12.二人の日常

 映画を見た後俺と里香は、何やら別の用事があるという撫子と涼風ちゃんと別れ、俺の家に来ていた。せっかく駅の方に来たので外食でもいいかなと思っていたが、なぜか里香がうちに来たいと言ったのだ。本当はおしゃれなお店でも行ってデートっぽいことをしたかったのだが、残念だ。でも、どうしたんだろうな? まさかまた、催眠術をかけるつもりなのだろうか? などどくだらないことを考えながら作った手料理を振舞って俺の部屋で談笑していた。



「でも、よかったのか? 俺の料理でさ。せっかく外出したんだし、どっかで食べるのもいいかなっておもったんだが」

「まあ、そうなんだが、無性に大和の料理が食べたくなったんだよ、迷惑だったかな」

「いや、里香ってすごいうまそうに食べてくれるからこちらも作り甲斐があるしな。まあ、撫子とお前くらいにしか振舞ってたことないけど、撫子は最近ほめてくれないからさ……」

「撫子ちゃんも、大和の料理はおいしいって言ってたよ。多分照れてるんじゃないかな? でも、そうか……大和の料理を食べれるのは撫子ちゃんと私だけか……なんか嬉しいな」



 そういうと彼女は嬉しそうにはにかんだ。素直な反応に俺はドキリとする。いや、今思えば彼女が素直な反応を返すことはちょくちょくあった気がする。これに気づけたのはおそらく、一方的な片思いだと思っていたのに、里香も俺もお互い悪い気持ちを抱いていなかったというのがわかり、俺に多少の余裕ができたからかもしれない。でも、催眠術の件からちょいちょいこういうのが増えてきたな。そのたびにドキっとしてしまうから心臓に悪いが、正直嬉しい。



「でも、後片付けはまかせちゃっていいのか? 今日結構お洒落をしてきたんだろ、汚れるぞ」

「ふーん、誰かさんはお洒落をしたって思ったんだ。クソみたいな褒め方しかしないくせにな」

「普段クソみたいな恰好しかしなかったやつがまともな恰好をしたら俺でも気づくわ。でも、せっかくお洒落したならずっと外にいたいものじゃないのか?」

「いいんだよ、私のお洒落した目的は達成されたからさ。それとも大和は、お洒落をした可愛い私と一緒に歩いて羨望のまなざしでみんなでみられたかったのかな?」

「はいはい、そうだなー。一切会話しないで歩いていれば、みんな羨望の目でみてくれるだろうさ」



 そういうと彼女はいつものように、意地の悪い笑みを浮かべた。まあ、確かにお洒落をした里香はいつもより可愛いんだよな。今も短いスカートから出ている脚がまぶしいし……

 会話も一区切りついて、手があいたからか里香は俺の本棚をのぞいて。漫画をパラパラとめくりはじめた。なんかいいよな、こういうの。一緒にいるのが当たり前ってかんじで……

 だからこそ、俺はちょっと踏み込んだ一言を言ってみる。きっと彼女も同じ気持ちだと思うから……



「なんかこういう風に一緒にいると同棲したカップルみたいでいいよな」

「は……? なにをいっているんだよ、こんな料理もろくにできない女と同棲したら苦労するよ」

「料理なんてできなくてもいいだろ。それより一緒にいて、自然なにいれる方が大事だな」

「ふーん、でもまあ、それなら私に料理を教えてくれないかな。一方的にしてもらっても申し訳ないしね。まあ、同棲以前に私達は付き合ってないんだけどね」



 今までぎくしゃくするのが嫌で、こういう事は言ってこなかったけれどがんばってみたのだがどうだろうか? 俺はおそるおそる彼女の方をみるが、うまい具合に本で顔が隠されており、その表情は見えない。

 しばらく、沈黙が続いていたが、本を置いた彼女はいつのも意地の悪い笑みをうかべていた。でも顔は真っ赤である。多少は意識してくれただろうか。



「それにしても、変な事をいうやつだな。気分転換をしようか。さてさて、エッチな本はどこかな?」

「そんなもんねえよ。あんまり掃除してないから汚いんだよ。あんまりみるなって」

「嘘だね、時々ゴミ箱から変な匂いしているよってクレームが来てるよ」

「え、ちょっと。待った!? 嘘だろ? いやいや、まじなの? どっから来るんだ。そんなクレーム!!」

「私はよくわからないけど、撫子ちゃんが愚痴ってたから気を付けた方がいいんじゃないかな? まあ、男子高校生だしそういうこともあるよな」

「最低な内部告発ー!!」



 想定外だー!! 待って欲しい、撫子はいつもそんなこと思っていたのだろうか? それなら言えよ。幼馴染越しにそういう事が伝えられるのがしんどいし、身内にそんなこと愚痴られるという事実がすごいつらいんだが……というか、里香の中途半端にわかっているって顔がむかつくな。

 俺が世界に絶望していると、里香は俺のベットに腰掛けながら意地の悪い笑みを浮かべていた。



「エッチな大和の部屋にいる私はどうなってしまうのかな? ああ、一瞬でも触れたら私のスマホが警察に助けを求めるからね」

「ならねえよ!? 今更だろ。何年間お互いの部屋行ったり来たりしてると思うんだよ!?」

「ふーん、私じゃならないのか……どうせ、私は涼風ちゃんのように可愛らしくはないからな!!」



 俺の言葉に、彼女はなぜか不機嫌そうな顔をして、こちらを睨んできた。そして、ベットの横に置いてあったであろう漫画を読み始めてしまう。表情が見えない。でもなぜか、少し寂しそうな感じがしたのだ。

 ああ、またやってしまった……俺はつい憎まれ口を叩いてしまう性格を悔いる。だか、なんていえばいいんだ? 本音を出して「お前の綺麗な脚が素敵だし、実は今すごいドキドキしてるんだー!! 結婚してくれ!」とか言ったほうがやばいだろう。どうすればいいというんだ…… 俺が何か言おうと悩んでいると里香が先に口を開いた。



「なあ、大和……催眠術って知ってるかな?」

「は?」



 またこのパターンかい!! こいつ脳の思考回路がバグってるんだろうか。

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