第31話 誇り高き者#1
シェルと同じくパーン族の戦士長、ポーテントスが待っていた、
村長からの言伝ても受けているが、どうにも挑戦的な態度である。
シェルは細身であるが、ポーンテントスと呼ばれるこいつは体格は筋肉質で厳つい表情と立派な山羊の角も相まって、オーガの私が言うのもなんだが鬼のようだった。
「シェルリンクスか、まさか本当にオーガなんぞを連れてくるとはな、パーン族の恥さらしめ」
いきなりの悪口。
エルフ族の長もそうだが、オーガのファーストコンタクトはこうも悪いのだろうか…
シェルは気にもせずに飄々とした態度で答えた。
「村長から話は伝わっておるだろう?このオーガ…ゲンキは取引に魔獣の素材をすでに貰っておる、それにこいつは戦士だ。あの件もあるしの」
「あのミミズか…ふんっ、あんなものはうちの部隊だけで対処するものを村長も余計なことを」
「まぁ、そう言うな人手は多いほうがいいだろ?じゃあ連絡したとおり邪魔石を…」
ミミズ?なにやら私の知らないところで話が進んでいるな。
「待て!邪魔石はわが一族が管理しておる!お前と村長がどんな噺をしたかは知らんが、わしの許可も無しに好きにはさせんぞ!」
進みだそうとしたシェルを遮りながら体の大きなパーンのポーテントスが言った。
「困ったなぁ、じゃあどうすればいい?」
シェルは両手を広げながら言う
「では伝統に乗っ取った槍を賭けての勝負はいかがか?俺が勝ったらお前の槍を貰う。」
「それならば構わんぞ、いくらでも相手してやろう」
「ただし!相手するのはお前じゃない!そこのオーガだ!」
いままで目も合わせなかったのに、いきなり私を指差してきた。
失礼なやつだな。
「おいおい!それはいくらなんでも無茶だ!パーン族でもないものに、こちらの伝統に合わせさせるのはいくらなんでも変だ。」
「だが、邪魔石を必要としているのはこいつらだろう?こいつら自身が勝負をするのになんの問題がある?」
困ったようにシェルがこちらを見た、どうしようか思案しているようだ。
いままでの会話から察するに、どうやら難癖つけつつも私と勝負してシェルの鼻をあかしたいといったところかな?そんなことを予測しながら私はシェルに聞いた。
「槍を賭けての勝負ってなに?というかシェルは槍を谷に落としちゃったよね?」
「ああ、槍を賭けるというのは比喩だな、我らの誇りである槍を賭けるとはつまり誇りを賭けるということだ。」
「ああなるほど、けど別に私にはパーンとしての誇りも、ついでにオーガとしての誇りも無いから賭けに見合わないかもよ?」
「ああそうなのか?しかし勝負の結果はこの小さな村のなかでは発言力に影響がでるが…んや、それはまぁゲンキにはいいか」
ああ、私は良くてもシェルにも影響するのかコレ
「あと、この勝負って何をするの?」
「ふん!オーガめ!やる気はあるようだな!教えてやる!ついてこい!」
お前には聞いてないねん!
シェルへの質問を勝手に答えるポーンなんとかが移動した先についていくと、そこには幾人かのパーンの男性が短い槍を7~8メートルくらい離れた的に向かって槍を投げていた。
シェルも持っていた短めの槍は投げ槍だったのか。
戦士長2人とオーガと背負われたエルフの4人に驚きながら、投げ槍の練習をしていた男たちは手を止め場所を空けた。
「みな!聞け!戦士長シェルリンクスの要望により!この俺、ポーンテントスと!そこのオーガとの槍を賭けた勝負を行うこととなった!みなには立会人になってもらいたい!」
いや!やるなんて言うてないし!ルールを聞くだけやん!!
「いや、おまえ、ふざけんな!」
「ああゲンキ、すまんな、もう遅いわこれ。手遅れだ。」
抗議しようとするが、シェルは諦めたように呟く。
全くもってポーンなんとかのペースにはめられた訳だ。そのまま勝手に演説を初めて、回りの男たちも「おお!」とか「なるほど!」とか盛り上がってる次第だ。
そしてそのまま、勝負の準備が着々が進められてしまった。
結局シェルにルールを聞くこととなったが要するに槍投げによる的当てゲームだった。7~8メートルほど離れた場所に木の杭が打たれており、その上に白くてツヤツヤした丸っぽい石が置いてある。そこに槍を投げて的を落とすというもの。
広くは無い場所なので的は横に5つだけしか並べられないので、5個ずつの交代制らしい。
「まじでやるのか…」
「すまんの、ああいうのが上手いんよなポーンテントスは。人望があるというか、人の上に立つのが上手いというか。」
「単に口達者なんだろ?」
「かっかっ!そうとも言うな」
「だけど、これ後で勝っても誤魔化されて言い逃れされたりしないかな?」
「大丈夫じゃわい、これだけ男たちを前に誤魔化せんし、槍を賭けるとまで言ったのだから。しかし、頼もしいの?」
「え?」
「いや、すでに勝った後の心配とはな~自信ありか?」
「そんな訳ないだろ、単に負けられないだけだ」
私はそう言ってアルスを見た、背負っていたアルスは一度降ろして横にしている。呼吸は荒く熱っぽいのは変わらない。
解決策が分かったのに、手を打てないでいる現状に少しイラつきを覚えた。勝負に勝てなければ奪ってでも助けてやろうか…そんなよこしまな考えがバレたのかシェルが私の顔を覗き込む。
「まぁ、なんにせよゲンキがどういう勝負を見せてくれるのか楽しみだわい」
シェルが軽く言う。この男も無関係ではないはずだが、なんともお気楽なやつだなと思いながらも私は勝負の相手を見た。
いくら体つきが良いといってもパーンの中ではというだけで、オーガの私から見れば小さい。身長差を使って威圧的に一睨み。
向こうは少し怯む素振りを見せたが、負けじと自分を鼓舞するように声を出した。
「それでは!互いの誇りを賭けて!戦士の名に恥じぬ勝負をしようぞ!」
ポーンなんとかはシェルを見て高らかにそう宣言した。
いや!私を見て言えや!
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