16.灰崎と二人
「まったく、赤城さんは本当にみる目がないなぁ、俺よりそいつの方がすごいって? 俺は特進クラスで、テストの順位だって二桁なんだぞ」
里香の言葉に固まっていた灰崎君だったが、すぐに皮肉気な笑みを取り戻す。いや、確かに灰崎君も里香と同じクラスだから特進クラスなわけで、すごいはずなんだが、すぐそばに常に学年一位がいるからそこまですごく思えないんだよな。
「二桁か、そもそも学年一位の私からしたら大和も君も勉強に関してはどっちもどっちなんだけどな……それにだ、特進クラスの人の一部は勘違いしてるけど、人生は勉強だけがすべてじゃないんだよ。それを教えてくれたのが大和なんだ。君の基準は知らないが私にとっては大和の方がはるかにすごい人間なのさ」
「お前今無茶苦茶恥ずかしい事を言ってるってわかってる?」
「うるさいなぁ、珍しく褒めてやってるんだから素直に褒められろよ」
「そうだな、でも、俺も里香に色々教えてもらってるんだからお互い様だよ。それにいつもがんばってる里香もすごい人間だと思うぞ」
「ふーん、そうか……大和も私の事をすごいと思ってくれているのか、ちょっと嬉しいな」
「俺を無視していちゃついてんじゃねーよ!」
俺の言葉に里香が顔を真っ赤にしている。その可愛らしい反応を楽しんでいると灰崎君が騒ぎ始めた。まずいまずいつい、里香に褒められて嬉しくなってしまった。まあ、目の前で無視されたらむかつくよな。
「そんなに緑屋がすごいっていうなら今度のテストで勝負しろ!! それで俺が緑屋に勝ったらさ、赤城さんデートしてくれよ」
「え? 嫌に決まってるだろ、何で君とデートしなきゃいけないんだよ。こいつ。頭おかしいんじゃないか? それに今人生は勉強だけじゃないって言ったばかりだろ。人の話を聞けよな」
「な……」
容赦のない里香の言葉に灰崎君が絶句する。ついでとばかりに俺も追撃をする。
「わかった。間をとって俺とデートするっていうのはどうだ? バスケでもしようぜ」
「ふざけてんの? よしんば俺が了解したとしたらお前は俺とデートしたいのか?」
もちろんふざけているに決まっている。だってさ、里香が景品みたいにあつかわれてむかつくんだよな。というかテストで勝負って漫画とかの読みすぎじゃないだろうか。のるわけないだろそんな勝負。
「ちょっと騒がしくなってきたし、行こうか大和、図書委員の子が私たちに熱い視線を送ってきてるからね」
「ちょうどきりもよかったしな。続きは里香の家でいいか? というわけですまないな、灰崎君」
「え……赤城さんの家……?」
大きな声で喋りすぎたのだろう、図書委員の子が迷惑そうにこちらを睨んでいる。そして、俺の最後の言葉で何かを勘違いしたのか、彼は絶望したような顔になった。我ながら性格が悪いと思いながらもにやりと笑いながら立ち去るはずだった。あの一言さえなければ。
「はっ、少し可愛いからって調子に乗りやがって、なにが綺羅星高校の才女だよ。いつも白衣着てリケジョ気どりか。大体男とあそんでばっかりで毎回一位ってカンニングでもしてるんじゃないのか?」
「なんだとお前!!」
灰崎の言葉に里香が一瞬動きを止めた。それを見た俺は気づいたらやつにつかみかかろうとしていた。俺の事を言われるのはいい。だが、里香の事を悪く言うのだけは許せなかったのだ。
だって、俺は知っている。こいつがどれだけ頑張っているかを……確かに地頭がいいというのはある。だが、それだけで学年一位をとれるほど綺羅星学園は甘くはないのだ。それをこいつは不正だといいやがったのだ。里香の事を何も知らないくせに、里香の努力を知らないくせにこいつはバカにしたのだ!!
「やめろ大和」
つかみかかろうとした俺の手を止めたのは里香だった。彼女の目をみた俺は何も言えずに、里香の腕を取り図書館から出るしかできなかった。
「ごめん、里香……クラスメイトと気まずくなっちゃったよな」
「気にするなよ、大和。あんな奴に嫌われようとどうでもいいさ。それより、私の方こそごめん……最初に絡まれた時に無視をすればよかったんだ……」
図書館を出た俺達は帰宅をしようと下駄箱にいた。お互いさっきのことを思い出してちょっとバツが悪い。最初に里香が喧嘩を買って、次には俺が買った。結局俺達は似た者同士何だろう。自分の事は流せてもお互いがお互いの事を馬鹿にされるのは我慢ならないのだ。
「私は友達も少ないし、ああいうカンニングをしているんじゃないかっていう噂は結構あるんだよ。天才は嫉妬される存在だからしかたないのさ。あとさ、やっぱり白衣って変かな? いや変だよな。でも結構気に入ってるんだ。だから今は……このままでいたいんだけど、大和はどう思う?」
「似合ってるよ。もしも綺羅星学園で白衣が似合う人物ランキングがあったら、一位になると思うぞ」
「そこは保健室の先生に譲ってあげてほしいな。あのさ……さっき大和が怒ってくれたのは嬉しかったよ」
そう言って軽口をたたく彼女の顔は後ろを向いていたからわからなかったけれど、クラスメイトにそういう噂がされていてつらくないはずはないのだ。そもそも、本当に気にしてないなら、灰崎に言われた時に傷ついた顔するはずないんだよな。ああ、こんな里香をみたらもう居ても立っても居られないよな。
「ごめん、里香ちょっと忘れ物したみたいだ。探すから先帰っててくれないか?」
「それなら私も探そうか?」
「いや、今は灰崎と会いたくないだろ? 先に帰って料理は……しなくていいや、なんかやっててくれ」
「大和私を馬鹿にしてるな。私だって簡単なものくらいなら作れるんだからな」
「じゃあ、カップ麺で頼むな。最近のコンビニのやつ美味いんだよな」
「一汁三菜作ってやる!! 撫子ちゃんにはあげるけど大和にはあげないからな!! 大和は栄養の偏った食事でもしてろ」
そういう里香に手を振って俺は再び校舎に入った。まだいるといいんだけどな……俺が早足で図書館の方をへ向かうとタイミングよく彼も出てくるところだった。
「灰崎君だっけ? ちょっと話があるから面貸してくれないか?」
「なんだよ……?」
俺の言葉に彼は警戒したかのように体をこわばらせる。別にとってくうわけではないのにな。ただ交渉をするだけだ。
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