32.里香の独白

「じゃあ、またな」

「ああ、気を付けて帰るんだよ、次回のテストもがんばれよ」



 そうして、家を出ていく大和を見送った私は部屋に戻るなり、ベットにダイブした。普段通りに会話はできただろうか? 変な顔をしてはいないだろうか。鏡をみるとにやけ顔で顔を真っ赤にしている自分がいた。それをみて私は羞恥と嬉しさを抑えきれず足をバタバタとしてしまう。



「だぁぁぁぁぁ、もう、ずるいだろぉぉぉぉぉ!! なんだあいつ、なんだあいつ!!」



 私の絶叫が部屋に響き渡る。ふと気になって鏡を覗くと自分が真っ赤になってにやにやとだらしない顔をしているのが見え恥ずかしくなって顔を枕にうずめる。

 もちろん催眠術なんかにはかかっていない。おそらくあいつにはセンスがないのだ。そもそも催眠術は、相手の視線や心の空白などを計算しないとかからないのだ。

 最近のあいつが頑張ってたから、何かご褒美を上げようと思って……でも、素直にそういうのは恥ずかしかったら催眠術をかけてみろなんていってみたのだけれど、まさかこんな事になるなんて思わなかった。どうせあいつの事だからまた、私の脚がみたいとか、変な服を着せようとしてくるくらいだろうと思っていた。あとはせいぜい抱き着いてきたりとか……もちろんそれ以上を要求してきたら、催眠術になんてかかっていないってネタ晴らしをしてそれでからかってやるつもりだった、なのに……



「なんだよ、私が変だって……? 私が悩んでいるだって……? 大和のせいじゃないか……いえるわけがないだろう……」



 自分でもおかしいという事は自覚している。大和が告白されたと聞いてからいてもたってもいられないのだ。だからこそ、自分なりに彼に素直になろうとがんばっているんだ。確かに催眠術に頼ったり、急にお洒落をしたり、ちょっと可愛い事を言ってみたりして、これまでの私は知る大和からしたらあきらかにおかしいだろう。でもさ、おかしいかもしれないけど私は行動するって決めたんだ。ぶっちゃけ引かれたり、からかわれるだけって可能性も考えて恐れていたのだ。

 でも、あいつは私の思考なんてお見通しとばかりに私の不安を解消するように私が一番欲しい言葉をくれたのだ。嬉しいけどくやしいという相反する感情に支配される。



「大和の癖に生意気だ……ああ、でも、あいつの手おっきかったなぁ……」



 自分の頭を撫でていた彼の手の感触を思い出して思わずまたにやけてしまう。本当におおきくて暖かかった。私が甘えたらあいつはまた私の頭を撫でてくれるだろうか? まずい想像しただけでにやけがとまらない。

 確かにメイド服で勉強会とかは色々やりすぎたかもしれない。でも、嬉しかったんだ。あいつが「大切で特別」っていってくれたことが……私と同じようにあいつも私の事を特別って思っていてくれたのが……

 どうやら私の気持ちはあのバカにばれているらしい。あいつも私と同じ気持ちらしい。そして、私が一番心配していたこともあいつは理解してくれているらしい。素直になれない天邪鬼な私を理解してそれでも好きでもいてくれているらしい。だめだ……嬉しすぎて他の事が考えられない。



「大和……私だって好きだよ……君と同じように私もこれが初恋なんだよ……」



 気分転換というわけではないけれど、私は宝物が入ったクッキーの箱を取り出す。そこにはさまざまなものが入っていた。あいつがくれた花を押し花にしたものや、あいつと行った映画の半券、そして、高校の入学式の写真だ。私が意地の悪い笑みを浮かべてと大和はまぬけな顔で写っている。このころにはもう、私はこいつが大好きだったんだよな……それらをみて私は思い出に浸る。

 私がこの気持ちを自覚したのは中学のあの件がきっかけだろう。あいつはいつも、私が一番欲しい言葉をくれるのだ。あの時だってそうだった。まあ、あの事件がなくても自分の気持ちに気づくのは遅いか早いかの違いだったとは思うけれど……





