第10話 情熱を持てないリアル


 アスタルトが欲しい、レアアイテムを落すモンスター迎撃に出撃出来る状態。


 いつもながらの、アスタルトの素早い行動には感心する。

 ネットの中では別の自分にはなっているが、見知らぬプレイヤーに声をかけて、お願い事をする、そうゆうのはゲームでも僕には苦手な行動だった。


「ちょっと、待って、直ぐに準備する」


 慌てて、OSの起動が済んだPCのアイコンをクリックして、ゲームを起動する。

「予定は先に言ってよ、他のプレイヤー待たせたら悪いだろ」


 初心者に多いが、ゲームに存在するプレイヤーキャラをNPCだと思っている人が、たまにいる。

 NPC(ノンプレイヤーキャラ)つまり、人間が操っていないキャラ。


 ネットゲームでなければ、普通はゲームのキャラは全てNPC。

 どんだけ待たせようが、文句は言わない。


 だけど、ネットゲームは人間、プレイヤーが操るキャラが存在する。

 その辺を理解しないと「アイツは人の都合を考えない」と評判が立ち、クエストやレアモンスターを狩る時に協力を得られなくなる。


 リアルでも、集合時間に遅れたら、良い評判は立たないだろう。

 僕は人に干渉されるのが嫌だが、誰かに僕の事を悪く言われるはもっと嫌だった。

 殆ど人との接点を持たない、今の生活を寂しいとか思った事は無かったが、このゲームのプレイヤーの繋がり、多くのプレイヤーと知り合い、気が合った者とフレンドになる世界。そこには学歴も、収入も地位もない、この世界は大切だ。


 ゲームの世界で、僕とアスタルトはジョブも、気持ちも息も合っている、リアルの世界の誰よりも長く一緒に過ごすフレンドだった。

 アスタルトは前衛の攻撃役のモンク。

 敵の注意を引く、ヘイトコントロールと、通常ダメージを与える事が大事な仕事だ。


 僕は後衛からモンスターの弱点を突く魔法を打つ。

 ジョブの組み合わせでも前衛と後衛、性格も積極的と慎重、組み合わせは良かった。

 ゲームをやらない人から、言われる事がある。


「この膨大なゲームへかける、時間と情熱がもったいない。リアルの世界で使えばいい」


 確かに一理ありそうな意見。


 でもリアルの生活で、僕はネットゲーム以外に、集中し情熱を掛けるものは見つからなかった。特別に何かを始める気も起こらない。

 やはりゲームの世界以外には、この情熱と時間は使えそうもない。


 長時間ゲームにかける情熱の元になっているのは、ゲーム内容だけではない。

 ゲーム中の仲間の存在。フレンドがゲームを続ける大きな要素になっている。

 一番仲がよいアスタルトには、実際には会った事もないし、本名も知らない。

 住んでいる場所も知らない。でも、ゲームの中では仲が良いしウマが合う。


 たぶん僕とは、年齢も環境も全て違うだろう。

 でもゲームの世界では、そんな事は関係ない。

 僕はアスタルトの事が好きで本当の友達だと思っていた。

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