31.大和の催眠術
本を読んだ俺は飄々とした顔で意地の悪い笑みを浮かべている里香の目の前に5円玉を揺らす。本当に効果があるものなのだろうか? まあ、最初の時や、撫子をみるかぎりちゃんと効果はあるっぽいんだけどな。
俺は五円玉を彼女の前にでぶらりぶらりと垂らす。好きな子と二人っきりでいるのに何をやっているんだろう。はたからみたら異常な光景だよなぁ……なんか告白するような雰囲気ではなくなってしまった。
「あなたはだんだん目が離せなくなーる」
真顔でやるの恥ずかしいな。里香の目の前で五円玉をぷらぷらしていると彼女の目がとろんとしてきたような気がする。そろそろ頃合いだろうか。
「おーい、里香起きてるか?」
「……」
試しに目の前で手をぶらぶらしてみるが一切反応はない。想定外だぁぁぁー。こいつマジでかかってるのか。というか俺でもできるんだな。ちょっと感動してしまった。自分の才能が憎いな。
「でも、本当に催眠術かかったのか? ちょっと里香『いつも意地の悪い事をいってすいません大和様』って言ってから頭をさげてみて」
「いつも意地の悪い事をいってすいません大和様」
「うおお! 催眠術すごいな! こんなことならメイド服持ってくればよかったぁぁ!」
頭を下げている彼女をみて俺は絶叫する。プライドの高い里香がこんなことをするはずがない。というかこんなことを言わせたってばれたら殺される気がするんだよな。催眠術にかかっているってことは今はやりたい放題である。スカートからのぞく綺麗な脚に俺は生唾を飲み込んだ。今ならふとももにキスだって、頬ずりだってできそうだ。でも、もっとやるべきことがある。
「あのさ、これは心の中にぼんやりでいいから覚えておいてほしいんだけどさ。最近なんか悩んでるよな。だからさ、なんかあったら俺に言ってくれよ。頼りにならないかもしれないけどさ、今回みたいに俺はお前の力になりたいんだよ」
「はい……」
一瞬目を見開いたような気がしたのは気のせいだろうか? 俺は彼女の頭をポンポンとたたいてやる。普段こんなこと言ったり、やったら殺されるか馬鹿にされるだろうが、今は別だ。てかさ、最近こいつなんかおかしいんだよな。やたらお洒落に気を遣ったりとか、催眠術を使ったりとかさ。いつからだろうな、俺の告白が聞かれたあたりからか。彼女はあきらかに何かを変えようとしている。それは俺も同じわけで……俺は今までの里香との関係も好きだったけど、いつまでもこのままではいられなのもわかっている。それに俺だって関係は変えたいんだよ。
「俺はラブコメの鈍感主人公じゃないからさ、これだけの事をしてもらったんだ、里香が異性として俺の事を好いてくれているって事もわかってるよ。俺もひねくれてるけどさ、お前も素直じゃないもんな。でも、俺はそんな里香が好きなんだよな。多分俺達は同じ気持ちだと思う。でもさ、幼馴染だったり、ライバルだった時期が長すぎてお互い素直にすぐにはなれないと思うんだ。だからさ、もしも恋人になってもいきなりは変わらなくてもいいと思うし、色々と問題もおきると思う。だけど、俺達は俺達のペースで関係を変えていけばいいと思うんだ。なんてな……普段の時にこういうことを言えばいいんだがなぁ……」
頭をポンポンとしていると彼女がそのまま、俺の方にしなだれかかってきた。心なしか彼女の目が潤んでいる気がする。思わずキスでもしてしまいそうである。でもさ、そういう事は催眠術にかかっている時じゃなくてちゃんとしたときにしたいよな。これは練習だと思って、俺は自分の想いをそのまま告げる。それこそ彼女が正気の時に伝えようと思っていた言葉を……
「正直さ、関係を変えるのはこわいよ。でも、そうしなければ進めない関係だってあるよな。俺達は、何年も幼馴染をやって、ライバルをやってきたんだ。きっとなんかあっても乗り越えられるさ。大好きだよ、里香……お前は知らないかもしれないけど、俺はお前の事が初恋で何年も前からずっと好きだったんだぜ」
そうして俺は寄りかかってくる彼女の頭をなでながらしばらくそうしていた。なんだろう、とても幸せな気持ちになったのだ。本番の告白もこれくらいスムーズにできればいいなぁと思うのであった。
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