第8話 オーガとエルフの村#4

(エルフのアルス)




俺は村にオーガを連れてきた。


今日の見張り当番たちがぞろぞろ集まってきた、


厳しい目を俺に向けてくる。


分かってる、分かっている。


馬鹿なことしているとは思うが仕方ないじゃないか、このオーガは命の恩人なんだ、無理だと思っても説得するほかない。




長が来て、いったんゲンキは牢屋に入れられ


俺から長たちに説明することとなった。 


説得は苦手だが頑張ろう、このオーガの無害さを理解してもらうために昨日あったことを全て話すんだ。


ゲンキの奴は、まぁ大丈夫だろう。


いざとなれば、あいつの実力なら単独であればあの牢屋からなら強硬脱出出来るだろう。




ーーーーーーーーーーーーー


この世界で会った、私の育ての父の話をしよう…


オーガとして転生し、寿命が残り僅かだったドラゴンに育てられた。


このドラゴンがつまりこの世界の父である。


この世界のドラゴンは魔力の塊のような存在で…この世の理が具象化したようなものである。


世界は膨大な量の魔力が循環している、偶発的に強大な魔力が一か所に溜まることがある。


その量に耐えきれなくなった空間で誕生するのがドラゴンなのだという。


ドラゴンは生まれ、魔力を消費しながら朽ちていき…また世界に魔力を巡らせる存在なのだ。


私の父は地殻変動を司る途方もなく強大な魔力をもったドラゴンだった。


しかし、出会ったときにはもう地面と半分同化し魔力の消費が終了する間際の存在だった。




そんな父に私は魔法を習った、地面に自らの魔力を浸透させ操る能力。


それに加え、生まれ持った強い肉体に前世の知識。


そして、親元を離れた後にさまよった森での地獄のような3年間の経験…


前世の倍の大きさの狼の群れ…だからどうした!負ける気がしない




すでに牢屋にいる時から魔力を土に浸透させていた、私は頭の中に形成する形をイメージする。


イメージがはっきりしてないと形成ができない、集中し焦点を小さくし過ぎると規模は小さくなる。


かといってあやふやにイメージだけ大きくすると脆い土しかできない。


壮大で力強く、緻密で繊細な相反するイメージで繰り出す!




「土魔法”不落要塞”」




ゴゴゴゴ!と半径5メートルくらいの土が音を立てて盛り上がる。


高さは7メートル程度、日本の櫓をイメージした建物だ。


いかに大きな狼でもこの壁は登れない…


「とりゃあ!」


腕力に任せに木で出来た檻を外す、見渡せば予定どおり生き残った6人は櫓の上にいる。


助けを呼んだこいつは櫓に乗っかているか不安だったんだが…




「あ…ああ…どうなっている」


「オーガ、お前がやったのか…まさか」


長は流石に予想外だったらしく声が引きつって小さい、ここに閉じ込められた時は口もきいてくれなかったのだが。少し意地悪したかったがイリアちゃんのお父様というのを思い出して私は答えることにした。


「まあね、今から私が下りてここを片付ける…あなたたちは待っていてください。」


「な!ちょ!待て!いったいこれはどうやって!?」




ああ…面倒だ…もう答えない見てろよ


私は足をダン!と踏みつける…次のイメージは鎧武者…


圧縮し硬度を増した土が私の体を覆い形を作っていく。


何度も練習を重ねることでこれだけ素早く作成することのできるようになった得意な魔法だ。


「あ…あ…」


長は口をあんぐりと開けている、もう威厳もなにもない…見ると他の連中も絶句している。


少し意地悪くザマーミロと思ってしまった。


「それじゃあ…ゲンキ…いきまーーす!」




櫓の下に降りる…いるいる…狼ども、エルフたちが黒狼と呼ぶだけあって真っ黒。


闇に紛れるための進化なのだろうか、それでも所詮は獣…


突然目の前に現れた建物に理解が追いついていないようだ


固まってしまっている…俺は地面を蹴って狼との距離を縮める。


この体は本当にすごい規格外なパワーだ…土魔法で作った鎧は頑丈だがかなり重い。


しかし、そんなこと全く感じさせないスピードで移動ができる。


もともと前世では運動音痴だった私は原付の免許でF1カーを乗っている感じだった。


初めのころはパワーを出すことより制御することのほうが大変だったくらいだ。




私は近くにいた狼の顔めがけてパンチを繰り出す、アッパー気味に繰り出した。


予想以上に蹴り足が強すぎたため距離を詰めすぎて結果として肩で体当たりしながら腹にパンチを当てることとなる。


キャン!と弱く吠えて内臓をぶちまける。


グロイ…と何年か前の私なら思っていたが人間慣れるものである、今は何も感じない…というか


今は人間でもなかった。むしろオーガ的には血を見て興奮のひとつでもするのであろうか?


