第16話 血の天使
「……つまんないなあ」
あたしが何度目かのため息をついた時、聞き覚えのある声がした。
「そろそろ時間だよ。中に入らないとね」
振り向くと眼鏡の男が立っている。あたしは嬉しくて彼にニコッと笑った。
「久し振りだよね。一週間ぶりくらい? 会議は終わったの?」
私に近づきながら、眼鏡の男は答えた。
「ああ、一応は終わったよ」
弱い日差しの中、背伸びをした眼鏡の男。
その様子を見てあたしは、思った事を口にした。
「ふ~んそうなの……確かに大変だったみたいね」
「ああ、結構大変だった。老人達が中々納得してくれなくてね」
「でも……いい事もあったでしょう? 少し嬉しそうだよね?」
あたしを一瞬見つめてから、笑い始めた眼鏡の男。
「フフ、まったく君は賢いね。実はさっき、この研究所の所長になったんだ」
「へえ~良かったじゃない、でも手放しで大喜びとは、いかないみたいね」
あたしの答えに素直に頷いた後、眼鏡の男は笑いながら話を続ける。
「フッ、実はそうなんだよ。老人達は、私達の研究のスポンサーなのだが……私を所長にする代わりに、研究の早期実現を要求している、結果を早く出せとね」
「そうなの……でもおめでとう、と言っておくわね」
「フフ、ありがとう。君に言われると嬉しい、少し所長になった実感も出てきた」
「あたし?……ところで前から思っていたけど、ここでは何を研究しているの?」
「天使を探している」
「天使?」
「そう、天使だよ」
「天使を見つけて、どうするの?」
「老人達の望みを、叶えてやるのさ」
「望みって?」
「……さあ、そろそろ時間だよ。戻ろう、研究所に」
「うん。ところで、最近あたし以外の、女の子達が見えないわね」
「ああ、彼女達は家に帰ったよ」
眼鏡をスッと引き上げて、新しい所長は無表情に言った。
「用無しだ……」
「え?」
私が聞き返した時に、所長は私の手を取った。
「さあ、行こうか」
「うん」
手を繋がれたあたしは、上機嫌で歩き出した。
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