42.二人の歩み
多少の恥ずかしさと嬉しさが心の中で混ざりながら俺は映画を観ることにする。昔見たキャラたちが騒ぐ姿は俺達の出会いを思い出させた。あの頃は俺と彼女はただの友達で、俺の片思いで……そしてライバルになり、中学では親友と呼べるほど仲良くなって、その時に実は両片思いで……高校になっても親友のような幼馴染で、ようやく俺達は一歩進み始めたのだ。
隣に座っている里香も成長したものだ。小学生の頃と同様に一見冷たい印象を受ける整った横顔だが、意外と表情豊かな事を知る人はあまりいないだろう。俺も最初は無表情な彼女が実は怒っているのかななどと不安になったものだ。でも今は、得意げな顔や意地の悪い笑みなど様々な表情をみせて俺を楽しませてくれている。それは彼女が成長したという事である。少なくとも昔よりは人と関わるようになった。俺は何か成長しているだろうか?
そんなことを思いながら、俺はさらに一歩関係を変えるために意を決して彼女の手を握る。不安になりながらも彼女の顔を見ると里香一瞬体をびくっとさせたが、画面から目を離さない。
だけど、彼女は手を握り返してくれた。俺は嬉しく思うと同時に里香に意識がいってしまい、映画に集中できなくなってしまった。だけど、俺の胸は幸せな気持ちに包まれていた。
やがて映画が終わりエンドロールが流れ始める。俺がそろそろ席を立とうと思い里香を見るとなぜか唇を尖らせたまま、こちらを不機嫌そうに睨んでいた。あれ? なんで怒ってるんだ?
「大和のせいで映画に集中できなかったじゃないか……私は楽しみにしていたのに……」
「ああ、悪い……つい触りたくなったから。でも嫌だったら離してくれても……」
「別に嫌とは言ってないだろ? 時と場合をわきまえろって言ってるんだよ。罰として今度また映画に連れてけよ」
「それって……」
そういうと彼女は顔を真っ赤にして、こちらを見つめてくる。またデートに行きたいってことでいいんだよな。俺が手に力を入れると彼女も返してくれる。それだけで彼女の気持ちがわかった。俺は笑顔で彼女に話しかける。
「さて、行くか」
この後はちょっと奮発してレストラン街でイタリアンでも食べて、雰囲気がいいところにいって勝負の時である。俺は気合をいれて声をかけたのだが、彼女は渋るように動かない。
「まだ、いいんじゃないか? ちびっ子たちが出てからでさ。誰かさんがいたずらしてきたせいでポップコーン全然食べれてないし」
「いや、でも、いつまでもいたら映画館の人に迷惑だろ……」
「だって……大和がせっかくつないでくれきてくれた手を離したくないんだよ」
彼女からのかつてないほどのデレたセリフをきいて俺は思わず里香の顔を見る。顔を真っ赤にして上目遣いでみつめてくる。その表情があまりに可愛らしくて、愛おしくて……俺はさきほどまで考えたことが頭から飛んで、思わず口に出していた。
「里香大事な話があるんだ。ちょっとついてきてくれないか?」
「え、ああ、別に構わないけど……」
そうして俺は里香と手を繋ぎながら映画館を出るのであった。
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