10.大和と涼風

 一緒にプレイをしていたゲームはバスケボールをカゴにいれるゲームだ。時間制限があり、途中から二つかとボールがでてくるタイプである。事前に手加減しないで欲しいと言われたこともあり、俺の圧勝だった。



「やっぱり先輩はうまいですね、私なんてまだまだです」

「そりゃあな、仮にもレギュラーなんだ、負けるわけにはいかないさ。でも涼風ちゃんお動きもなかなかよかったぞ」

「これでも私、中学の時はバスケ部だったんですよ? でも、全然歯が立ちませんでした……本当に緑屋先輩はかっこいいです」



 そういって彼女は夏の太陽の様に輝かしい笑顔で嬉しそうに言った。その笑顔がまぶしくて俺は一瞬見惚れてしまう。実際、彼女の部内での人気はかなり高い。マネージャーがあまりいないという事もあるが、彼女の元気な応援に心を奪われたやつは多いのだ。



「私も三年間がんばってたんですけどね、全然ダメでした。だから、マネージャーになったんですけど、役に立ってないですよね」

「そんなことはない、俺だって最初は全然だめだったんだぞ。でもさ、たくさんがんばってたらこういう風にさ、今はだめでもいつかできるようになるって事あると思うんだよな」

「確かに昨日の告白も、最初はやばかったですけど、二回目はよかったですもんね。」

「それは忘れてくれーーー!! あの告白の練習を、里香に半端にきかれて誤魔化すの大変だったんだからな」

「あー、それは大変な事になりそうですね、里香さんどうでした?」

「まあ、色々あったよ」



 涼風ちゃんの質問に俺は笑いながら言葉を濁す事しかできなかった。さすがに里香が催眠術をかけてきて、甘えてきたとは言えないだろう。というか言ったら、俺の正気が疑われる。冷静に考えるとやばいな、昨日の出来事……本当のことを言っても童貞の妄想だと笑われそうである。

 昨日の出来事を思い出しながらも、気分を切り替えようとバスケボールを拾いシュートを放つ。ボールは綺麗な弧を描きそのままゴールに吸い込まれるように入っていった。高得点をとったので景品の猫のぬいぐるみが出てきたので、どうしようかと悩んでいると、涼風ちゃんがぬいぐるみを見つめている。



「これいるか? よかったらあげるぞ」

「ええ? そんな悪いですよ。確かに可愛いので欲しいですけど……」

「涼風ちゃんは、今年の春の試合覚えてるか。あの時の試合でさ、涼風ちゃんは最後まで応援してくれたよな。それ結構嬉しかったんだよ。もう、絶対勝てないのにさ。みんな諦めてるのにさ、最後まで応援してくれてただろう。だから最後のシュート打てたんだよ。だからこれはそのお礼かな」



 この春の大会は最悪だった。二回戦で運悪くシード校と当たってしまったのだ。うちの高校は大して強くないこともあり、ダブルスコアをつけられるほどだった。誰もがあきらめている中で、涼風ちゃんだけが最後まで応援をしてくれていたのだ。だからだろうか、どんなにがんばっても逆転はできない。でも、まだがんばろうって思えたんだよな。そして、ボールが手に入って時に俺はコートの半分あたりでシュートを打った。それは決して綺麗とは言えないけれど、ぎりぎりだったけどゴールネットに入って得点になり、なんとかダブルスコアは免れたのだ。どうせ負けが確定した試合だったけど、最後のシュートが入ったことで俺達は絶望しないで済んだのだ。そして頑張ろうと思えたのは涼風ちゃんの声援のおかげである。



「最後のシュートが入ったのは、先輩が練習をがんばっていたからですよ。お昼だって一人で練習をしてますし……先輩は何でそんなに頑張れるんですか? 他の人はあまり自主練とかしてないじゃないですか」

「なんでがんばるかか……俺の近くに頑張ってるやつがいるからかな。昔からのライバルがいるんだけどな、そいつはいつも色々頑張っているんだよ。だから俺もなんか頑張らなきゃなって思うんだよな。せめてできることはやってさ、そいつに俺だってがんばっているんだっていうのを見せたいんだよ」



 俺は少し恥ずかしくなりながらも言った。そうだ。俺がこんなにもがんばっているのはあいつに……里香に負けたくないのだ。もちろん、分野も違うし、レベルも違う。こんなことは自己満足だ。でも、何にもがんばっていないのに、彼女の横にただ立っているのは違うなって思ったんだ。勉強はあいつには歯が立たないけれど……昔あいつがきまぐれに俺の試合を応援しに来たことがあった。その時あいつは言ってくれたんだ。「大和頑張ってたもんな、すごい上達してるじゃないか」って。その一言で、俺は自分の頑張りが認められた気がして、余計がんばれるようになったんだよな。



「先輩はそのライバルの人が好きなんですか?」

「え……どうなんだろうな。ってか俺はそいつの事を男か女かも言ってないと思うけど……」

「ふふ、わかってますよ。先輩の事は春からずっとみてましたから……緑屋先輩のその顔は恋をしている顔です。緑屋先輩がその気持ちを言葉にすればライバルさんにもちゃんと伝わると思います。だから自分の気持ちから逃げちゃだめですよ、私と違って、先輩は勝負の土俵に立ててるんですから」



 そう言って涼風ちゃんは笑った。だけど、その笑顔はいつもの太陽な笑顔とは違い、少しくもっているような気がして、俺が何かを声かけようとしたタイミングでスマホがなった。涼風ちゃんは俺に目線で出てくださいと訴えてきた。スマホを耳にすると撫子のキャンキャンとした声が聞こえた。




『バカ大和どこいるの? 私たちずっとさがしてるんだけど!』

「あー、悪かった。ちょっと今……」

「大丈夫ですよ、もう行きましょう。二人を待たせるのは申し訳ないですし」



 撫子の声は涼風ちゃんにも聞こえたらしく、苦笑していた。彼女の笑顔が曇った理由を聞きたかったが、なんだろう、涼風ちゃんの表情は問われることを拒否しているような気がしたので、俺は深くつっこむのをやめる。そして、俺たちはみんなと合流した。

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