第48話 夢の真実
ずっと側にいる赤い瞳の女、ケルブは子供に乳を与えるように、儂が人々を食らう姿を見ていた。
人間を食べ終えた儂は、悠然と立つケルブを見て強く思っていた「まだ足りない」と。
儂は横に立つケルブを両手で持ち上げた。
「母親の……愛は……種族を……厭わないのだな」
儂の目線に持ち上げた、ケルブは愛しそうな視線を向けている。
「言ったじゃない。私は女で子を産み育てるのが使命だと。私の子供がこの世界を覆うことがあたしの夢」
「ケルブ……血天使の……夢か」
いきなり儂は自分の両手に力を込めた、全力で。
ケルブは紅い瞳を儂に向けた。
「何をするの? やめなさい……」
世界を覆う者である儂は笑いながら、力を更に込め始める。
「……ケルブ……私の望みは……血天使の……力を得る事……次元を越えて他の世界へ行く……そして蹂躙する……この世界の人々が受けた神からの試練……今度はそれを私が……その為に血天使の血と肉……それを食らう……かつて……人魚を食べた者……禁断の竜の魚を食べた者……異界の血と肉……それを食べた者は……人を越えるのだ」
世界を覆う者の手の中から、苦しそうな微かな声。
「あたしを食べて力を得る? 既に十分な力を持っているじゃない」
その言葉を聞いて、儂は更に力を込める。
「……もっとだ!……もっと必要だ……おまえを食らい……血天使の力を得る……本物の神になるために」
グシャ、肉と骨が潰れる音がして、儂の両手からドロッと血が滴り落ちる。
「やったか! やった……ハハハハハハ」
世界を覆う者である儂の笑い声だけが、その場に残った。
「これで……儂は唯一無比な存在……さあ食らおう、神の肉と血を」
儂は自分の手を口にあてがい、ケルブの血と肉をゴクゴクと飲み始める。
儂はついにその望みを叶えた。この次元で最高の生物になった瞬間。
「……なんだ……この味は……」
ドロッとした感触、兵士を食らっても感じなかった強い血の匂いと鉄の味。
儂の目に映る景色がぐらりと歪み、ザラリとした質感になり、一部の景色が欠けはじめた。
「……なんだ?……これは」
幾筋もの亀裂が入り歪む儂の視界。
「あ~あ、だからあんまり、負荷の高い画面は無理だって言ったのよ……ラグッたり、ポリゴン落ちしちゃっている……完全にサーバーのグラフィック能力をオーバしちゃった」
ケルブファーストの声では無かった。それは少女の声。
儂がその声の方を向いた時、周りの景色がジグゾーパズルの様に、バラバラと崩れ落ちた。今まで見ていた風景の全てが崩れ落ちた時……
目の前には白い部屋が広がっていた。
「ここは研究所のケルブの部屋!?」
水槽には紅い髪、紅の瞳を閉じたままの血天使、ケルブが立っていた。
「……どうゆう事だ……何も変わっていない。だが、儂は世界を覆う者になった。その巨大な力で人を殺し食らい、ついにケルブまでも食らった……それなのに……」
儂の腹からは、大量の血があふれ出していた。
「なんだこれは? いつのまにこんな深い傷が」
少女の声が響く。
「さっき、聞こえなかった? 自分の肉と骨が砕ける音」
「ファーストを両手で砕いた時……まさか……」
嬉しそうな少女が聞こえる。
「正解! あれはあなたが自分の身体を砕いた音だったの」
研究所のディスプレイが点灯して、紅い瞳、ツインテールの蒼い髪の少女が儂を見る。
「おまえは……セカンド?」
少女は可笑しそうに笑った。
「ええ、脳をぐちゃぐちゃにかき回され、生体チップとか、分けの分からない物を抜き取られた。そして腐り始めた身体を見て、眼鏡の男はあたしを捨てた……それが私、セカンド」
「セカンド……ファーストはおまえが操っていたのか?」
「いえ、彼女はずっと眠ったままよ。あなたが破壊した世界は、あたしがこの研究所のサーバーを使って作りあげたゲームの世界……フフ、気がつかなかった?」
全てのディスプレイの画像が切り替わり、壊滅した軍隊と紅い瞳の女を掴み食らう巨大で忌まわしい怪物の姿が映し出された。
ドクン、大きく傷ついた腹部を押さえ儂は叫んだ。
「なんだって?」
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