29.部活が終わって
テストも終わり、久々の部活の練習を終えた俺は帰宅の準備をしていた。二人っきりになったので青木にさっきのお礼を伝えることにする。
「青木テストの件は……」
「なんのことかな? 今回はヤマが外れたんだよね。まあ、これまでの成績いいし、そこまで影響ないっしょ。なんとなく俺にお礼をしたいっていうなら受け取るけどさ。緑屋ー、この後飯食いにいかねえ?」
「あー、悪い……ちょっとこの後は予定がな。また今度でいいか? 青木の大好きなステーキをおごるぞ」
誘ってくれた青木に俺は言葉を濁す。いつもなら二つ返事で了承するところだが、今日は予定がある。そう、特別な予定があるのだ。
「えー、最近付き合い悪くない? 俺寂しいんだけど。あれか、女か? 赤城さんとデートか? ひどい、さんざん利用して、俺とは遊びだったのね」
「先に彼女作ったのはお前だろうが!! 俺が誘ってもデートあるんでって断っていたくせに、練習もさぼってたくせに」
気持ち悪く体をくねくねしている青木に突込みをいれる。バスケをやっているだけあって長身な彼が体をくねらしているのはとてもきもい。まじできもい。
「青木先輩しつこいと嫌われますよ、緑屋先輩も困ってるじゃないですか」
「えーじゃあ、涼風ちゃんかわりにご飯に付き合ってよ」
「あはは、面白い冗談ですね。来世でもお会いしたら一緒に行きましょう」
助け舟を出してくれたのは涼風ちゃんだ。そして、青木のお誘いを一刀両断する。なぜか、涼風ちゃんは、青木にだけはきついのだ。いや、なぜかじゃねーな。入部初日の涼風ちゃんの胸をみて「バスケボールが二つあるー!!」と大声で言ったからだろう。もちろんみんなに聞こえて、涼風ちゃんはむっちゃ顔を真っ赤にしていた。その後、彼は女子マネージャー達にぼこぼこにされていた。女の子ってこわいよな……まあ、青木が悪いんだが……
「緑屋先輩は大事な予定があるんですよね。赤城先輩とお疲れ様会でしたっけ? 私と撫子はカラオケに行ってそのまま晩御飯も食べる予定なんで安心してくださいね」
「ああ、そうなんだ。今回色々あいつにはお世話になったからな……一緒に打ち上げをしようって話になったんだよ」
撫子から聞いたのだろうか、涼風ちゃんにも知っているようだ。というか安心って何を安心するんだよ。しかし、二人っきりか……
「あーやっぱり赤城さんとか 中学の頃から仲良いけど、お前らまだ付き合ってないの? お前女の話をすするとき赤城さんの話ばっかじゃん。告っちゃえよ」
「いや、付き合ってないって。確かに仲はいいんだが……」
「じゃあ、何か気になるところがあるのか?」
「あー、まあ、ちょっと口が悪いな。それもあいつのいいところなんだが……」
青木の言葉につい憎まれ口をたたいてしまう。まあ、口は悪いけど結構可愛いとこあるんだけどな。この前のメイド姿やここ最近の里香をみながら俺は思う。でも、里香が意外と可愛いというのは俺だけが知っていればいいのだ。
「だな、確かに赤城さんはかなり口悪いよなぁ。同じクラスだから色々みてるんだけどさ、この前、飯に誘ってた灰崎に「君と付き合うメリットがないな。私の貴重な時間を奪わないでくれ」とか言われて涙目にさせてたもん」
「うわぁ……」
「なかなかえぐいですね」
実にあいつらしい断り方である。誘った人がトラウマになりそうだ。さすがの俺も灰崎君ちょっと同情する……価値はないな、……でもさ……俺が言うのはいいんだけど、あいつの悪口を他のやつに言われるのはちょっと嫌な気持ちになるよな。それにあいつは口たらっずなところがあるんだ。だから誤解されやすいのだ。だったら俺が言う事は決まっている。
「でも、あいつにだっていいところがあるんだよ。こうやって勉強は教えてくれるし、俺が困った時は皮肉を言いながら色々考えてくれるんだ。確かにあいつは口は悪いから誤解されやすいけど、いいやつなんだ」
そんな俺の里香をかばう言葉に青木はにやりとわらった。まるでわかってますよとばかりの表情に俺は嫌な予感がした。
「知ってるよー。だって、そんな事言ったのも、その男子……てか灰崎がしつこく言い寄ったからだし、クラスでも、勉強で困っている人がいると声をかけて、丁寧に教えてくれるんだよね。だから密かに人気高いんだよ。まあ、テスト前には、誰かさんの家庭教師をするらしくて、勉強会のお誘いは断られるんだけどね。でも、幼馴染の悪口を言われて怒る緑屋かっこよかったな。本当にただの幼馴染なのか? 好きなんじゃないの? ツンデレってやつかぁぁぁ!?」
「うっぜぇぇぇ!! 青木、おまえはめやがったな!!」
「緑屋先輩顔真っ赤ですよ、可愛い……」
二人ににやにやとされてちょっと恥ずかしい。でもさ、里香がクラスの連中に認められてて、嬉しいはずなのにちょっともやっとしたのはなんでだろう。まあ、いい。ここにいてもからかわれるだけだろう。
「じゃあ、俺はそろそろ行くな。次は飯に行こう」
「ちょっと待った。愛しの姫君に会うお前にプレゼントだ」
「なんだよ、これ?」
「青木先輩……最低です」
青木に渡された紙袋を開けると未開封のコンドームが入っていた。不用意に開けてしまったため、中身が涼風ちゃんにも見え顔を真っ赤にしている。あ、やはり女子高生だし、どういうものかは知っているらしい。ちょっと意外である。っていうか、そんなことはどうでもいいんだ。
「お前は使わないのかよ」
「心配するな、俺にはもう不要なものだ」
「え、でも、お前黒田先輩と付き合ってるんじゃ……」
「心配するな、俺にはもう不要なものなんだよぉぉぉ」
「なんかごめん……」
大事な事だからか二回言った青木の沈痛な表情で俺は全てを理解した。そっか……フラれちゃったんだな……普段なら突っ返すのだがなんか可哀そうだったので、とりあえずポケットにしまう事にした。でも、なんか不吉だし、青木のいないところで捨てよう。俺まで振られそうだ。
「その……青木先輩元気出してくださいね」
「涼風ちゃんがその胸で慰めてくれたら元気になるんだけどなぁ」
「はは、そんなんだからフラれるんですよ、死んでください」
「辛辣な一言ご褒美ありがとうございまぁぁぁぁぁす」
罵られた青木の嬉しそうな悲鳴が響く。一瞬心配になったが、まあ、元気そうだからいいか。
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