24.大和と里香

 赤城里香との初めての出会いは小学生の時だった。この学校に神童とか呼ばれている少女がいる事は知っていたが当時の俺はアニメや、ゲームの方が大事だった。だから、彼女と同じクラスになっても接点はなかった。彼女に興味を持ったのはテストが返ってきた時の反応だった。周囲の皆が何点だった? とかどうだった? とか騒いでいる時も彼女だけは冷めた顔をしていたのだ。その横顔がすごい大人びていて、ドキッとしたものだ。そこからは気づいたら、視界の端で彼女を追うようになっていた。多分その時に俺は彼女に惚れたのだろう。本当にささいなきっかけだったけど、俺は恋に落ちた。それから少しして、教科書を読んでいる里香に勇気を振り絞って声をかけてみた。



「赤城さんは頭いいんだね、なんかコツがあるのかな?」

「別に教科書を読んでいるだけだよ」



 そして彼女は再び教科書を読み始めた。それで俺が勇気を絞って始まった会話が終わってしまった。俺にとって彼女は特別だったけど、彼女にとって俺はモブキャラだったのだ。俺はへこんだ。ガチへこみをした。そして考えた。俺がモブから、彼女に認識されるための方法を……それは、好きな子に意地悪するガキそのものの手段だったけれど、結果的には成功だったと思う。

 ある日のテストの日の事だ。俺は国語で100点をとった。別にすごい事ではない。他の教科を犠牲にしたからな。でも、その答案をもって彼女の元へと向かった。ちらりと見えた答案は96点だ。俺はなるべくいやらしい感じの笑みを浮かべて言った。



「天才赤城も大したことないなぁ、俺の方が頭がいいじゃん」

「なっ……」



 俺の言葉に、無表情だった彼女は顔を、真っ赤にして言ったのだった。彼女は負けず嫌いだったのだろう。とても安い挑発だったけれど、彼女は乗ってきた。



「今回は手を抜いただけだ!! 君になんて負けるはずがないだろう?」

「はっ、じゃあ、次のテストで勝負だ!! 俺がお前のライバルになってやるよ」

「望むところだ。ほえずらをかかせてあげよう」



 それからはテストのたびに勝負をするようになった。彼女は結構根に持つタイプだったようで、わざわざ俺の席の前にきて意地の悪い笑みを浮かべて答案をみせてくるのだった。ちなみに、結果は全敗だった。というか、全部100点とかふざけてるだろ。勝てるはずがない。だから俺は、作戦を変えた。先生の質問に答えるたびにどや顔で彼女に笑いかけると彼女も対抗するようになった。そんなことをしているうちに俺と彼女は仲良くなっていったのであった。ある日彼女と一緒に帰っていると、不思議そうな顔で聞いてきた。



「君はなんで私に構うんだ?」

「その年で神童とかよばれてるのって悪の科学者っぽいじゃん。ちょうどそんなアニメにはまってるんだよね。主人公のライバルなんだよ」

「死ね」



 俺はぶん殴られた。もちろんそれは照れ隠しだったけど、確かにそのキャラは彼女に似ていたのだ。そしてそのアニメの話をしていると彼女が興味を持ったようだったので、彼女の家でそのアニメのDVDを観にいくことになったのだ。初めての異性と部屋に行くという事でドキドキしていた気がする。そして一緒にアニメを観た後に彼女は言ったのだ。恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに言ったのだ。



「初めてだけど、友達と遊ぶっていいもんだね、今日はありがとう、緑屋」



 その顔があまりにまぶしくて、俺は胸がドキドキしてやばかったことを思い出す。でも、ひとつだけ訂正しなきゃいけないことがあった。



「俺達は友達じゃないよ、赤城…」

「え……そうだよな、私となんて……」

「ライバルだよ、友達よりも大事な関係だぞ、だってライバルがいなければヒーローは輝けないんだからさ」



 一瞬泣きそうになった顔をだった里香は、一瞬驚いた顔をして俺の言葉で再び笑顔がよみがえった。




「そうか……ライバルか……友達より上なのか……だったら、ずっと一緒にいてくれよ、私にちゃんとついてくるんだよ」

「当たり前だろ、俺達はライバルなんだからさ」



 そういって笑い合うのだった。そしてそれから俺達はもっと仲良くなった。里香のお母さんにも「里香をよろしくね」とか言われたり、それがきっかけでお互いの家を行き来するようになって、家族同士でも交流ができたりしたのだ。

 中学になって俺はもう、里香には勉強では歯が立たなくなったけど、彼女が俺がなんとなくやっていたバスケの試合を観に来た時シュートを決めた時に言ったセリフはいまでも覚えている。



「やっぱり大和はすごいなぁ、私のライバルなだけあるな。それに……悔しいけどかっこいいと思ってしまったよ」



 そういって「えへへ」とはにかんだ笑顔に俺はまた彼女に恋をした。俺は彼女の笑顔を守りたいと思ったんだ。ずっと近くで見たいと思ったんだ。だから……里香の笑顔を曇らせた灰崎には負けるわけにはいかないんだよな。そして試験の日がやってきた。




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