37.パンケーキ

「それでこの店に行きたがっていたけれど、そんなに美味しいのかな? パンケーキってあんまり食べたことないんだけど、美味しいといいね」

「ああ、SNSでちょっと有名になっててな、口コミサイトの評価もいいし、せっかくだから行ってみようかと思ってたんだ」



 俺は里香と歩きながらカフェの扉を開ける。実はこのお店ではちょっとしたスペシャルメニューがあり、それを彼女と食べるのが密かな夢だったりもしたのだ。まだ、告白はしていないので、フライング気味だが許してほしい。



「ふーん、結構おしゃれな店だね、大和にしてはやるじゃないか」

「素直にデートっぽいところに連れて言ってくれてありがとうとか言えよ……」

「うるさいな、私とのデートのためにわざわざ調べてくれたんだろ? 嬉しいに決まってるじゃないか。恥ずかしいんだよ、そのくらいわかれよな、バカ」



 俺が軽口を叩くと拗ねたような口調で、予想以上に可愛い事を言ってきやがった。無茶苦茶可愛おしいな、おい!! 俺が恥ずかしがっている里香をにやにやと見ながらメニューを選んでいると、隣の席から声をかけられた。



「あれ、大和じゃん。こんなとこで奇遇だなぁ」



 声のした方を振り向くと、青木が一人で座っていた。彼は慣れた感じで紅茶を飲んでいる。こいつに教えてもらったからこの店にいてもおかしくないのか。それにしても一人できているのだろうか? 他のお客さんはカップルと女の子しか客いないんだけど……



「あれ、青木一人なのか?」

「ああ、元カノと行く約束をしていたんだが、振られたからな。一人で楽しんでるんだよ」



 うっそだろ。俺だったら行きたくないぞ。普通キャンセルするだろ?



「お前の心は鋼でできてるの?」

「いや、血潮は鉄で、心は硝子でできてるぜ」



 俺の言葉に青木がにやりと笑いながら返す。それを聞いてびびっと来た。俺は詠唱を始める。



「幾たびの戦場を越えて不敗」

「ただの一度も敗走はなく」

「え、二人ともいきなりどうしたんだ?」

「ただの一度も理解されない」

「彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う」

「故に、その生涯に意味はなく」

「その体は、きっと剣で出来ていた!!」

『無限の剣製アンリミテッドブレイドワークス』

「うるさいなーーー!! 君たち頭がおかしいんじゃないか!! デートなんだろ? 雰囲気を大事にしろよな!! なんでお洒落なカフェでフェイトの主人公の詠唱を聞かなきゃいけないんだよ」

「いや、今のはアーチャーVerの詠唱だぞ。里香!! 士郎の詠唱はちょっと違うんだ」

「うるさいっていってんだろ!!」

「いってぇ」



 俺と青木がいつものノリで騒いでいると里香に本気で怒られてしまった。しかも、間違いを正したのに足を思いっきり踏まれていたい……



「そういや、大和、『義妹催眠調教計画』良かったよ。続きも貸してくれよな」

「青木、それ今言う話じゃないよな!! 部活の最中でいいだろ」

「うわぁ……」

「いや、応援はしたものの。いざ二人で仲良くしてるの見るとちょっとむかついたんだ。メンゴ」



 青木がおどけたようにウインクをしてきた。こいつ後でおぼえてろよ。俺はおそるおそる向かいの里香を見る。彼女はマジで引いた顔で俺をみながら目を見開いて、呻くように言った。



「大和……撫子ちゃんがいるのにそういうのはどうかと思うよ……あと催眠術でエッチな事とか頭おかしいんじゃないか?」



 お前にだけはいわれたくねぇぇぇぇぇぇ!! むしろ催眠術ありだなって思ったのは里香の影響なんだけど!! お前によって俺の新しい性癖が開発されたんだけど!! 




「お客様ーーー!! 当店ではそのように下ネタを大声で話すのは禁じております。周りのお客様の食事をする気分を妨げてしまうので……例えるならば、恋愛映画を気になる人と観てたら、エッチな場面がむちゃくちゃ多くて複雑な感じになった気分です。なのでお控えください」



 大声で騒いだからか、店員さんに叱られてしまった。俺は青木との会話は終わりとばかりに会釈をして里香と向き合う。まあ、デートだしこれ以上あいつと話してもデートっぽさがなくなるからちょうどよかったんだろう。



「まったく君は恥ずかしい奴だな……それより、大和が食べたい奴があるんだろ? 教えてくれよな。あ、この紅茶は、以前大和が淹れてくれたやつだね、これにしよっと」



 店員さんの言葉で里香も多少冷静になったのか、仕方のない奴だなとばかりにため息をついた後に、そういうと彼女は意地の悪い笑みを浮かべながらもメニューをみて楽しそうにいった。俺が淹れた紅茶の茶葉をおぼえてるとかさ、本当にこういうところいいよなぁと思いながら俺はさっきの店員さんに注文をする。カップル専用メニューでカップルっぽい事をする必要があるらしい、一体どんなのがくるんだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る