第11話 少女の問い

 簡単なクエストだとはいえ、本人が言う、一時間でアスタルトの願いが叶うとは思えない。

 通例のギルドのクエストは断り、結局、朝方までアスタルトのレアアイテムを取る為に、エリアボスを倒し続けた。


「やった! 出た!」

 レアアイテムとしては比較的、ドロップしやすいものだったが、それでも手にするのはたやすいものではない。六人が力を合わせて、何時間も同じ作業を繰り返した結果だ。


 アスタルトは勿論、僕も嬉しかった。

 そして急遽集められた、他の見知らぬ四人のプレイヤーも喜んでくれた。


 こんなに苦労して得たアイテムも、所詮、記号、コンピューター上でのデータでしかない。それどころか、僕たちもコンピューター上でのデータ。


 でも、その時は全てがリアルに感じられ、手に入れたレアアイテム、銀色の小手をみんなで見た。ウィンドウの装備欄に「銀色の小手……力5」と表示されるだけ。


 それでも深夜、眠さを我慢してアスタルトの為に、五時間以上かけた成果。

 それはとても重要な仕事をクリアしたみたいだ。


「良かったね。アスタルト」

 何度目かのお祝いを述べた時、僕は気がついた。

 久しぶりに、僕の魔法使いのレベルが上がっていた。


 僕の魔法使いは高レベルで、レベルアップに必要な経験値は長い時間と、沢山のモンスターを倒す必要があった。だから自分で忘れるほど久しぶりのレベルアップだった。


「おめでとう!」


 今度はアスタルト、他のパーティーメンバーから祝いのチャットを貰う。

「それと、魔法使いの彼は誕生日なんだ。昨日になっちゃたけど」

 アスタルトのパーティーだけに聞こえるチャット。

「おお、誕生日おめでとう!遅くなってごめん」


 他の四人がチャットで僕の誕生日を祝ってくれる。

 こんな時は見知らぬプレイヤーが、とても身近に感じられ、とっても嬉しい。

「ありがとう! みなさん! 本当にありがとうございます」

 僕はパーティーチャットでお礼を言い、誕生日祝いと称してその後もゲームは続いた。


 ログアウトした時、僕の部屋には朝日が差し込む。

 さすがに疲労を覚えた。

 温かい布団より何故か落ち着く、湿った布団に包まり眠りにつく。

 今夜は血の臭いのする夢を見ない……そんな気がした。

「楽しかったね。アスタルト」

 リアルでは言えない自分の気持ちを呟き眠りについた。


 一時間ほど経った時、枕元がぼんやり明るくなった。

「……くん」

 眠りにつく僕に、またあの声が聞こえた。

「また……あのアプリか……でも……さっき、アプリは中断した筈……」


 疲れ切った僕の思考はそこで止まり、意識が戻る事は無く、今度は深い眠りの谷に落ちていく。

 紅い瞳の少女が写る画面に、僕が選択するべき回答が表示されていた。

 それは昨日、歩いている時に保留にした選択肢。


 “あたしを感じられる?”


 少女が問う“はい、いいえ”の選択肢。

 寝ぼけたまま、僕はスマホの“はい”を選択した。


 少女は頷き瞳を閉じて、微かに聞こえる声でゆっくりと物語を紡ぐ。

 眠った僕に、静かに物語を語り始める……

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