第22話 過去との決別#2

私とアルス森を最も深い場所を目指して進んでいた。

目的地は西にそびえる山脈の中でも一番高い山の麓当たりだ。

背の高い木々の中をアルスの案内で方向感覚を失わずに進めている。


西にそびえる山々はエルフたちが居住する森よりもさらに狂暴な魔獣がおり

地形も険しいため畏怖の念を込めて畏山おそれやまと呼ばれているそうだ。


「昔、親父に畏山には不用意に近づくなと言われたよ。」

足場の悪い森をかき分けながらぽつりとアルスがつぶやく

「だが、ある時畏山のすぐそばまでの道を教えてくれた。その時は親父の道案内で

二人で1か月がかりで森を進んだんだ。森を抜けた先に大きな湖があってな

そこに着いて親父が言うんだ。この湖から川沿いに進むと畏山に行けると…」

アルスが昔話を少し感傷的に話ている。私はアルスの後についているので顔は見えないが

声のトーンがそう感じさせる。


「畏山への道のりを教えてくれて親父が言ったよ、これでアルスも一人前だと…

ただ繰り返し言う不用意に畏山には近づいてはならない。

この場所は魔力も濃く実りも豊かだが魔獣も狂暴で得体の知れないものも多く

力なき者は命を失うと…」

「ふーん」

思わず興味なさげな返事をしてしまった。

まあ…あの山への道のりを意外にもアルスが知っているということは僥倖だった。

正直この森を抜けることが一番の気がかりだった、これではかなり早く戻ってこれる計算になる。

2年とか言ってしまったのがウソになっちゃうな~とか考えての返事だった。

アルスは私の返事は気にかけずに、すすむ先に飛び出た草や枝を短めのナイフで切り裂きながら進む。まあ細かいことだが、道を作ってくれるのはありがたいが彼のサイズに切り開かれるので

体の大きな私は時折からだに枝葉がひっかかる。


「いまの話さ、なんかひっかかるだろう?」

アルスはやはり振り向かずに私に問いかけてくる。

「ああ?さっきから道が狭いから体に木の枝が引っかかったが?」

私はおどけて言う、アルスはやっと私の方に振り向いた。

来ている毛皮に葉がたくさんくっついているのを確認してあきれている。

「いや、そんな話じゃなくて。」

「冗談だよ」

「ゲンキの冗談はわかりにくいな」

「なんか暗い話になりそうだったからな」

「……」


気づいたらアルスは先ほどより気持ち広めに道を切り開いてくれてるようになっていた

「なんで父は近づいてはいけないと言った場所にわざわざ俺を連れて行ったんだろうか。」


…沈黙である。

予想通り暗い感じの話をしてきたアルスは勝手に疑問系を投げ掛けてきて、どう答えろというのか。

森のなかを何処からか怪鳥の鳴き声やら、虫の鳴き声だけが響いている。

「知らんよ」

「…オーガはみんなそんななのか、話がいがないというか」

「会ったことがない人間が何を考えてたのかは知らん、何か意味があってのことかも知れないが、アルスに分からないことが私に分かるかよ。ただひとつ言えるのは…いまこうやって道案内をスムーズにしてもらえるのはアルスの親父さんのおかげかな」

我ながらうまくまとめた。

いや、実際かなりありがたい。

私はアルスのいたエルフの村まで道に迷うようにしてたどり着いたわけだが、その手間と日数は随分かかった。

木々の生い茂るだけのこの山で、位置を確認するのは至難である。

ましてやなんの目印もない場所へたどり着くなんて芸当は普通にはできないのだから。


「そうだな、父さんはが教えてくれたことだ。何かの役に立つことだったんだろう。それが今この時かはわからないが」

と、ここで少し開けた場所にたどり着く。

目の前には20~30メートル程度の滝があり、獣が水飲み場にしているようだ。

「あれ、しまった。思った場所と違う場所に出ちまった」

アルスが不安なことを言う

「いや、お前なぁ」

本当に役に立つのか立たんのか分からないナビゲーターである。

「けど、ちょうどいい獲物がいるな、日も傾いている。今日はここで泊まるか」


アルスがしゃがみ茂みに身を潜める、そしてこちらを見る

私も身を潜めろということらしい。

体を小さくしてみるがかなりきつい、大きなこの体にはかなり負担な大勢だ。

アルスが弓の弦を張りなおす。音をたてないようにゆっくりと

しかし無駄なく手早く弓を準備する様はとても洗練されている。


滝つぼの水を飲む獣が見える。

角が複雑に曲線を描いたトナカイのような生物だ、距離は150mくらいか。

ぐっと弓を引き狙いを定める。

この距離で何に感づいたのか、そのトナカイのような獣は水を飲むのを止めて

周りの様子を伺うような動作をする。そしてその場を離れようと体制を直そうとする瞬間


ビュン!


アルスの放った矢が鋭い弧を描き、その獣の胸の方に刺さるのが確認できた。

「よし!」

しかし、確実に致命傷だが、矢が刺さったままその獣が逃走をしようと駆け出した。

「あ!逃げる!」

「ゲンキ!」

「OK!」

「おっけー?」

呆けたアルスを置いて私は致命傷を負った獣を追いかけるために駆け出した。

開けた場所から森の中に逃げ込もうとする獣、

その足どりは明らかに弓のダメージを受けて遅い。

血の痕跡を辿り、森の中にはいる。

今夜の夕食だ、逃がすわけにはいかない。




アルスは先に行ったゲンキのあとを追い滝つぼのあたりまで来た。

獣に矢がヒットしたときの跡を見て、これは確実に致命傷だなと思い

ひとりにやりとした。

あとは、森の中からゲンキが獣を回収して帰ってくるのを待つことにした。


ガサ!っと大きな音を立ててゲンキが戻ってきた。

「よお、もどったな、あれ獲物はどうした」

アルスの問いにゲンキは答えない。

それどころかゲンキはアルスのほうに走ってくる。

「な!?どうした」

「やべー!なんかいた!!!」


そう言いながらゲンキは後ろを振り返る。

振り返った先の森からゲンキの倍以上の大きな鳥のような爬虫類のような魔獣が現れた。

先ほどアルスが狩った獣を口に咥えながら。


「な!なんだよこれ!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る