第13話 召喚された者

「……また彼女を見に来ているの?」

 後方からの声に振り向くと、眼鏡の男が入り口に立っていた。


「うん、とても綺麗ね彼女……ねえ、生きているんでしょう?」

「フフ、まったく君は賢いね。そうファーストは生きている」

「ファースト?」


「ああ、検体一号、ファーストと私達は呼んでいる」

「いいの? 私に本当の事を言っても?」

「ああ、これくらいは別に構わない」


「……彼女は何者なの?」

「大型ハドロン衝突型加速器って知っているかな? スイスとフランスの国境に設置されている全長27Kmの装置の名前だ」

「ハドロン?」


「粒子を光速で衝突させ、その衝撃で地上では起こらない、現象を観測する装置さ」

「その装置が彼女に関係あるの?」

「そうだね、直接ではないけど関係はあるかな」

「……その辺は言えないのね」

「ああ、今はまだ言えない」

「……その装置を使って、何を調べたいの?」


「装置本来の目的は、重さを発生させるヒッグス粒子、その他超対称性粒子の発見。もしかしたらブラックホールが発生する可能性もある。ブラックホールが発生し地球を消すかもしれない……そんな訴えが裁判所に出されたりした。だが、この規模のシステムでは、衝突させる粒子の質量が少なすぎて、もしブラックホールが発生しても、磁場を維持できずに瞬時に消えてしまう。観測するのは難しいだろう」


「まるで、ブラックホールが出来ないのが残念そうね」

「ああ、残念だよ……とっても」


 眼鏡の男は水槽の女を愛おしそうに見ている。

 あたしは眼鏡の男の、水槽の中の女を見つめる視線が気にいらなかった。


「それで、その実験はうまくいかなかったのね!」

 少し語尾を上げて眼鏡の男へ言葉を放つ。

「いや、実験は続いているよ。まだ結果は出ていない……それと」

「それと何?」


「僕が興味あるのは、もう一つの可能性の方だ」

「……他にもこの世界では、自然に起こらない事があるの?」

 水槽の女を見ながら、眼鏡の男は呟いた。


「異次元世界の召還」

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