第9話 始まる生活#1

久しぶりにゆっくりと寝た。


私は魔法で作り出したいつも小屋で目を覚ました。


魔力を浸透させて作ったこの建物はどんどんとその強度が落ちていく。


昨晩作ったこの小屋もほとんどただの土に近い強度になっている。


同様に昨晩私が昨日作った櫓も魔力を失って普通の土になって倒壊しているだろう。




私は小屋から出ると1メートルを超えるおおきな弓を手入れするアルスがいた。


「おはようアルス」


「おう、ゲンキか早いな。昨日あれだけ暴れたんだからもう少し寝ているかと思ったぞ」




別に言うほど疲れてはいない。


森で生活しているころは食事のためにあれくらいの狩りは日常茶飯事だった。


「アルスこそいいのか?お前も昨日は黒狼と戦闘してたんだろう?」




昨晩の黒狼の襲撃にの後の話…


私のいた側をおとりにして、黒狼のリーダーは少数でエルフの家畜を育てている場所を襲った。


アルスや長たちは黒狼が襲ってきた時には、大いに議論を交わしていた時だった。


議論といってもアルスの説得むなしく、私を殺すか追い出すかのほぼ2択だったという。


初めの襲撃に長たちは現場に急行する、アルスも同行しようとするが静止され村にとどまるころになる。


そしてしばらくして村は、黒狼のリーダーの部隊の襲撃を受ける。


初めに家畜が襲われているのに気付いたのはイリアだった。


イリアの悲鳴を聞いて、村にいたアルスがイリアを守るために奮闘する。


そこに私が駆けつけて黒狼を倒したという具合だった。




そのあと、私の取り扱いについては再び議論がされる。


と言っても怪我人や死人の対応をしなくてはならないため結論は時間がかからなかった。




1.私は村へ入ることは許可するが必ずアルスと同行すること


2.住むところは村から西に川を越えた地帯とする


3.トラブル等には村は責任を負わない


という条件付きでの受け入れだった。




「まぁ!いろいろあって疲れはあるが食料も取りにいかないといかんからなー」


「ふーん…」




アルスの住まいはというと円柱上に土壁を積み上げ、屋根に円錐形に干し草を積んだような家だった。


家の近くに数羽の鶏のような鳥を飼っている。


場所はエルフたちの村から西側の川を越えるところにただ1軒だけあった。


なんてことはない、アルスもあの村の中では異端児な存在のようだった。




「食料はやはり狩りにでるのか?」


「ああこちら側、西の森は俺の分担地区だからなこの森で狩りをする。」


「分担地区ってのは?」


「うちの村の決まり事でな、それぞれの家で担当の地区が振り分けられているんだ。」


「てことは西側全域アルスの地区か?いやに広いな?」


「うーん…」




アルスは唸り声を上げて、答えにくそうに言う。


「この村を中心に北側は狩れる獣が多いんだ、たまに黒狼が出るがそれでも収穫は多い。東側は隣の村との境界があってややこしいけども木の実なんかも多くあるし危険が少ないんだよな。南は草原も多くて家畜たちの放牧にはもってこいだな。」


なるほど…それぞれ地区に特色があるのか。しかも東には別の村があるという新情報。


いっぺんに聞くと大変だが、もっとアルスには時間をかけていろいろ聞かないとな。


「んで…西側は?いまの口ぶりからすると予測はつくが…」


「ああ、西側はゲンキと会った時にいた森蜘蛛も含めて危険な生物が多くて、基本的には村人は誰も近づかん」


「つまりはアルスは嫌な地区を受け持たされているわけだ、しかも1人で…それは大層腕前を買われているんだな~」


「いや、俺の腕前なんて関係ない。昔からこんな扱いさ。」


「わかってるよ、腕前うんぬんは皮肉だよ。」


「お前!本当に嫌な性格だな!」


盛大にツッコミをいれてからアルスは不格好な陶器のコップの飲み物を飲んでいる、独特の茶色っぽい飲み物…まさか!?コーヒー?いや色合い的にはカフェオレっぽく見える!!


「あ…!アルス!それは何を飲んでいるんだ!!」


「お!おおどうした!?珍しく興奮して?これか?テバシイってエルフの伝統的な飲み物だ、昔から朝にこいつを飲むと気合が入って調子が良くなるんだ…飲むか?」


「ま…まじか!!いいのか!ありがとう!」


テバシイ??いやそれコーヒーじゃないの!?目覚めに利く!まさにモーニングコーヒーじゃねーか!やべーー!すげー興奮してきた!最高じゃねーか!この世界に来て沢山の素晴らしき前世のものを思い出しては諦めざる得なくて苦しんできた!そのひとつが缶コーヒーだった!あのあまーいコーヒーの味!あれをかけらでも味わえるなんて…本当に森をさまよいながらも諦めずにいてよかったーーーー!!


「おい…ゲンキ…大丈夫か?いらないのか?」


「ああ…すまん!ちょっと自分の世界に入っていた!ありがとういただくよ!」


私はゲンキからコップを受け取り勢いよくテバシイを飲んだ……




渋ーーーー!!!!なんじゃこりゃーー!!渋い!しかも本当に微妙な炭酸!!!そして独特のこの風味!アルコールじゃねーかよ!うまみやコクは皆無なのに苦くて無意味に微炭酸!!つまりまずい!!


まずい!!!




「げほっ!げほっ!なんじゃこりゃ!コーヒーじゃねーのかよ!なにこれ?」


「コーヒー?なんだそれ?テバシイは砕いたどんぐりを何日か水につけて作る飲み物だぜ?エルフの各家庭で親から伝統的に作られていてな、家によってそれぞれの味に違いがあってだなーーー」


なんじゃそりゃ!コーヒーじゃないのかよ…アルスが得意げに説明しているが、つまりはドングリを発酵させてつくるビールみたいなものか、ぬるくて渋いビール!最悪だ!朝からビール飲んで気合いれてるんじゃねーよ!くそ!まだ口の中が渋い…




「で?味はどうだったゲンキ?」


「ああ…最高だった、二度と飲まないよ…」




アルスは不思議そうな顔をしている、どうやら最高なのに二度と飲まないと言った意味が理解できていないようだ、本当に皮肉が分からんやつだな。






「さて、それじゃあ…いっちょ森に行きますか!今日の夕飯を手に入れようぜ!」






エルフの村での初めての狩の開始である。

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