第30話 パーンのシェルリンクス#4

パーンの隠れ里は洞窟のなかにあった。


広いひとつの空間に幾人かの人が生活をしているようだ。


壁には穴が空いており、窓やドアのようにしているところもある。おそらく住居だろう。また、岩を積み上げて鎌倉のようにしている倉庫や、岩石をくり貫いた建物?みたいなものもある。


エルフ村に負けず劣らず貧相な村だ。




シェルが到着すると、シェルのような山羊の獣人が2人槍を槍を構えながら出迎えてくる。


「おかえりなさい戦士長…そのふたりは、いったい」


出迎えてきた1人が私と背負っているアルスを見て言った。


「客だわ、心配いらん試しの崖も自力で通った。それよりもふたりを村長に引き合わせたい、取り次いどいてくれ。」


「…はっ!分かりました。」


シェルは軽い口調で指示をする。


「シェルって偉かったんだ。」


私はシェルを見ずに言った。


それに対してシェルも村長のところに行ったであろう2人を見ながら答えた。


「まぁな、この村に4人いる戦士長の1人をやっている。」


「へぇ、しかし大丈夫かな?私ってほら…あれじゃん」


「オーガか?」


「ああ、なんか襲われたりしないかな?」


「それはない」


「そんなこと言い切れるの?」


「戦闘行為は戦士長の全員の同意が必要だ。」


事も無げにシェルは言った、どうやら合議制で村の運営はされているようだ。4人しかいない戦士長のうちの1人ならシェルは中々の権力者ということになるのだろうか。


そんなことを思案しながらも、私はアルスの現状をどうにかしてもらうための交渉に向け、少し気合いを入れ肩を震わせた。










「かまわんよ。」


私は口を開けて脱力した。


戻ってきた2人に連れられ村長のところに来た、そこでアルスのことを相談するとあっさりと受け入れてくれたのだ。


開けた空間の広場にポツンとある丸い石をくり貫いた、かまくらのような家に村長はいた。


年老いたパーンの老婆だ、顔はシワだらけで角も枯れ木のようだ。尊重の家はとても小さいので中には入らずに玄関先で立ち話をするような感じでの会談となった。


お前らに協力するのはかまわないよ。


事情を説明するとあっさりOKをしてくれた。


拍子抜けだ。


「だ、そうだ良かったな」


シェルが私を見て言う。


「そんな簡単でいいのかよ、まぁ助かるけども。じゃあ早速アルスのこの状態どうにかならないか?医者とかいるのかこの村?」


「医者?んにゃ、そのエルフさんなら大丈夫。体から魔力が零れて制御が出来なくなっとるの」


村長が答えてくれた。


「若い、子供なんかがこういう症状になることはあるの。大人では見たことないがぁ、一緒じゃろ。」


「ああ、過剰魔力の状態だったのか。」


村長の診断にシェルも納得する。


「それってこのままで大丈夫なのか?治す方法はあるのか?」


「普通の過剰魔力なら邪魔石が有効だが、それは成長過程の子供の話だ。このエルフの場合は普通の邪魔石で足りるかどうか。」


「数さえ用意すれば大丈夫じゃと思うが、邪魔石の管理はポーテントスの管理じゃ。交渉はお主がせよ。」


「やっかいだなぁ…」




それから、村長に礼を言うと、シェルは案内したパーンに私が大鳥サウルスを狩った場所を教えている。


そういえば取引の材料だったが、全部は持ってこれずあの場所に置いてきていたんだった。どうやら回収に向かわせたようだ。


「うう…ゲンキ大丈夫か」


「おう、どうやら原因も分かってなんとかなりそうだ。もう少し我慢してくれ。」


「そうか…すまん。」


背中に担いだアルスが頼りない声で話しかけてきた。




村長の話ではどうやらアルスは今、過剰魔力の症状らしい。


魔力のコントロールができない子供がたまにそんな症状になるらしい。どうやらアルスの場合は、大鳥サウルスの心臓を食べて私の予想通り魔力が上がったのは良いが、急激にあがった魔力を制御出来ずに苦しんでいるらしい。


死ぬことは無いがこのまま制御出来なければ苦しみ続けてしまう。その対策として邪魔石という鉱物を使うらしい。


邪魔石は魔力を保有する魔石とは違い、魔力を吸収するのだそうだ、それを側に置くことで余分な魔力を吸わせて、少しずつ魔力を馴染ませてコントロールさせるんだそうだ。




事情を聞いて少しだけ安心したが、ひとつだけ気がかりが出来た。邪魔石をこの村で管理しているのがポーテントスというシェルと同じ戦士長の1人なのだそうだが、どうやらシェルと折り合いが悪いらしい。


「ゲンキ原因も分かったようだし、邪魔石を借りにいくか」


「借してくれそうなの?そのポーテなんとかとは?」


「角が立たんように村長から使いを出して貰ったがどうじゃろうなぁ~まぁ、行かないと始まらんさね。」


「ふーん」


シェルはそう言って移動し始めた、途中で村人であろうパーンたちを見かけたが、私を見てみんな驚いて固まっている。そりゃそうだろう。


中には小さな子供のようなパーンや、料理をしている女性たちがいた。開け放たれた空間の一角にテーブルがいくつかあり、椅子になる意思が置いてある。皿を並べて料理をもりつけている。


どうやらパーンたちは村全体で食事をおこなっているらしい。


なので壁に開けられた部屋や、かまくらみたいな部屋はそれぞれの寝所でしかなく、他のキッチンやダイニングスペースは共有なのだ。通りで村長の家も小さいわけである。




そんなことを考えている間に目的地に着いたらしくシェルが立ち止まる。


「やぁ戦士長ポーテントス」


「シェルリンクスか…」


槍を立てて仁王像みたいな表情の体つきの良いパーンが待っていた。


どうやら一筋縄にはいかないような悪い予感がした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る