------





 私、赤城里香は天才だった。まあ、天才とはいってもただ頭がいいだけなのだけれど。小学生のころから大しても勉強をしなくても、常に学年トップだった。小学生低学年の頃はともかく、高学年ともなると目立つようになるものだ。

 他の連中は私をがり勉などと揶揄していたし、私はなぜみんな勉強ができないのだろうと見下していた。まあ、ぶっちゃけ私は浮いていたのだ、ただ、それは別に苦ではなかったのだけれど。

 そんな状況だったが大和とはテストがきっかけで仲良くなった。その頃のは私はちょっとひねていたのかもしれない。あまりかまってくれない親を心配させるために少しテストで手を抜いたのだった。その結果、当時同じクラスだった大和にテストで負けた。正直私は気にしていなかったのだけれど、あいつは私が座っている席にの前で答案をみてどや顔でいいやがったのだ。



「天才赤城も大したことないなぁ、俺の方が頭がいいな」



 大和の挑発は単純なものだったけれど、もちろん私はむかついた。馬鹿に馬鹿にされるのはなによりもむかつくし、何よりもあいつのどや顔が癪にさわったのだ。



「今回は手を抜いただけだ!! 君になんて負けるはずがないだろう?」

「はっ、じゃあ、次のテストで勝負だ!! 俺がお前のライバルになってやるよ」

「望むところだ。ほえずらをかかせてあげよう」



 そういって彼とのテスト勝負が始まった。実のところこういうのは初めてではなかった。さすがにこう真っ向から来たのははじめてだったけれど、テストで勝負を挑まれるのは何回かあったのだ。天才と呼ばれる私が気に喰わないやつが多かったのだろう。 

 それ以降の勝負はもちろん、私の全勝だった。すると彼は先生に質問を当てられて答えるたびに勝利の笑みを浮かべてきてこちらをみつけてきたのだ。私もムカついて対抗した。するとよく発言するようになったせいか、教師の評価があがり、なぜかクラスメイト達も話しかけてくるようになった。どうやら大和としょっちゅう競争しているせいか、話しかけやすくなったようだ。私としては一人でもよかったのだけれど、でもまあ、悪い気はしなかった。そして気づいたら私は彼といることが多かった。そして一人で居る時よりも、彼といる事時の方が楽しい事に気づいた。私は彼といるのが楽しいけれど、彼はどうなのだろうか? だから彼に私は聞いてみた。



「君はなんで私に構うんだ?」

「その年で神童とかよばれてるのって悪の科学者っぽいじゃん。ちょうどそんなアニメにはまってるんだよね。主人公のライバルなんだよ」

「死ね」



 私は躊躇なくぶんなぐってやった。なんだその理由は……もっとましなのはなかったのかよ。私が不満そうににらみつけると彼は「いやいや、このアニメ面白いんだって!!」と言ってDVDを持ってきたので私の家で一緒に観ることになった。そのキャラは主人公と一緒の学校にいる白衣を着たライバルキャラだった。主人公にクールな顔でいつも意地の悪い事を言うライバル。悔しいけど結構おもしろかったし、もっと悔しかったのはそのキャラと自分が確かに似ているなぁと思ったことだった。そいつは男だったけれど……大和と私のやり取りが似ていたのだ。そして、大和を連れてきた日の夜に母親に言われたものだ。



「今日の子は里香ちゃんのお友達?」

「うん、私の友達でライバルかな……」

「そう、大事にするのよ」



 その時の母の顔は今でも覚えている。本当に優しい笑みをうかべていて……初めて、友達を連れてきたのが嬉しかったのかもしれない。なんだかんだ母も私に友達がいないことを察していたのだろう。そして心配してくれていたのだろう。だから私は笑顔で「もちろん」と答えた。

 そのあと私の家族と大和の家族同士でも仲良くするようになった。そしてお互いの親が留守の時は家を行き来するようになる。それもあって撫子ちゃんと仲良くなった。そして中学になって私が彼への想いに気づく事件が起きた。

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