20.里香と勉強会

青木からテストの予想範囲を教わった俺はひたすら勉強をしていた。ここまでがっつりやっているのは受験勉強以来な気がする。撫子にも「バカ大和そんなにがんばってどうしたの?」などと心配をされてしまった。恥ずかしかったので適当に誤魔化したのだが、その後里香が事情を話したらしく、満面の笑みで「さすがじゃん、大和」といってなにやら応援してくれた。久々に普通に名前を呼ばれた気がする。でも、撫子は何がそんなにうれしいんだろうな。



「うーん、つかれたな」

「お疲れ様、ほら、コーヒーだ。砂糖は一個でいいんだよね?」

「ああ、ありがとう。うまいな……」

「ふん、私だってコーヒーくらいなら淹れれるんだよ」



 俺が体を伸ばすと、同時に里香がコーヒーを入れてくれる。俺はお礼を言って口を付けた。俺の好きな温度で、俺好みの甘さに調整されたコーヒーが心を癒してくれる。思わず漏らした言葉に彼女は得意げに笑った。料理ができないって言っていたことを気にしていたらしい。



「ありがたいけど、別に毎日いなくてもいいだぞ」

「何を言っているんだよ、大和が私のためにがんばってくれているのに、私が近くにいないのはおかしいだろ? まあ、迷惑なら帰るけど……」

「いや、迷惑なんかじゃないって、勉強も教えてもらえるしな」

「だろうね、ではさっそく助言だ。さっそく、ここの計算が間違っているよ」



 そういうと彼女は俺越しにノートを指さす。間違いを指摘してくれるのは嬉しいんだが、里香が覆いかぶさるような感じになってしまって落ち着かない。柔らかい感触と柑橘系の匂いが俺の五感をしげきしてくるのだ。俺はルーティーンをして精神を落ち着かせる。



「あのさ、里香近すぎない?」

「あれ? ただの幼馴染の私に興奮したのかな? 大和はエッチだなぁ。まあ、頑張っているご褒美みたいなものだと思いなよ。それに私も大和とこうしていると落ち着くんだよ」



 そういうと彼女はいつもの意地の悪い笑みを浮かべた。でも、その顔はいつもの飄々とした顔ではなく恥ずかしそうにうつむきながら真っ赤である。あと今デレたな。



「ご褒美か、じゃあ、メイド服でも着て家庭教師をしてくれたら、もっとやる気おきるんだけどな」

「いいよ」

「え?」

「だからいいよって言ったんだ。それで大和のやる気があがるなら安いものだからね。どうせ、メイド服を持ってるんだろ? 早く出しなよ」

「あ、ああ……」



 想定外だ!! ちょっとした軽口のつもりだったのに本気で着るつもりのようだ。里香の方をみると意地の悪い笑みを浮かべつつも少し顔を赤くしている。くそ、可愛いな!! 可愛いな!! 大事な事だから二回も言ってしまった。俺はクローゼットから、メイド服を出して理香に渡す。



「じゃあ、着替えてくるからね、覗くなよ」



 そう言って部屋を出ていく里香を俺は夢心地で見守ることしかできなかった。それにしても最近は里香の態度が変わってきている気がする。催眠術をかけたあたりだろうか、あのへんから俺達の関係性は少しずつ変わってきている気がする。

 いや、違うな。催眠術はきっかけだ。最初に催眠術をかけてきた日にあいつは少し可愛い事を言ってくれたのに、俺はいつもの皮肉で返してしまった。その時の傷ついた顔を俺は覚えている。多分あいつはずっと俺に甘えたところもみせたかったんじゃないだろうか? いつもの飄々として意地の悪い笑みを浮かべている里香も、催眠術を使った時だけ甘えてくる里香も両方とも里香なのだ。おそらく、彼女は俺を好いてくれているんだと思う。

 俺はどうしたいんだろうな? 何かが崩れるのが怖くて、今までの軽口を叩きあう幼馴染っていう状態に甘えていた。俺は自分に言い訳をして、踏み出すのをためらっていた。だけど、関係性は変わるのだ。中学の時に変わりそうだったように……このまま何もしなくても遅くとも高校を卒業するときには変わるだろう。でも、里香は今何かを変えようとがんばっている。だったら俺も……



「どうかな……似合うだろうか? 大和はこういうのが好きだって撫子ちゃんから聞いたんだが……」



 うおおおおおおお、想定外だぁぁぁぁぁぁぁ!! ドアから入ってきた里香をみた途端俺の思考は飛び去った。いつぞやのメイド服に、ニーソックス、そして、ポニーテールだ。俺のエロ動画ランクSSSと一緒の組み合わせではないか!! 無茶苦茶嬉しいけど、これって俺の動画ファイルが撫子にみられてるよな? いつみたんだよ、あいつ。嬉しいけど恥ずかしくて死にたい。



「その……私だってがんばったんだからなんか言って欲しいんだけどな」

「その可愛いです……最高です。そのお美しい脚とふとももをもっと見せてください!!」

「なんで敬語なんだ!? こいつきもいな!!」



 思わず敬語になってしまった。だって尊いんだ、しかたないだろ。スカートとニーソックスの間の絶対領域といい、普段の白衣姿とメイド服とのギャップ、そして恥ずかしそうに顔を赤らめている姿がな目に毒ですぎる。自分で言っておいてあれだが、勉強できる気がしなくなってきたな。今にも抱き着くそうになるんだが……やっばいなこれ、やっばいなこれ!!



「あと、集中力が切れてきたろ。いいものがあるんだ」

「え、なんだ? エナジードリンクか? それともふとももにキスさせてくれるのか?」

「こいつやっぱり頭おかしいな……それより、催眠術って知ってるかな?」



 またかよーーーー、なんか胸のドキドキがいっきにきえていった。頭おかしいのはお前だよ……

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