまい。
なんて考えていると、イリアは顔だけを少しこちらに近づけて小声で私だけに聞こえるように言う。
「…実は、あまりよくありません、アルスさんが説明する毎に不信感が増していて…こう言ってはなんですが…アルスさんあまり口の上手なタイプではないので…」
やっぱりアルス馬鹿は信じちゃダメだった!
イリアは申し訳なさそうな顔をしている。
「ああ!イリアさんの気にすることではありませんよ!大丈夫!心配いりませんよ!」
まぁ最悪は逃亡くらいなら余裕そうな牢屋だからね。
「そうですか…わかりました、実は少し信じられていませんでしたが喋ってみて分かりました。ゲンキさんは本当に害がなさそうです、私からも父に話をしてみましょう。」
そう言って!イリアは立ち上がり村の方へ行ってしまった。
ターンをしたときにイリアのスカートがヒラリと浮き上がった、チラリと見えた健康的な足の美しさに私の中のエルフの株が…いやイリアの株が降りきれるくらいにあがった。
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