9.映画デート2

 四人で映画なのだが、女性三人と俺一人と言うのは中々緊張するものである。ラブコメの主人公というのは憧れるが、いざそうなると、気まずいだけである。ラブコメ主人公ってなんでこの状況で平然とできるのだ? サイコパスなんじゃないだろうか。

 二人を誘った撫子の考えはよくわからないが、友達の少ない里香を気遣ったのかもしれない。こいつは空気を読むのがうまいからな。私服姿の涼風ちゃんはレースの多めの可愛らしいワンピースで着飾っており、彼女の優しい雰囲気にぴったりである。私服姿よりも、部活で学校指定のジャージを着ている状態で会うことが多いため新鮮である。なお、胸がむっちゃ目立つ。俺は脚フェチだから我慢できたけど胸フェチだったら我慢できなかった。俺は極力彼女の顔をみるように意識する。何を話すか迷ったが、先ほどの撫子の指摘を活かすとしよう。



「涼風ちゃん、そのワンピース似合ってるな。なんかすっごい涼風ちゃんって感じがして似合っているぞ」

「ふふ、先輩それって褒めてるんですか? 撫子ちゃんと赤城先輩も今日はよろしくお願いします」

「語彙力壊滅的だね、バカ大和」



 涼風ちゃんも俺に挨拶している時は緊張気味だったが、幸いにも俺のゴミすぎる褒め言葉でリラックスできたようだ。撫子がため息をついているが、まあ、いつもの事だ。俺が一息ついていると、足に激痛が走った。



「いってぇ」

「ふーん、女の子の胸をみながら褒めるのはどうかと思うよ。私の時は撫子ちゃんに言われて仕方なく褒めたくせに……」

「いってぇ」

「セクハラだよ、バカ大和。胸ばっかり見て本当に男って本当に馬鹿」



 不機嫌そうな里香と、同じく不機嫌そうな撫子が、すれ違いざまに足を踏んできやがった。お前ら姉妹かよ。てかさ、ひどくないか? 俺の足は踏み絵じゃないんだが……てか胸見てないし……ちょっとしか……



「先輩大丈夫ですか……?」

「ああ、大丈夫だよ、涼風ちゃんは優しいな……」



 心配そうに見つめる彼女に笑顔で返して俺達は映画館に行くのだった。なんで俺の周りはこうも暴力的なやつらしかいないのだろうか?



 今日、映画館でみるのはエロゲ原作のアニメ映画である。俺の影響でみるようになった里香や撫子はともかく、涼風ちゃんは退屈ではないだろうか? とおもっているとポスターをみながら「イリヤたんはあはあ……」とかつぶやいていたので大丈夫そうだ。こいつは重症だぁぁぁ。まあ、可愛いよな、イリヤたん。俺は慎二が好きだけど。FG〇?何それ。



「お、撫子ポップコーン買うの? 俺にもくれよ。一人で食べたら太るぞ」

「妹にたかるな!! 夏色と食べるの!! あと太るとかいうなー、セクハラ」

「えーと、撫子ちゃん私は別に……」



 俺が妹にポップコーンをたかっていると、肩をポンポンと叩かれた。振り向くと、口に何かが押し込まれた。ああ、甘くてうまい。



「どうせ、キャラメル味がいいんだろう? 買ってきたから、一緒にシェアしよう。感謝して敬いたまえ」

「おお、さすがだな、里香。出世したら払うな」

「はは、大和より私の方が出世しそうだけどね。それにさっきドリンクをもらったからね。お代はいいよ」

「くっそ、ちょっと顔と頭がいいからって調子に乗りやがって……いや、そのくらいよければ俺も調子に乗るな。ちょっと頭脳をわけてくれない?」

「残念ながら、マイナスに何かを足してもゼロに近くなるだけなんだよ。でも、そうか……大和にとって私は顔が好みってことなのかな」

「当たり前だろ!? お前、顔と頭はいいけど、性格が壊滅的なんだよな」

「顔も頭も壊滅的な大和よりはマシさ。ポップコーンはいらないようだね、大和の分は鳩にでもやるか」

「冗談ですー、里香さんは顔と頭と性格と脚が最高です!!」

「普通おごるのは反対だと思うんだけど……バカ大和は気が利かないから……」



 俺の好みを把握しているのはさすがは幼馴染と言う所か、俺達は軽口をたたき合いながらもありがたく、ポップコーンをわけあうことにした。でもさ、鳩にあげるようになげるのやめてくれないか? 俺が必死に口でキャッチをしていると里香は意地の悪い笑顔をしながら楽しそうにしてた。



「なんか……お二人は本当に仲良しですね」

「ふふ、まあ、私たちはただの幼馴染だからね。仲はいいさ」



 ぽつりとつぶやいた涼風ちゃんの言葉に、里香が飄々とした顔で答えた。でも、いつもの意地の悪い笑みではなく、どこか嬉しそうにはにかんでいたのが印象的だった。



 そして俺達は映画をみることにする。座席は里香、俺、涼風ちゃん、撫子の順番である。里香と撫子とはよく映画に行ったりするのだが、涼風ちゃんとは初めてである。後輩の女子と映画というとちょっと緊張してしまうな。



「あ……」

「ああ、悪い、暗かったから間違えた」

「別に構わないさ、ポップコーンは私たちのだからね。こういうこともあるさ」



 俺が気分転換にポップコーンをたべようとつまむと、同じタイミングで食べようとしていたのか、里香の指をつまんでしまったようだ。彼女の指の感触に昨日の抱き着かれた時の事を思い出してしまい、ちょっとドキドキしてしまった。やはり女の子だから彼女の指は俺よりも細い。

 里香はどう思っているのかと彼女の方を見ると、ちょうど影になっていて表情は見えないが、なぜか自分の指を嬉しそうに撫でていた。そのしぐさが可愛らしくてドキッとしてしまう。映画に集中しようと正面をみると視線を感じたので、涼風ちゃんの方をみると彼女はなぜか頬をふくらませてこちらをみつめていた。



「どうしたんだ、涼風ちゃん!? なんか無茶苦茶不機嫌そうだぞ?」

「いえ、別に……お二人は仲が良いと思っただけです。映画が始まりますよ」



 涼風ちゃんの言葉の通りそろそろ予告が終わるころだ。なぜか不機嫌なのは気になるが、今は映画に集中すべきだろう。

 映画はデートの定番と聞くが、実際はどうなのだろうな。里香に多少なりとも異性とみられていると確信した俺はどさくさに紛れて手でもにぎれないだろうか、なんて考えていたが、それどころではなかった。映画が面白すぎたのだ。すっかり夢中になった俺は映画に没頭していた。俺も聖杯戦争に出たいなぁっておもうくらいである。いや出たら死ぬわ。あんなん。ギルガメッシュとか引いたら5秒くらいで殺されそうである。

 それはともかく、映画が終わりお花を摘みに行った、里香と撫子を涼風ちゃんと待っているんだが、手持ちぶたさである。何を話そうかと思うと悩んでいると涼風ちゃんがとあるゲーム機を指さした。



「先輩、ただ待っているのももったいないですし、よかったらあれで勝負しませんか?」

「ああ。任せろ、俺の得意分野だぞ、キセキの世代と呼ばれた俺の実力をみせてやろう」

「さすがグリーンですね」

「ごめん、それは言わないでくれ……」



 調子に乗ったことを言って、揚げ足をとられながらも、彼女とゲームをプレイすることにした。

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