17.二人の関係

 灰崎君と話し合いと言う名の交渉を終えた俺は校舎を出るところで声をかけられた。夕暮れを背景にほほ笑んでいる彼女はどこか神秘的でとても美しかった。



「忘れ物にしてはずいぶん遅かったね、大和」

「ご飯を作ってくれるんじゃなかったのかよ、里香の手料理楽しみにしていたんだが」

「心配するなよ、忙しい人の味方ウーバーイーツーが、どこぞのおっさんが作った栄養たっぷりな中華を運んでくれるさ、で、何を話していたんだ?」

「だから忘れ物を……」



 ごまかそうとする俺を里香の鋭い視線が射抜いた。ああ、本当に幼馴染って言うのはやりずらい。俺の思考を見抜いてやがる。好きな子のために密かに頑張ろうとしているんだがら、かっこつけさせてくれないだろうか? でも、彼女はそれを許してくれない。だって彼女はヒロインじゃなくてライバルだから……



「大和……カッコつけないでくれ。君のその決意に満ちた目を私はもう知っているんだ。どうせ私のためなんだろ?」



 そこまで言うと彼女は俺の制服の裾を握って逃がすまいとしている。いつもの飄々とした顔ではなく、真剣な目で見つめられて俺は観念して降参した。



「いやー、灰崎とかいうやつが言い逃げしたからさ、里香に謝れって言ったんだよ。そうしたらテストで勝負することになったんだ。今回はちょっと本気で頑張らないとやばいかもしれないな」

「大和……君ってやつは……」

「だからさ、勉強見てくれないかな? 今度は二桁を目指すからにはこのままじゃまずいんだよな」



 彼女が何かを言う前に俺は、彼女に助けを求める。勝負の事がばれたんだ。取り繕う必要にはないだろう。さすがに灰崎君が勝負を受けた条件まで明かすことはできないけれど……すると、俺の言葉に里香は嬉しそうにうなづいてくれた。



「ああ、大和を倒すのはライバルである私の役目だからな。他の奴には負けるなんて許さないからな」

「はは、なんか漫画みたいなノリだな」

「でも、嫌いじゃないだろ、こういうの」

「ああ、最高だよ。じゃあうちで話し合おう」



 俺達は軽口を叩きながら帰路へと向かう。まあ、俺は里香に負けっぱなしなんだけどな。家に着いたら作戦会議である。しばらく歩いて会話が中断された時に彼女は恥ずかしそうにつぶやいた。



「あの時と一緒だね。大和はいつも私の事を助けてくれるんだな。なんでなんだい?」



 なんでか……なんでなんだろうな。俺にとって里香は幼馴染で、親友で、好きな人だ。多分ただの幼馴染だったらここまではしなかっただろう。多分ただの親友だったら、かっこつけずに一緒に灰崎をこらしめようって話をしたかもしれない。多分ただの想い人だったら、意地でも頼らずにもっと違うやり方で解決しようとしたかもしれない。俺の里香への想いや培った関係性を一言で表す言葉がみつからなかった。だから、俺は俺達が仲良くなるきっかけになった言葉で答える。



「そんなの決まってるだろ、俺にとって里香が大切で特別なライバルだからだよ」

「そうか、私は大和にとっての大切で特別なライバルなのか……私と一緒だな」

「ああ、俺達はライバルだからな」



 俺の言葉に彼女は嬉しそうに笑った。顔が真っ赤だったのは夕焼けのせいではないだろう。その後俺達は無言で歩いていたけれど、不思議と居心地がよかった。


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