第14話 老人
大きな黒塗りの車に乗った、灰色の背広を着た老人達が大勢で研究所を訪れた。
そして連日会議が行われている。あたしの好きな眼鏡の男は開発者のリーダーで、
老人達との会議に毎日借り出されている。
「なんだか……つまんないなあ」
夏の終わりの秋の風が吹いている。
あたし達が外に出て良いのは、午後の二時から四時までの時間。
遊ぶ場所も、研究所の高い壁に囲まれたこの庭だけ。
なにもする事なく、あたしは椅子の上で足をブラブラしていた。
庭には他に少女はいない。
「ほう……おまえがセカンドの候補か」
静かだけど、何か得体の知れない力がある声。
あたしが振り返ると、施設の庭の出入り口に立っている老人。
帽子を被り、丸い黒い眼鏡。葉巻を口にくわえている。
「セカンド? それあたしの事? それと、ここは禁煙よ」
あたしの返事には構わず、葉巻を口にしたまま近づいてくる老人。
「ここで、これを吸って、咎められない者もいる」
あたしの前に立った老人は、あたしの顔をしげしげと見つめた。
黒い縁の眼鏡から除く、ギョロリとした目は悪魔のように冷たく人間らしさを欠く。深き刻まれた皺が老人を人間ばなれした存在のように見せる。
地味だが仕立ての良い背広、そしてその尊大な態度から、老人がこの研究所のスポンサーの一人であることが分かった。
「ふーん、なるほどね。ここのスポンサーの中でも、あなたは別格なのね」
老人は、初めて興味がある目であたしを見た。
「ほう。あとは何が分かる?」
「あなたが、決断する立場で、人の意見を聞く事が無い事……あとは」
「あとは?」
「……少し苛ついている」
「クク、これはいい。全部うまくいかなくても、まったく駄目というわけではない」
老人は硬い表情を壊して笑ったが、それでも目の奥は冷たい光のままだった。
あたしは老人から視線を外して、夕暮れに向かう赤い景色を見ながら呟く。
「それって、この研究所の所長の事を言っているの?」
葉巻を口から外した老人は深く頷いた。
「どうやら少々短気になっていたようじゃな。あの者も僅かだが成果は出している」
「人を褒める時はもっとわかりやすくね。所長や職員に直接言ってあげなさいよ」
老人はあたしが見ている方向、夕日が落ちる研究所の塀の外を見た。
「……つけ上がる。褒めればそれでいいと、現状でいいと勘違いする。人間は強いプレッシャーの中で力を出す。それは少し間違えば死する程の加減で丁度いい」
「ふ~ん、あなたが期待する人は、今、死にそうな目にあっているのね」
ギョロリ、黒い眼鏡の中で老人の目は、悪魔のような視線をあたしに送った。
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