23.テスト前日

「大和やったな、最高記録じゃないか!! さすが私のライバルだ!!」

「ははは、俺はやれる、やれるぞ!! 今の俺は阿修羅すらも凌駕する存在だ!!」



 青木と里香が作ってくれた模擬テストの採点が終わり結果を聞いた俺と里香は夜中だというのに、大声をあげながらハイタッチをした。

 いよいよテスト前日の木曜日ということと、これまでで一番いい成績をとったこともあり、俺達は最高にハイってやつになっていた。自己催眠による集中力の向上、青木のテスト範囲の特定、里香の家庭教師この三つにより俺はかつてないほどの出来栄えである。今なら二桁は確実だと思いたい。あとはひたすら復習をするだけである。



「結構いい時間だな、送っていくぞ」

「いや、大和はもうゆっくり休んだ方がいいよ。こんなじかんに白衣と制服を着た女を襲う奴なんていないだろ」

「いや、里香は美人なんだから危ないだろ」

「ふーん、大和は私の顔が本当に好きだな」



 そういって、彼女は嬉しそうに笑った。ちょっと攻めすぎただろうかと思っていながら、玄関へと向かう。やはり、一緒にいたいし、強引にでも送ってこうかと思っていると、撫子が声をかけてきた。



「今、外の雨すごいですよ、よかったら、泊って行ったらどうですか?」

「え……さすがに悪いだろう。着替えとかもないし……」

「大丈夫ですよ!! パジャマとかなら私の貸しますし、ね、バカ大和も里香さんがいたほうがいいよね」

「ああ、そうだな……わからないところとかもあったら教えてもらえるし、小学校の時とかよく泊まったじゃないか」

「そうだね……じゃあ、お言葉に甘えるよ、お風呂とか覗くなよ」



 そういうと里香は意地の悪い笑みを浮かべて言った。そしてスマホで電話をかけ始める。撫子をみると目線で「がんばって、バカ大和」と訴えてきた。何をがんばれっていうんだよ。テストだよな?



「ああ、母さんか、今大和の家だけど……雨もすごいし、今日は泊めさせてもらうことになったから……違うから!!イチャイチャとかはしないから!! 何度も言うように私と大和はただの……いや、もういいから。大和に代わるから。変なことを言わないでくれよ」



 親に電話をしていた里香がなぜか顔を真っ赤にして、俺にスマホを渡してくれる。ああ、お母さんがお礼を言いたいってだろう。俺はスマホを受け取り、里香の母と話す。



『あらあら久しぶりねー。大和君元気?』

「はい、おかげさまで。というわけで里香さんは今日はうちに泊まらせていただきます。撫子もいるので安心をしてください」

『里香ったらいつもは皮肉ばかり言ってるでしょうけど、大和君の事大好きなのよ。責任をとるなら手を出してもいいからね』

「母さん!? なにをいっているんだ」



 慌てた里香によってスマホが奪われて、そのまま通話は切られる。ゆでだこのように顔を真っ赤にししている里香をみていると睨まれた。



「なんだよ、いやらしい目でみてさ」

「里香って家で俺の事なんていってるんだよ」

「ふん、想像にまかせるよ。撫子ちゃんパジャマをみせてもらってもいいかな」



 そういうと彼女は足早に去っていく。撫子がそれについていく「里香さん照れてて可愛い」といっていたがまさにその通りだと思った。



 その後里香はうちに泊まることになっただが、マジで何にもなかった。お風呂でのラッキースケベも、萌えるような展開も何もなかったのだ。まあ、お互い次の日テストだしな……そしてそのまま寝ようと話になったのだが、どうも不安になって復習をすることにした。 

 とりあえずきりのいいところまでと俺は勉強をしていたのだが、いつの間にか眠っていたようだ。そして今、気づいたら頭の下に柔らかい感触と髪をなでられる感覚に襲われている。



「大和はいつも私を助けてくれるよな。実はさ、小学校の時に大和が声をかけてくれて嬉しかったんだ。あの時はまさかこんなに長い付き合いになるとは思わなかってけどね。大和……君が私をライバルって言って仲良くしてくれて本当に感謝しているんだ……」



 どんな状況だろうと思ったが、今は寝たふりをしていた方がいい気がする。多分だけれど、里香に膝枕をされているようだ。薄目を開けると里香が優しい顔で俺をみつめていた。状況を考えるといつのまにか寝ていたらしい俺の様子を見に来たといったところか。




「でもさ、大和は私を『特別で大切なライバル』だっていったろ? あの時は私も一緒の気持ちだっていったけどさ。あれは嘘なんだ。ごめんな。私がもしも、君のヒロインになりたいっていったらこの関係は変わってしまうのかな。昔と違ってライバルじゃあ、私はもう我慢できないんだよ……強欲でごめん……でも、この気持ちは本物なんだ」



 懐かしさと、嬉しさが混じった彼女の言葉を聞きながら俺は昔を思い出すのだった。



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