8.映画デート

「バカ大和って彼女作らないの?」

「何をいきなり聞いてきやがる。作らないんじゃない、作れないんだよ。あと俺の事はバカ大和じゃなくて、さすがです、お兄様ってよべって」

「はいはい、もてなくて無様ですね、お兄様」



 さす兄ならぬぶざ兄をもらいました!! 俺の妹がこんなに口が悪いはずがない!! いや、口悪かったな。反抗期ってやつだろうか? 元々はそうでもなかったけど中学後半からこんな感じだよ。映画前にカフェで俺は撫子とお茶をしているのだが、罵倒が心地よい。新作のフレーバーが飲みたいらしくおごらされたが悪い気持ちはしない。まあ、兄たるもの妹に奉仕する運命なのである。あー、でもやっぱりうまいな。この味多分里香も好きだと思うんだよな。ちょっと残しておこう。



「まあ、そりゃあ欲しいけど、あいにく、モテないからな……」

「あんたって、本当にバカ大和だよね」

「兄の名前を蔑称みたいに言わないでくれない? お兄ちゃん悲しいんだが!!」



 いや、もててるのか……? 里香には昨日の夜にやたらと甘えられた。ってかあれって好意あるよな? どうなんだろう? でもさ、幼馴染ってある意味家族みたいなもんだし、異性として見られないパターン多くない? ネットでも色々みたけど、幼馴染ってたいてい部活の先輩とかにBSSかNTRされるじゃん。やっべえ、死にたくなってきた。

 それにだ…仮にあいつが俺の事を異性だと意識してるとしても、催眠術にかかっていないという事がバレたらやばい。だからいきなり態度を変えるわけにもいかないのだ。あいつは幼馴染ということもあり、俺の思考を見抜いてきやがるからな。調子に乗ってデートにでも誘ってみろ、あいつは俺の嘘に気づくだろう。まあ、それはさておきだ……



「なあ、女の子って好きでもないやつに抱き着いたりする?」

「するわけないでしょ!! 何、誰かに抱き着かれたの? もしかして、里香さん? それとも夏色?」

「なんでその二人が出てくんだよ!?」



 俺は二人の名前が出てきてことに驚きながらもツッコミを入れる。ちなみに夏色というのは涼風ちゃんの名前である。二人は親友だから下の名前で呼び合うのである。俺も涼風ちゃんに下の名前で呼んでもいいですよっていわれたけどなんか恥ずかしかったから断った。



「なんでって……色々気を遣ってるあたしに感謝してほしいんだけど……板挟みのわたしの気持ちもわかってほしいなぁ」



 なぜか逆にため息をつかれてしまった。なんだろうな、最後はぼそぼそとしていて、よく聞こえなかったけど。こいつはこいつで何か悩み事があるのかもしれない。



「ちなみに家族みたいな男性に抱きしめられたいとかはあったりするのか?」

「え? きも! まさか私に抱きついて欲しいとかいう話? やめてよ! そういうのは中学で卒業したんだから……」



 なにやら撫子がもじもじとしはじめた。たしかに、こいつも今ではこんな感じだが、中学の頃はベタベタしてきたしな……風呂まで一緒に入ろうとした時はさすがに説教したものだ。これも親があんまりいないのも影響しているのかもしれない。ちなみに、俺と撫子はガチの兄妹である。だから撫子ルートはありません。涼風ちゃんも俺をお兄さんっぽいって言ってたし、里香も俺を異性というより兄として見ている可能性も出てきたな。だって、あいつ恋愛とか興味がないって言ってたし……



「まあ…でも、バカ大和は私に抱き着いたりしてほしいの……? そういうのは里香さんにお願いした方がいいと思うけど……」

「じゃあ、あれは家族的なやつなのか? くっそ、俺はバリバリに意識してんだぞ!! あの天才変態少女め」



 なんか顔を赤くしている撫子。どうしたの、こいつ。さっきからぶつぶつ怖いんだけど……もじもじしてるけどトイレでも我慢してんのかな? でも、家族か……里香は一人っ子だし、お父さんを早くに亡くしてるからな。家族に甘えたいとかそういう感じだったのかもしれない。あっぶねえ、勘違いする所だった……俺の兄力が彼女の中で俺をイマジナリー兄へと押し上げてしまったのかもしれない。だめじゃん、家族じゃん、自分で言ってて死にたくなるな。



「じゃあ、帰ったら今日は久々に色々おしゃべりする?」

「え? いつも会話してるだろ。何言ってんの? てか、さっきからもじもじしてるけどおしっこ大丈夫? トイレならそっちにあるぞ」

「は? あたしの話を聞いてないかったの!? この、バカ大和」

「うおおおおおおお!?」



 こいつ目潰しをしてきやがった! しかも抜き手って殺意高すぎねえか? お兄ちゃんマジで失明しちゃうよ!?



