第24話 古い橋の袂
僕は好意を持ち始めていた。リアルでは存在しない者に。
その後もゲームに現れるツインテールの少女は、話題が豊富でなにより僕の性格をよく解ってくれた。
人と接するのが苦手。親ともうまくいかない僕の性格。
別に自分で、避けているわけじゃない、わざとしているわけじゃない……
でも、僕がいないほうが、家族の会話も弾んでいるように思える。
それは学校でもバイト先でも同じだ。みんなが僕を要らないものだと見ている。
この世界で僕の存在は不必要に思えてくる。
時々訪れる、そんな僕の心を初めて少女が言葉にする。
「別にいいんじゃない?周りとうまくいかなくても。人は沢山の可能性を持たされているの。いろんな種類の人間が、その可能性を試されている……勿論あなたもね」
少女の言葉が、僕には慰めにしか聞こえない。
「可能性だって?それは優秀な人の事だろう?……僕なんてこの世界には、いなくてもいい人間なんだ」
少女はディスプレイの中で首を振った。
「強くて優秀な者が生き残るわけじゃない。今の人間も身体が小さくて一人で戦えない弱い種だから、言葉を使い協力して生き延びて今の繁栄を向かえている。あなたは世界に必要な人よ。特別な役割を持って生まれたの。私には解る、そしていつかあなたにもわかるはず」
それでも少女の言葉が信じられなくて、僕は全てを否定で反論する。
「僕には夢や希望もないし……特別な才能だってない……親は僕に何にも期待もしない……世間の誰もが僕に期待なんかしない……僕が居なくたって……誰も困りはしない」
幼い子供のように駄々を続ける僕を、少女が微かに笑って見ていた。
「そうかもね……あなた言うとおり、何も無い平凡な人間……でもそれが悪い事なの?世界中の若者が、世界征服を夢見るのかな?普通でいいでしょう?そして、望みだってあるじゃない?」
「えっ!?」
僕は驚き少女を見る。
「望みだって?そんなものは僕には無い……あるわけがない!」
少女は瞳を閉じ静かに言った。
「誰かと……繋がっていたい……微かにでも……そうでしょ?」
少女の言葉に、僕は胸が詰まった。
「そんな事……言われた事無い」
「そう……か……じゃあこれからは、あたしがあなたに言ってあげる」
気がつくと、いつもの僕の部屋。目が覚めた僕を包む、少し湿っぽく少し重い布団。それに安心して、また眠りにつく……普段の変わらぬ日常。
そして再び目覚めた僕は、一人でゲームをしていた。
少女はゲームには現れなかった。アスタルトとも連絡がつかない、残念だがしかたない。
野良パーティー、即席の知らない者同士でゲームをプレイする。
ゲーム開始の直後に、一人の剣士が経験値稼ぎの良いポイントがあると、パーティーのメンバーに提案してきた。五年間、このゲームをしている僕が聞いたことがない場所だった。特に反対する理由もないし、確かに同じ場所での狩りにも飽きていた。
好奇心もあり、その剣士が言うポイントへ全員で向かう事になった。
空には満月が輝いている。
丘を越えて歩くと、剣士の言ったポイントの目印が見えてきた。
「これか……やっぱりこんな場所は知らないなあ」
月明かりでかなり明るい。その先に木製の古い橋。
「こんな古い木の橋なんて、このゲームにあったのか?」
寒さで意識がハッキリしてきた。
(寒さを感じている? そんな事あるわけない)
おかしな事が続く……あの少女と会ってから。
気がつくと僕の魔法使いは、古い橋の袂に立っていた。
他のパーティーメンバーは全員消えている。
「これもと関係ある事なのか……」
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