13.催眠術から進むラブコメ

 以前と同じように五円玉を使ってきた里香に対して俺は催眠術にかかったふりをした。俺の目を凝視していた里香は何やら満足そうにうなづく。いや、かかってないんだけどな。



「これでよし、ではさっそく……大和の匂いだぁぁぁぁ」



 現場猫みたいなこというと俺のベットに上にダイブして寝転がりやがった。満足そうに俺の枕に顔を突っ込んでいる。これでよしじゃないだろ。よくはないだろうが。というか大丈夫か? 臭くないだろうか? こんなことになるんだったらファブリーズとかかけとけばよかったぁぁぁぁ!!



「大和……その……正直に答えてくれ。今日の服装はどうだったかな? 大和と映画だったから……実は……その……今朝、急いで服屋に行ったんだけど、流行りとかよくわからなくて……店員に聞いて買っただけなんだ。変じゃ無かったかな?」



 彼女は俺の枕に顔をうずめながらそういった。表情は良く見えないけど、顔をまっかにしているのが見える。なんだこいつかわいすぎる。本当に俺の知っている赤城里香か? とはいえ、ここは大事なポイントになる気がする。いわばギャルゲーでいう選択肢のようなものだ。ここでいつものように照れ隠しに変な事を言ってはいけないと思うし、俺は催眠術にかかっているという設定なのだ、ならば本音で徹底的に褒めるとしよう。



「そうだな……スカートから出る生足はまぶしかったし、シャツにもレースとかあって可愛らしいし、普段とのギャップがあってよかったな。あと、ベレー帽かぶってたけどさ、なんか綺麗な顔立ちと合わさってすっげえ可愛かったぞ」

「なんだこいつ、早口すぎる……マジできもいな」



 この女ぶっ飛ばすぞ!! 俺の忌憚のない意見が悪意に満ちた返答で返された。なんかすごい気にしてそうだから全力で褒めたというのに……でも、彼女の表情はその口調とは裏腹に柔らかく、嬉しそうにはにかんでいた。



「ふふふ、でも、よかった……変じゃなかったんだな。大和に可愛いって言ってもらえるとなんか胸がポカポカするな……。しかし、馴れないかっこうをしたせいかちょっと疲れたよ。ちょっと充電させもらおう」



 そういうと彼女は座っている俺の背後から抱きついてきた。うおお! なんだこれぇぇぇ!? 想定外にもほどがある。彼女の柔らかいからだが俺を刺激するし、甘い匂いがするんだけど。あとささやかだけど柔らかい感触が俺を襲ってくる。冷静になれ、素数だ、素数を数えるんだ。



「ああ、癒される……それで……大和は涼風さんとどんな話を……いや……これはダメだな。フェアじゃなさすぎる……大和は私が甘えてきたらどう思う? その……変に思うだろうか……私が普通の女の子みたいに可愛い事をいったりしたら興味を無くしてしまうだろうか」



 里香の声は後半になるにつれてどんどん小さくなっていった。彼女はいったいどんな表情をしているのだろう? 俺にはわからないけれど、催眠術という、よくわからないきっかけだが、彼女の本音に触れた気がした。指示はないけれど、俺は彼女の正面に向いてそのまま抱きしめる。一瞬里香の体がびくっとしたが、俺にされるがままになった。



「多分さ、最初は驚くと思う。俺も皮肉やだからさ、それでからかってしまうかもしれない。でも、無茶苦茶嬉しいと思うんだよね。だって、全然他人に甘えないお前が、俺には心を許してくれたって事だろ? 嬉しいに決まってるよ。それにさ、お前は今のままでも可愛いし、可愛いことをしたらもっと可愛くなると思うぞ」

「ふわぁぁ」



 俺の言葉に彼女はなぜか変な声を上げた。あれ、俺なんか変なことをいったか? しばらく彼女は俺の胸元で悶えていたが、俺の胸元から離れたかと思うと、なぜか顔を真っ赤にしながら涙目で俺を睨みつけてきた。その表情にはいつもの飄々とした様子はなく、まるで年相応の普通の少女の様だった。



「お前は……!! 普段から素直にそういう事を言ってくれれば私だってもっと素直になれるのに……あー、やられっぱなしでむかつくなぁ。弱みを握ってやる。大和のエロ本はどこにある? からかうネタにしてやる」

「そんなものはありませんよ。俺は聖人ですからね。FGOならルーラーで召喚されますよ」 

「大和……なんで嘘をつけるんだ……まさか、催眠術にかかってないんじゃ……」



 うおおお、即答した俺を彼女は感情の一切ない目でまるで実験動物を観察するように見つめてきた。こわいこわい。なにこれ。冷や汗がとまらないんだが!! 俺の中の本能ががこのままではやばいと訴えてくる。



「本当はメイドさんが好きです。エロ本はありませんが、パソコンにエロ動画がランク別で整理されています」

「うわぁ……こいつきもいな……」



 時代はペーパーレスである。それゆえおかずもペーパーレスなのだ。てか、本当の事をいったらこいつは吐き捨てるようにいいやがった。マジでふざけんなよ、この女。メイドさんは俺の癒しなんだよ!! 里香と撫子が容赦のない毒舌で傷つけくるから、ついメイドに救いを求めてしまったのである。ごめん嘘言った、物心ついたころからメイドが好きでした。非現実でいいよな、メイドさん。「ご主人様」とかむっちゃ言って欲しいもん。




「まあいいや、それでメイド好き君。もしも……もしもだ。私がメイド服を着てみたら嬉しかったりするのかな?」

「もちろんです!! ここにありますよ」

「え、なんでなんの指示もしてないのに勝手に動くんだ? てか、なんで持ってるんだよ、コレクション癖でもあるの?」

「いつか彼女ができた時用にアマゾンで買ったんですよ」

「うわぁ……」



 里香の言葉に俺は思わずクローゼットに封印していたメイド服を取り出すと、里香が驚いたような目で見てきた。しまった、興奮のあまり、指示もないのに動いてしまった。でもさ、仕方ないよな、好きな人が着てくれるかもしれないんだから。



「なんかサイズが私にぴったりな気がするんだが……」

「……」



 メイド服を渡された彼女は困惑気味にそれを見つめていた。まあ……俺が彼女にしたいのは里香しかいないわけで……だからこそ、サイズも里香にだいたいぴったりなわけで……くっそ、なんか無茶苦茶恥ずかしくなってきたぞ!! 