「お前目は急所だぞ!! ポケモンだったら大惨事だぞ。わかってんのかよ。こっちはダメージ計算してんのに、負けると泣けるんだよ」

「うっさい、公共の場でおしっことかいうからでしょ!! 人がせっかく素直に甘えてあげようとしてるのに!!」

「思春期の妹の情緒が不安だな」

「私は兄の鈍感さが不安なんだけど……」



 お洒落なカフェでくだらない口論を繰り広げていた俺達に声がかけられる。振り返らなくてもわかる、この声は里香だ。



「おはよう、二人とも仲が良いなぁ、これ少しもらってもいいかな?」

「おはようございます」

「おはよー、別に構わないぞ」



 俺は振り向いて彼女にドリンクを渡そうとして一瞬固まった。なん……だと……、元々綺麗なのだけれど、今日のこいつは一味違った。チェックのミニスカートにニーソックスが眩しい。ピタッとしたシャツも彼女のスレンダーな体系を強調しておりまるでモデルの様にだ。てか脚がいいな!! なにこれ無茶苦茶可愛いんだけど……



「ありがとう、もらうよ。ふふ、間接キスだね」

「はいはい嬉しい、無茶苦茶テンションあがるな」

「せっかく、美少女と間接キスできるんだからもう少し喜びたまえよ」

「美少女……だと……?」

「なんか文句あるかな?」



 そういうと固まっている俺の手からドリンクをうばっているもの飄々とした顔に意地のわる笑みを浮かべた。俺はそれに棒読みで返す。でもさ、自分で美少女とか言ったのが恥ずかしくなったのか少し顔が赤くなっている。まあ、多分俺も顔が赤いんだろうけど。てかさ、ストローに口紅が少しついてなんかエッチですね。



「バカ大和!! 他に言う事があるでしょ。女の子がおしゃれをしている時はなんていうんだっけ?」

「ああ……その……無茶苦茶似合ってるぞ、あれだろ、ショップの店員に進められるままに買っただろ? お前にしてはセンスが良すぎる」

「ふん、言わされた感が強すぎるな。減点だね。それに余計なことは言わなくていい。さらに減点で赤点だ。あと勘違いしないでほしいけど私は別に大和のためにおしゃれなんてしてないからな」

「あ、今のツンデレっぽい。もう一回言ってくんない?」

「こいつマジできもいな」

「デレがきえただと……でも、本当に似合っていると思うぞ。特に脚がいい。脚が」

「ふん、最初から素直に褒めれば私だって……でもこんなクソみたいな誉め言葉でも嬉しい自分が憎い……」



 俺が一言そういうと彼女はぶつぶつ言いながら、なぜか後ろを向いてドリンクを飲み干しやがった。ふざけんなよ。こいつ。せっかく褒めたのにからかったと勘違いされたらしく、罰のつもりか一気に飲みやがった。てか、お洒落してないとかいってるけど、普段はわけわからねーださい柄のシャツに白衣といういかれたファッションなのに、今日は無茶苦茶気合入ってないか? でもまあ、いつもと違う里香が見えて今日は天国のような気分だ。そういえば撫子の友達は来ないんだろうか? と思っていると声がかけられた。



「おはようございます、みなさん、遅れてしまいましたか?」

「いや、待ってないぞ、俺らが早く来すぎただけだからさ」



 そう言って少し、恥ずかしそうに挨拶をしてきたのは涼風ちゃんだった。俺は笑顔で手を振って挨拶を返す。でもさ、里香がなぜかこちらをにらんでくるんだが……しかも目が合うと里香は唇を尖らせてそっぽを向いてしまった。俺はなぜか胃がいたくなるのを感じた。

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