第23話 過去との決別#3

ガギャーー!!


なんとも言えない奇っ怪な鳴き声をしながらそいつはゲンキを追って出てきた。

大きな口には歯が並び、不格好な2本足で歩く鳥のような体のそいつは

ゲンキの倍くらいある。

獲物を横取りされると思ったのかけたたましく咆哮している。

いや、横取りをされたのはこちらだが。


ゲンキというば「おーい」と言いながら

楽しそうにこちらに手を降っている。あんなとんでもないものを連れてきてふざけるな。


「ゲンキ、なんだあれは?」

「ああん、大鳥サウルスだな」

「大鳥サウルス?初めて聞いたぞそんな生き物?」

「ああ、私が勝手に決めた名前だからな。」

ゲンキはあの生物を見ても余裕の表情だ。クマアラシよりも大きく狂暴そうに見えるおそらくは魔獣。

やはり、不用意に森の奥に来たのがいけなかった。


「やっと、お前の修行に最適な奴が出てきたな。畏山に向かったのは成功だったなアルス。」

「はぁ?」

思わず大きい声を出して聞き返してしまった。

何を言ってるんだこいつは、馬鹿なのか。

「まさか、お前の言っている強くなる方法って!」

「ああ、戦いの技術なんて分からないし。私がなぜ強いのかもちゃんと理解してないからな。私が生き残ったようにアルスも生き残るんだ」

「はぁぁぁぁ、てめぇ!父親の遺言を破ってまでも、こんなところにまで来てるのに!そんな雑なのがあるかよ!」

私の文句も聞かずにゲンキは私の横を通りすぎた。

そのまま大きくジャンプをして高い木のうえに登り静観の構えだ。どうやら本当に手を出す気はないらしい。


大鳥サウルスはというと、ありがたくないことに

逃げたゲンキではなく俺に狙いを定めたようだ。大きな口のわりに小さな目を俺に向けている。

考えられない、避けられる危険にわざわざ飛び込むなんて。

そんなことが、強くなる方法だなんて。


ガッギャー!


興奮気味に鳴き声をあげ、大鳥サウルスが飛び込んできた。

弓を構えようとするが、手が動かない。

恐怖によって身動きがとれなくなる。

やたらと頭ははっきりしているが、どうにも体は動かないし

ああ、なんか時間もゆっくりに感じるなぁ

恐怖しているわりには、やたら色々なことを考えられるぞ。

ああ、森蜘蛛、黒狼に続く災難だ。

本当にゲンキにあってからろくなことがない。


このまま、死んだらイリアはどう思うだろうか。

泣いてくれるかな、

そういえば、あの時-------

イリア泣いてたな


--------------


俺はゲンキが仕留めたクマアラシの素材の取引をするために、村でも一定の知識があるイリアを尋ねた。

長の家に行くのはゲンキの件もあって、少し気が引けたが今回の収穫で多少強気になっていた。なにしろ貴重な素材であることは間違いないのだから。

長の家の前はいつもより賑やかだった。

この村では見かけないエルフもいる、なかなかに豪華な布で出来た服を着ている兵士のようだ。

よその村の長でも訪ねて来ているのだろうか。


まぁ、俺は長ではなくイリアに用があるから関係ねぇだろうと家に近づくと、こちらに気づいた兵の一人が俺を止める

「おい!なんだお前は!今はここは立ち入り禁止だ!見て分からんか?」

高圧的な態度だ

「あぁ?べつに長に用ってわけじゃねぇよ、イリアに、ここの娘に用があるんだよ」


「だったら尚更出直して来い!今は忙しいんだ!」

「あん?なんだテメー!」

「こいつ!我々の言うことが聞けんのか!」

家の前で騒いでいると、また誰かが出てきた。

「おい、どうした、何を騒いでおる」

中からまた見知らぬエルフが出てきた、外にいる兵士よりもより一層豪華な出で立ちで

背丈は高く、太い眉毛に大きな目

服の装飾に特有の紋章が入っている。

ボガード族だ。


「俺はここの家のイリアに用があってきたんだ、お前こそなんだ」

「私はボガード族長のタイソン・ボガードの三男、バリンガンである。せっかく来てもらって悪いが今は立て込んでおる。時を改められよ。」

珍しいこともある。

ボガード族が立場の下の、ましてやエルフの村のなかでも1番端にあるトルスタン族のところまで、呼び寄せるわけでもなくむこうから来るなんて。

さらに、長ではなくイリアに用がある。

色んな疑問を抱えながらもいったんここを離れようとしたとき

ボガード族の三男は、俺が持っていたクマアラシの素材に目を付けた。


「ほぉ、貴様が手にしている物は、魔獣の角か何か。貴様が狩ったのか?」

「だったらなんだ」

「なるほど、で?そんな物を持ってイリア殿になんの用だ?自慢でもしに来たか?祝いの品を持ってくるならば気が早いが?」

「祝い?なんの話だ?」

「トルスタン族の娘と私の結婚の祝いだよ」

そう言うとバリンガンはニヤリと嫌みな笑顔をした。


一瞬で俺は頭が真っ白になった。

「な、何言ってんだ?イリアが結婚?」

「ほぉ?その様子では何も知らないようだな、以前からトリスタンからは何度も打診があって、イリア殿も承知の話だったのだか。」

「ふ、ふざけるな!」

私が詰め寄ろうとすると、控えていたお供の兵士がそれを遮る。

「貴様!無礼であろう!」

「それ以上近づくな!」


そんな騒ぎに気づいた、イリアの父、トルスタン族の長が来た。

「何の騒ぎだ?」

いつもの馬鹿でかい声はどこえやら、余所行きの上品声を出している。

「おまえ!アルス!バリンガン殿に対して何をしておる!」

「いやいや、構わんのだ。ただこの者と世間話をしておっただけなのだから。何者だ?彼は?」

「はっ!失礼があったら申し訳ございません、なにせ西の森そばで暮らしているエルニット族の者でして」

エルニット族の名を聞いて、すべてを理解したようだ。


「ああ、なるほど。凋落の一族のエルニットか…ならば無礼な態度も納得だな。魔獣の素材でも拾って生きておったのか。」

馬鹿にする態度。

護衛の兵士も嘲笑の態度だ。

「取り消せ!貴様!一族への無礼は許さん!」

「何を言うか、事実ではないか。エルフを破滅へと導いたエルニット。お前の祖父さえいなければこんな隠れるような暮らしをせずに済んだのだ。」

「黙れ!この野郎!!」

「えええい!黙るのはお前だ!アルス!トルスタン族とボガード族との関係を深める良き日を台無しにする気か!」


「では!トルスタン族は関係ない!エルニットの末裔として!ボガード族のバリンガン!貴様に決闘を申し込む!!」

「アルス!いい加減に!」

「いや、いいさ。受けてやろうその決闘、トルスタン族とのいざこぞと関係ない事なら親父殿も文句は言いまい。大人しく村の端で生きておればいいものを、立場をわからせてやる。」

「ああ!望むところだ!このー」


怒りの勢いのまま家の玄関近くまで来て気づいた。

長の後ろにイリアがいたことを…

このやり取りを聞いて泣いているイリアの姿が見えた。


ああ…俺は何をやっているんだろう。

俺は…



ブオッ!!


ゲンキのけしかけた魔獣が目の前で大きな口を開けていた。



「アルス!!!」

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