私は全然何も感じないが…


なんて考えながらさらに両隣にいた狼の首を力ずくで掴む、別に首がもげても構わない…


そしてシンバルでも叩くように両手の狼の頭を打ち付ける


計3体の狼を屠ったところで少し大きめの個体が私の左足に噛みつく


「ふん!」


土具足の強度は伊達じゃない、狼の歯はまったく歯が立っていない。


空いている右の足を上げて噛みついている狼の頭を踏みつける。


グシャーと血が吹き上げ死んでいく。


周りにはまだ狼がいるようだ…息遣いが聞こえる。


全員を相手にすることもないので私は大きく咆哮をあげる。


「うおおおおおおおおおお!!!」








少しの間をおいて走り去る音がする。どうやら引いたようだ。


「行ったか…終りましたよ~」


私は櫓の一角に魔力を注ぐ、櫓の壁にはしごを作り出す。


「すごいな…まさかこんなにあっさり片づけるとは。」


降りてきた村の長は私に言う、最初の時のような高圧的な感じはなくなっている。


「ええ…まあね、さて今のうち怪我人の救出をしてください」


「ああ…そうだな、おい!動ける奴は怪我人を救出するんだ!」


「それから、あなたは村の家畜のいる場所に案内してください。」


「は?いったい、どういう事だ?」


「うーん、ちょっとはじめから疑問だったのですが、最初の遠吠えから襲ってきたタイミングが遅すぎたんです。そして今襲ってきた狼の数も少なかった。つまり、この襲撃は陽動だった可能性があるんですよ。」


「何っ!だとしたら村が危ない!くっ!分かった!おい、お前らにこちらを任せる!俺は村の様子をみてくる。」










村に来た。土と草の家がいくつか並んでいる貧相な村。


その先に気の柵で覆われた区画がある、まぁまぁ広い。


そこがかなり騒がしい、よく目を凝らすとかがり火に照らされ5~6匹の狼が見える。


うち一匹はひと際大きく片耳が無い立派な狼だった。


おそらく群れのリーダー、先ほど私の足に噛みついたのが副リーダーといったところか…


そして、その狼の向こうにひとりのエルフが見える。


鉄製の短刀で牽制しているイケメンエルフ、アルスだった。


アルスはさらに後ろにいる女性をかばっているように見える。


「む!あれは!アルスとイリアか!なんてことだ!本当に村が襲われている!」


と長が言う…どうやら後ろの女性はイリアちゃんだったようだ!


これはもうチャンス!!!千載一遇のチャンス!!


私は地面を強く蹴り狼どもに飛び掛かる、蹴った地面の土が跳ねて長にかかったけど気にしない。


おらーーーー!




距離は20メートルほどある、今の私の肉体なら5秒もかからない距離だ。


狼たちの後ろから5メートルほど距離まで来る、ここでアルスも私に気づいたようだ。


いや、お前より後ろのイリアちゃんに私の雄姿が見えるようにしてほしい。


そこでホップ・スッテプからの3歩目で大きく跳躍する。


狼たちの真上から巨体なうえに重い鎧をつけたオーガが力まかせに振ってくる。




ドーーン!!!




轟音を上げて着地する、足元には狼どもの死体がある。


土埃を払いアルスとイリアの二人を見る…


2人ともポカンと口を開けて放心している。


どうしよう…長も置いてけぼりにして勢い任せに狼を踏みつけて登場してしまった。


本当はかっこよく「イリア怪我は無いか?」とか言いたいけどもこの状況でそれも変か?


うーーん…






「おう…アルス!長の説得はうまくいったかい?」




しまった…色々考えた末に笑顔で皮肉を言ってしまった。


本当にこういうセリフ回しだけは前世から治らない悪い癖だ。


ともあれ、これでいい結果になるはずだ、うん結果オーライ結果オーライ。


さっさと残りを片付けましょう!




「本当に!お前は!ゲンキは訳分かんねー奴だよ、全く。けど助かった!そして、俺は口が下手なんだお前も説得を手伝ってくれよな」


アルスは今まで一番いい笑顔で私に答えた。




この時、本当の意味でアルスとは仲間になれたのだろう。


そしてこの世界に転生してから初めての友人だ。

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