「まあ、せっかくだし着てみるか」

「あ、髪形はツインテールでお願いします!! リボンもついてるから!!」

「注文の多い変態さんだな!! こいつ本当に催眠術かかってるんだよな……?」



 まじか!? 俺は歓喜に声をあげようとするのを必死に抑えた。あぶねええ。あまりのうれしさに叫ぶところだった。

 俺が一人興奮していると里香はブラウスに手のボタンに手をかけて……待って!? 目の前に俺いるんだが……ああ、そっか催眠術で記憶を消すから気にしないつもりなんだ。でもさ、これでこいつの着替えをみていたら俺最低過ぎないか? 



「なんかやたら視線を感じる気がするんだが……大和目をつぶっていてくれ」

「ああ、わかった」



 助かったぁぁぁぁぁ。俺は指示に従い目をつぶる。するとなんだろう、布のこすれる音が聞こえて俺の想像力を刺激する。さっき抱き着いてきた時とかさ、胸があたったりしたんだよな……ああ、だめだ。目の前にあるのはかーちゃんの裸かーちゃんのはだか!!!!! くっそ、ルーティーンやってもおちつかねぇぇぇぇぇぇ。だって、落ち着いたと同時に音がきこえてくれるんだぞ。無限ループってこわくないか? てか、好きな子が着替えている横で、エア眼鏡をくいくいやってる風景異常じゃない? 俺が天国のような拷問を味わっていると、ようやく音が止んだ。



「大和目を開けたまえ」



 目を開くと、そこには天使がいた。黒髪のツインテールの美少女が顔を赤らめながら、俺の目の前に立っていたのだ。しかも、その表情はいつもの意地の悪い笑みではなく、羞恥に満ちたはにかんだような笑みである。そして絶対領域!! はー!可愛い! はー!可愛い。やっばいなこれ! やっばいなこれ! 思わず抱きしめそうになるが、ルーティンで己を落ち着かせる。



「こんな格好で、変じゃないだろうか……?  私より涼風さんの方が似合うんじゃ……」

「むっちゃいい!! お前脚長くて綺麗だよな。その絶対領域最高だよ。里香だからいいんだよ!!」

「かつてないほど饒舌!! うう……褒められているのにきもい……でも、褒められてうれしい自分が憎い」



 こいつきもいって言いすぎじゃないか? さすがの俺も傷つくんだけど……それはさておき、スマホで写真を撮ったらダメだろうか? 永久保存したいんだけど!!



「でも、大和はこういうのが好きなんだな……、あれかな?ご主人様とか言ってほしいのか?土下座でもしたら……」

「お願いします!!」

「早いな、こいつ!? 本当に催眠術かかってるんだよな?」



 俺は躊躇なく土下座をした。楽園が目の前にあるのだ。躊躇している余裕はない。なにやら怪訝な顔をされたが勢いで誤魔化すしかないだろう。




「仕方ない、一回だけだからな……その……ご主人様、今日は何かしてほしいことがありますか?」

「そうだな……、ふとももにキスをさせてほしい」

「は? なんだって?」

「ふとももにキスをさせてほしい」

「ひぇ……幼馴染の歪んだ性癖を知ってしまった……」



 大事な事だから二回言ってやったぞ!! なんかむちゃくちゃひかれた気がするが、まあ、いいだろう。俺がつぶらな瞳で理香をじっとみつめていると彼女はなぜか顔を真っ赤にしながら、「うー」と唸り始めた。頭平気かな?

 そしてなにやら意を決したかのように彼女は俺を涙めで睨みつけた。



「くっそ、そんな目でみられたら断れないだろう……少しだけだからな……」

「よっしゃーーー!!」

「なあ、大和……本当に催眠術かかってるんだろよな? 本能に忠実すぎないか?」



 そういいつつも里香はメイド服のスカートを徐々に上げていく。その結果、スカートに隠されていたふとももが少しずつあらわになっていく。普段は意地の悪い笑みを浮かべている里香が、本当に恥ずかしそうにしている姿が可愛らしく、俺のテンションを上げていく。ああ、楽園はここにあったんだな。そして俺はふとももに顔を近づけ……



「ただいまー、バカ大和、まだ里香さんいるの……?」



 撫子が帰ってきやがった。そして扉を開けて時がとまる。メイドを着てスカートを上げている里香とそのふとももにキスをしようとしている俺、彼女にはどういう風に見えるのだろうか。見えるだろうかじゃねえよ、最悪じゃねえか。ただの変態同士のプレイだよ。なんならまだ、普通にイチャイチャしているところを見られた方がましだわ。



「兄と将来の姉候補がイヤらしいことしてる!? 失礼しました!!」

「大和!! 撫子ちゃんを捕まえろ!! 催眠術で記憶を消す!! このままでは私は恥ずか死してしまう」

「当たり前だ、任せろ!! 兄としての尊厳を守らねば!!」

「きゃー、来るなぁぁぁ、変態兄ぃぃぃぃ!!!!」



 そうして俺と撫子の追いかけっこがはじまるのであった。


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